◆恋の課題と3つ目の指輪

挿絵

<1>


「きみが鈴蘭?」

 放課後の古い特別修練棟の校舎、階段の踊り場で鈴蘭は不意に、背後から自分が呼ばれるのを聞いた。聞き覚えのない男子の声に驚いて、彼女は振り向く。頬の周りで長く伸ばした黒い髪が揺れた。

 見上げると一階からゆっくりと男子生徒が上ってくるところだった。どこか訝しげな顔つきで、そう、決してにこやかではない表情で自分を見ている。

「そうだけど…」と、鈴蘭は頷いた。

 彼が自分の前に立った。グレーのニットベスト、白いシャツ、それに学校指定の細身のトラウザーズを身につけて、足は鈍く光る炭灰色チャコールグレーのウィングチップの革靴だ。

「僕はリシア。三年生だ」

 そう名乗った上級生は、黙ったままの鈴蘭を窺うようにじっと見ている。

 灰色がかった淡いブルーの髪、同じ色の目、勿忘草色、というのだろうか。

 さらに加えて、白い肌。神経質そうな細い顎。

 状況を把握しきれずぽかんとした表情で突っ立ったままの鈴蘭に向かって、彼はどこか不機嫌そうに続けた。


「不本意だけど、きみの恋に協力するよ」

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