暗転

「この度の働きご苦労であった」という言葉からはじまり、それはもう長ったらしい口上が述べられる。


 大体こういう式というのは暇でたまらないものだが、こんなに長いと感じたのは初めてだった。

 はやる気持ちをなんとかおさえて俺は待った。


 ついにメキシ=レチンの名が呼ばれ、短い返事があがる


 その声を聞いただけで神経が逆立った。

 何、いけしゃあしゃあと返事をしてやがる。


 アム兄が、ベラが、そしてニフェが体を左右に揺らしながら歩き敵陣へと消えて行った光景を思い出す。

 泣いても縋っても止めることが出来なかった。


 憎しみが吹き上げてくる。


 殺してやる


 怒りでどうしようもなく手が震えた。



 もう我慢できなくて飛び出そうとしたその時、



 何かが全身を貫いた。



 瞬間 息が吸えなくなる。


 息だけじゃない体も動かせない




 一瞬にして体が空気ごと凍り付いたような感覚


 肌がびりびりと痛い。

 全身の筋肉が硬直している。



 なんだこれは



 自分の体の異常に嫌な汗が背中を伝う。




 あまりの冷気に歯の根が合わなくなってガチガチと震え始めた。


 違う。



 これは「殺気」


 そうわかると更に恐怖が増した。全身がガタガタと震え汗が噴き出す。




 グッとかギャっとかいう声が上がり俺はビクついた。


 引き攣った悲鳴と共にビシャッゴトッベチャッグチョという薄気味悪い音も聞こえてくる。


 何が起きている?


 震える体を叱咤しなんとか目だけを外に向ける。

 世界が赤色に染まっていた。


 さっきまで大勢いた人が血にまみれ床に転がっており肉塊と血しぶきが辺り一面に舞い散る。

 まだ生きている人もいたが、逃げることもせず自分の番が来るのを震えながら待っていた。

 だがそれも一瞬のことですぐに肉塊に変わり床に崩れ落ちた。


 その地獄絵図に俺の体も竦み上がる。


 気が付いた時には生きて動くものはいなくなっていた。


 引き攣った肺が上手いこと空気を吸ってくれない。


 突然、俺の覗いている隙間に恐ろしい二つの眼がのぞき込んできた。




 声をあげる前に腹に衝撃が走り

 目をやると自分の腹に剣が刺さっていた。


 それはここら辺では珍しい片刃の剣


「……カタ…ナ?」


 声と共にゴボリと口から血があふれ出し、俺の意識は闇へと沈んだ。

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