第十五話 覚醒?
縁ちゃん視点です*****************************
『ええっ? あれって先生が止めたんじゃなかったんですか?』
お仕事のない間の二人だけの部屋♪
またコーヒーカップを掴む自主練に励もうとしていたら「あれ? もうできるんじゃなかったのか?」って先生。
そのあと話してもらった内容に、わたしは思わず叫んでいたッ。
なのに、いつもどおり冷静なままの雨守先生。
「いや。
あれは後代が文字通り体を張って止めてくれたんだよ。
それで俺は包丁握った稲田君の腕を掴めたんだ。
でなけりゃ稲田君に顔面パンチ喰らわせて止めるつもりだった。」
そっ、それは栗田さんの手前、そんなことにならなくて良かったけど。
でもでも。
『私が? この体で?
稲田君の腕を止めていたってことですか?!』
「うん。
稲田君はいきなり動けなくなったから、驚いて目を開けたんだ。」
『幽霊の私を見たからじゃなくてですか?』
「動けなくなったのが先だったよ。
だいたい後代のことも、あの時何が起きたのかも、
彼はよくわかってなかったんじゃないかな?
俺がすぐ栗田さんに振り向かせたしさ。」
『え~ッ?
体で止めたって言われても背中から包丁突き出ていたし。
なんだか変な感じですよぉ~。』
「常識で考えない方がいいって言っただろ?
後代はあの時、なにか感じなかったのか?
痛みとか?」
『痛くはなかったですけど……。
でも無我夢中だったから、何をどうしたのかすら覚えてないですッ。』
私の答えに少し考え込んでから、先生は何かひらめいたみたい。
「そうか!
無我夢中だからできたんじゃないのかな。
やはり直前に強く思ったこと、感じたことがきっかけになるのかも。
あの時は稲田君を止めたかったんだろ?」
うう~。それもあるけど。
一番は先生を守りたかったからだもんッ。
先生を……。
あ、でもそうか!
その集中力なら絶対的自信が私にはあるわッ!!
『先生ッ!
なにについて無我夢中になってるか、私わかってるんです!
今も、そんな感じなんですけどっ!!』
「そうか! コーヒーカップ、掴めそうか?!」
違うよぉッ!
『そんなことより先生は協力を惜しまないって言ってくれましたよねッ?』
「うん。言った。」
『立って両手を広げてください!!』
「ん? こうか?」
やった!
私を信じてくれてる先生、大好きッ!
『もっと上にあげて~ぇ。』
あーん、もう飛び込みたいような姿勢にッ。
『そうそ~う。そのまま~。
行きますッ!!』
もうためらいもなく先生に向かって飛んでいく!
ギュってしてくださいッ!
でもでもきゃあッ、迫ってきたら恥ずかしくて目を開けてられないよぉ!
「うわッ、ちょっちょっ!」
慌てたってもうダメですッ!
きっと先生の体で私は受け止められるッ……はずなのにいッ?!
『あれえ? すり抜けちゃったぁ……。』
目をあけたらそこには壁があった。なんでぇ~?
先生のことだけしか考えてなかったのにィ……。
振り向くと、一人先生は興奮してる。
「あ~びっくりした!
でも今までにない気圧って言うか、空気の渦っていうか!
そんな強いものを感じて、よろけたよッ!!
凄いじゃないか、後代!
今の、もしうまくいってたら俺、弾き飛ばされてたよなッ?!」
『ふえ~ん。そんなことしませんよ~。』
「いやまて……そうか!
相手をふっとばしたいなら、むしろ狙いを絞った方がいいのかも。
一点集中でさ!」
『だから違うんですってばぁ~。』
も~う!
どうしてそんなに鈍感なんですかッ!
「まあ、うまくいかなかったからって、そうしょげるなよ。」
うえ~ん。
すごーく自然な成り行きだったせっかくのチャンスなのにィ。
すっかり放心してる私の頭を、先生は手を伸ばして撫でる真似をした。
するとその時、私の頭を中心に、まるで私の全身が水面になって波紋が広がってくように、ゆったり、穏やかな、今にももう成仏しちゃうんじゃないかってくらいの心地よさが広がった。
『ぁふアあぁん♪』
「へ! 変な声出すなよ!」
あまりの気持ち良さにおかしくなりそうだったけど、なんとか正気を保って叫んだ。
『先生ッ!
これ!
前にこずかれた時よりも凄かった!
私、今、先生の手を感じたんです!
もう一回やってください!
もう一回!!』
なのに先生はうろたえながら後退りする。
「ご、ごめん。
俺も前から気にはなってたけど、
実はちょっと後代の反応にビビってるというか、その。」
私ならともかく、先生がどうして赤くなってるんですか?
『協力してくれるって言ったじゃないですかッ?!』
私、必死!
「と、とにかくまず……後代、よだれ拭こうか?」
ふああッ
一気に血の気が(ないけど)失せるッ!
そんなぁ~
とってもみっともないとこ見られちゃたよぉッ。
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