フェナントレン

 ふと目が覚める。


 あれ、おかしい。俺はいつの間に眠ったんだ?


 体を起こすとクロが椅子に腰かけているのに気が付く。ベッドが二つあるのを見ると宿のようだ。



「どこだここ?」

「フェナントレンです」

「は?」

「方法は聞かないで下さい」


 窓に駆け寄り外をのぞく。

 クマリンと様式の違う建物がずらりと並んでいた。

 いくつか見覚えのないキンキラキンの大きな建物が目につくが小高い丘の上にある城は確かに見覚えのあるものだった。


「マジでか」


 一体どうやったんだと聞きたいが、先に釘を刺されてしまっている。


「すぐにキクを探しに行こう!」

 俺は飛び出そうとしたが、クロは全く動く気配を見せなかった。

「探すといっても、広いですからね骨が折れますよ」

「じゃあ、どうするんだよ!」

「明日奴隷オークションに出品されることに賭けましょう。今、出品予定表と会場への入場券の手配をしているので」


 奴隷商人でも、質より量を重視する奴と、量より質を重視する奴がいる。

 前者は、「夢の馬車」のようにどんな奴でも構わずとにかく捕まえて、広場で叩き売っていく。

 キクを浚って行った奴隷商人は後者で、外見がいい奴を選りすぐって捕まえ、金持ち連中にとにかく高く売りつける。奴隷オークションはそのための場である。

 キクの外見は良いからな。しかも珍しい銀髪紅目ときたらそりゃ狙われる。


 キクは無事だろうか。辛い思いをしてないだろうか

 奴隷と言えば手足をつながれ、暴行を受けてるイメージしか浮かばない。


 前者の奴隷商人ならその可能性は多大にあるが、後者の奴隷商人は少しの怪我でも商品価値が下がるため余程の問題児でない限り大事に扱われているから大丈夫とクロは言う。

 確かにキクが大暴れするとは思えないがじっとしていられない。


 ダメ元でも街へ探しに行こうとドアノブに手を伸ばした瞬間


「その剣は置いて行った方がいいですよ。アトル=バスタチン君」


 後ろからかかったクロの声に俺は総毛立った。


「……何言ってんだ」


 なんとかしらばっくれようと出した声はかすれていた。


「プロパさんに名乗った事は覚えてますか?」


「!」


 そうだ!オレ名前聞かれて名乗った!なんて名乗ったかは覚えてないがもしかしてフルネームだったか!?


 さっと血の気が引く。


「そうだろうと思ってあの後すぐに彼女を追いかけました」

 プロパさんはそういうの吐かせるの得意なので。


 確かにクロはラクタムから帰ったその足ですぐ出かけて行った。

 プロぱいに会いに行ってたのか。


「結構大変だったんですよ?」


 プロぱいにどんな大変な事をされたのかはわからないが、ゲンナリするクロを見て、とりあえず俺の命を狙ってはいない事がわかり胸をなでおろす。

 命を狙うどころか、クロは俺の知らないところでフォローに入ってくれていたようだ。


「お前はいつから気がついてた?」



 それらしいことは何度か言われた覚えはあるが。


「最初は半信半疑でした。シン皇子の一家全員、遺体が確認されてましたから」


「確信したのはその剣を手にした時です」


 シャラと俺の剣を手に取り、魔法石に触れる。

「知ってます?これ王位継承者の証なんですよ」

「普段は城の宝物庫に厳重に保管されているのでほとんど陽の目に出ることはありません。なので知る人は少ないですが、見る人が見れば気づかれる」


 汗が首を流れ落ちる。


「……やっぱり、知らなかったようですね」


 知るわけない。死ぬ間際に父上から託された剣だ

 そっと剣をかえしてきたので無言で受け取る。


「前皇帝の賢明な判断に感謝したいところですよ。

 いえ、前皇帝と君の父上シン皇子に」




「ご帰還、心よりお慶び申し上げます。アトル様」


「いえ、アトル皇帝陛下」


 そういってクロは恭しく頭をさげた。

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