第20話:ろくなもんじゃねぇ
「ねーねーみかどちんはなんでミニ四駆なんてもっさいもんやってんのさー♪ちょっとこんなむさいとこじゃなくって、カラオケ行こうよカラオケー♪あーでもスタバ!スタバでステキなカフェモカる?モカかも?いいよねースターバックスカフェ略してス・タ・バ♪」
(なにこの人、超ウザい)
他の部員とのあまりのテンションの違いに引きまくるみかど。
さもうんざり、といったように火野がため息をついた。
「な?俺の言った意味、わかっただろ?」
「はい……これは……アレかな……」
「んー?なんて伝えたのー?」
「糞クソ&クソ」
「ちょっとーーーひっどくなーーい!?」
ガタイの割に話し口調や態度が女の子っぽいことでさらに引きまくるみかど。
「ぴぃぴぃぴぃぴぃ、うるせぇよ。部のために名前貸してくれたことには感謝してる。でも……ほんときっついんで、帰って頂いてもよろしいでしょうか?」
「ほーんと火野ちんはイケズなんだから……あったしだって今日はミニ四駆、持ってきたのよー♪」
(あー……そうか、オネエ臭いんだこの人。人生で初めて出会いました、オネエ系。)
「あらーみかどちん。なんて憐れみ溢れる眼差しであったしのこと見つめちゃってるのときめいちゃってるのもしかしてやだー♪」
「そんなんじゃないです」
「なんか冷たい感じね、寒いの?クールビューティ?」
「……ツラいです、部長」
「人生前向き一直線なみかどがこうなるんだもんな……ツラいだろ……」
「そんなこと言わないでよもー♪あったしのミニ四駆、見て見てみてよ」
煌びやかな箱から取り出したのは……ダンシングドール。略称、DD。
真っ赤な角ばったボディがかわいらしいが、ネイルアートのようなキラメキ溢れるデザインとなっていた。
(うん、これ、素組みだ)
しかしそれは、みかどにも一目でわかってしまうほどの、買ってそのまま組み上げただけのマシン。
ボディだけがカスタマイズされている、コンクールデレガンス用のマシンのようだ。
「レースしましょう♪みかどちんは女の子だもんね、あたしに勝てるかしら?」
「……部長、やっちゃっていいかな?」
「おぅ、思い切りかましてやれ」
2台がスタートグリッドにつく。
「新人ちゃんの実力、見てあげるわ♪」
「……ツラい」
「いくでありますぞ!レディー……ゴー!」
軽快に走り出すダンシングドール。
しかし、みかどは超帝から手を離さない。
「あれれー、スタートしないのー?」
「ハンデあげます。1周。」
「はぁ?バカにしすぎーもー。3周しなきゃなんないのにー?」
「……行きます」
ダンシングドールが1周目のゴールに入る瞬間、同じレーンで超帝をスタートさせる。
「……え……?なにこれ……?」
「土井、それが本気のミニ四駆だ」
超帝があっという間に1周、回りきる。
3周目のラスト前にはダンシングドールを軽くパスし、そのままゴール。
「なに……これ……」
「ミニ四駆はセッティングやモーターをこだわり抜けば、これだけ速くなるんです」
「でもこれ……ちょっとやそっと触っただけじゃこんな……」
「あたしはミニ四駆で速くならなきゃいけない理由があるんです」
みかどは土井の瞳をまっすぐに見つめた。
「ちょっと待ちなさいよ、詳しく聞かせなさい」
みかどの真剣な眼差しに土井も冷静になる。
実は……と、事の顛末を話す。
失踪した兄のこと、ミニ四駆を極めれば兄を見つけられるかもしれないことを。
「火野ちぃぃーーーん!あったしもぅ決めたわ!この子に協力してあげちゃう!!」
「お、おぅ…お前が部室に来ないのがコイツにとって一番ありがたーー」
「ううん、今度大会出れるんでしょ?あったしも出てあ・げ・る!!」
「げっ、いいよ、お前のマシンじゃ無理だって!」
イヤイヤと火野の腰元にすがりつき、キラキラと哀願の眼差しを向ける。
はっきり言って気持ち悪い。
「これからがんばるからぁ……こんな健気な子、ほっとけないじゃないのー!ね、だから協力させて♪ね?ね?ね?」
「わかったから、抱きつくな、いいよ協力してもらえるならほんとありがたい。ただ、本気でやってもらわなきゃ困る」
「わかってるわよ!ちょっと時間ちょうだい、しっかり改造してくるから!!」
「できんのか?」
「オトコに二言はないわよ」
(いちおう設定は男なんだ……)
「とりあえず、1週間、1週間で仕上げてくるわ♪」
「うん、まぁ、無理はすんな」
「待っててね火野ちんみかどちん!あったし帰ってくるからねーーーー」ばたん!
呆気に取られているみかど。
顔を手の平で覆いながらため息をつく火野。
「……はぁ、ドっと疲れた。なんなんですかあの人」
「俺の幼馴染の1人でな、良いやつなんだよ、ただちょっと変なだけで」
「変……」
やっぱり変態なんだ、とみかどは怖気をふるった。
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用語解説:
・ダンシングドール
略してDD。
ダッシュウォーリアーズのダッシュマシン5号で皇 凛子のマシン。
真っ赤なボディに黄色のポイントがイカす。
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