脱走

 牢屋の端で横になる。

「鉄格子側に足が来るようにして横向きで丸々ように」と女の子から細かく指示が飛んだ。


 その通りにすると、女の子は何故かわしのスカートを捲し上げてきた。


「このまま動かないで!声も上げても駄目よ!死んだふり!」


 慌てるわしを押さえつけ、そう言いつけてきた。

 そんなこといわれても、これではあちらから丸見えである。


 羞恥心でプルプル体を震わせていると「監視のお兄さん!たいへんよ!」と女の子が監視の男を呼びつける声が聞こえ震えが止まる。

「いきなり苦しみだして倒れちゃったの!」

 女の子の「どうしよう」とオロオロうろたえる演技は見事だった。

 わしも負けずに死んだふりを続けないと。


 鉄格子が開く音が聞こえてきた。どうやら男が牢屋に入ってきたらしい。

 心臓がバクバク言う。


 それで?これからどうするんじゃ?いつまで死んだふりしておればいいんじゃ?


 わしの生存確認するため男が傍に膝をついたのが気配でわかる。

「おい、どうした」

 生きてるかどうか確認で肩でも揺すられると思った矢先、太ももからお尻にかけてを無骨な指が撫でた


 ひいっ!

 あまりのおぞましさに体が引きつった。まずかったとは思ったがどうしようもない。

 やめんか!と往復ビンタでもくらわせてやりたいところだ。


 次の瞬間低い声をあげた男がわしの腰に覆いかぶさってきた。


 こりゃ、もう我慢出来ん!

「ええ加減にせえ!」

 ガバリと起き上がったわしは男を猛烈に叩き、足で蹴り除けた。

 思い切り罵ってやろうと男を見ると地面に転がったまま動かなくなっていた。


 しもうた!やりすぎたか!

 ぐったりとなった男を前に青くなっていると「巧くいったわ!」と女の子がウインクを投げてきた


 どうやら男が倒れたのは、わしが叩いたせいではなく女の子が首に踵落としをしたせいらしい。なんと末恐ろしい子よ。


「今のうちに逃げるわよ!」

 男からカギを奪い牢屋から脱出する。

 牢屋以外あまり警備は厳重ではないようだ。

 何人か人がいたが、誰も何も警戒しておらず目を盗んで通り過ぎるのは容易いことだった。


 建物の外にでると周囲が壁に囲まれていた。

 出るためには門をくぐるしかないのだが、門には当然門番が立っていた。


 こりゃ無理じゃ。


 なんとか牢屋を脱出したはいいがここでお縄となりそうじゃ。

「こっちよ!」

 わしが絶望していると、女の子が裏側へと誘導してきた。そちらに行ってみると高い塀が崩れている箇所があった。

 どうして女の子が知っているのかというと牢屋の窓からここが見えていたそうだ。

 ただ崩れていても一人では登れる高さではないので二の足を踏んでるところ、わしが入ってきたのでこれ幸いと思ったらしい。


「一人は無理だけど、二人ならなんとかなるわ!ほら、台になって!」


 言われるがままに壁に近付く。

 両手を組まされそこに足をかけた女の子は、わしの肩へと登る。


「行けそうかの?」

「もうちょっと、伸びれない?」


 伸びるといってもこれ以上は無理じゃろう。いま精一杯背伸びをしとる。

 なんとか手を上に伸ばして女の子の足を引き上げる。

 もう限界っというところで女の子の重さがスッと消えた。


 全力を出し切ったわしは地面に座り込み、登り切った女の子を見上げる。

「よかったよかった」と満足げに頷いたところで、ふと思った


 それで、わしはどうしたらええんじゃ?


「ありがとう!あなたのおかげで助かったわ」

 女の子が塀の上からにっこりとお礼を言ってくる。

 そして……


「じゃあねえ~」


 ひょっ?


 そのまま女の子は塀の向こうへと姿を消した。

 それから二度と女の子が顔を出すことは無かった。



 背後の方で「奴隷が逃げたぞ!」という怒声が聞こえ背筋が凍りついた。

 あっという間に見つかり、あっという間に取り押さえられた。


「なめたマネしてくれるじゃねえか。覚悟は出来てるんだろうな」


 人相の悪い男達に体を固定され、中でも一番人相の悪い男に痛いほど顎を掴まれた。

 怒気をはらんだ顔で睨まれ、体が硬直する。


 覚悟なんてできとらん。できとらんよ。


 でももうきっと謝っても許してもらえそうにないことだけは理解できた

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