アミオダロン
最近、失敗続きで全く成績を残せていない。今回こそは狩を成功させようと皆で対策を話し合う。
とにかくソタロールの妨害に合わないようにすることだ。
話し合った結果、囮を用意することにした。
単純な作戦だったが見事引っかかってくれたようだ。
ソタロールの奴等は現れず久しぶりに平和な旅となった。
だが残念なことに狩場に着いてみれば、別のチーム「アミオダロン」が先客でいた。
「どうする?狩っちゃう?」
草陰からアミオダロンの狩りの様子を皆でうかがう。
「割って入るとソタロールの奴等みたいで嫌だな」
「とりあえず様子見」
「アミオダロンが諦めるか、獲物がこっちに来たら狩ろう」
アミオダロンは倒し方が分からず奮闘していた。
「違うそこじゃない」
「もうちょい右!右を狙え」
「あーおしい」
弱点の部位を知っている俺達は戦いぶりを見ながらやきもきする。
正解を教えてあげたいが、そうすると俺達に順番が回って来ないので耐える。
そうこうするうちに、前衛が負傷しそのまま総崩れになった。
「おいおいおいおい」
逃げ惑うアミオダロンをモンスターが追い打ちしている。
「これちょっとヤバくない?」
「うん。ヤバそう」
「助けましょう!!」
ずっとウズウズしていた俺達は勢いよく飛び出した。
◆
久しぶりの充実した狩に、俺達は上機嫌で帰路についた。
あの後飛び出した俺達は図鑑に載ってた通りの弱点をつき、あっという間にたおした。
アミオダロンの治療もしてあげ、時間が余ったので他のモンスターも狩にいった。
ソタロールの嫌がらせがなかったらこんなにもスムーズに狩が行えるのか。
俺も久しぶりに活躍できてほっとした。
◆
滞在先の街にもどると、周囲から視線をかんじた。
街の人たちがチラチラ俺達を見ている気がする。目を向けてみるがそらされ逃げていく。
……なんだ?
討伐の報告をしにフランに向かっている途中、ソタロールの奴等がゾロゾロ現れ道を塞いできた。
俺達が警戒していると、ボスのソタがニヤニヤしながら現れた。
「お前たち手柄を横取りしたんだってな」
「はあ?」
「だめだぜ?自分たちで倒せないからって横取りしたらよ」
何言ってんだ?いつも横取りしてるのはお前らの方だろう。
見るとソタロールのメンバーに交じってアミオダロンのメンバーも一緒にいた。
「お前たち、弱点分からずにやられそうになったところをアミオダロンに助けてもらったそうじゃないか」
「命の恩人の手柄を横取りするとは見下げた奴等だせ」
「……そいつらがそう言ったのか?」
アミオダロンの方をみるが誰一人こっちを見ようとしない。
「ふざけんな!」
「よくまあそんな嘘が言えるわね!」
「さいてー」
「おい、こっち見ろよ!」
俺達がアミオダロンに罵声を浴びせていると、ソタが庇うように前にたった。
「私達ちゃんと倒したわ!」
「まあだ言ってるよ」
「お前たちみたいな女子供の集団が倒せるわけないだろ」
「ろくに狩が出来ないくせによく言うぜ」
それはお前たちが横取りしていくからだろう!!
そうだ、ソタロールが一番よく知っているはずなのだ。俺達の実力を。本当はちゃんと狩が出来ていることを。
つまり、こいつ等に真実を主張したところで無意味ということだ。
俺達を貶めるのが目的か。
「ずっと失敗続きで焦ってたんだよな?わかるぜ気持ち」
ソタが、まるで旧友に寄り添うような優しい声を出した。
「だけどな、横取りは駄目だろ。フランにバレたら登録抹消処分だぞ」
なん……だと!?そんな馬鹿な話があるか!
「まあ、まだ初犯だ。ちゃんと返せたら目をつぶってやるよ」
怒りで手が震えた。
前に立つベラとアム兄からも怒りが伝わってくる。
許せねえ
どこまで汚いんだこいつら。
「神に誓って、横取りなどしていません」
堪忍袋の緒が切れる寸前、涼しげな声があがった。
ジル兄だった。
ジル兄はベラとアム兄の間をぬけソタの前に立つ。
「プロスタンか。お前、神官の資格もってるんだったか?ならこいつ等にばかり肩入れしてたら駄目だろう?『等しく救いの手を』ってのがプロスタ・グランジン教だろうが」
「おや、おかしいですね。私はその方たちにも救いを施したはずなのですが」
そうだ。モンスターに襲われて怪我したアミオダロンの奴等を治癒したのはジル兄だ。
そんなジル兄に対しこんな仕打ちをするのか。
「神様は全てご存知です。卑怯者や人を貶める者を決してお許しにならないでしょう」
エセプロスタンのジル兄だが視線をやるだけで、アミオダロンのメンバーがビクついた。
いいぞ!ジル兄!
プロスタ・グランジン教がいかに人々の心に深く浸透しているのかよくわかる。
いつもどこかパッとしないジル兄に後光がさしているように見えた。
「ごちゃごちゃうるせえな」
ソタの手がジル兄の襟首を乱暴につかみあげた。
「お前たちはさっさと獲物を渡せばいいんだよ」
「これは私たちの狩った獲物です。渡す道理はありません」
怯まずに毅然とした態度で俺達の正当性を訴えるジル兄の襟元を締めあげたソタは、ひげ面を近づけすごんだ。
「二度とフランに登録出来なくしてやろうかって言ってんだよ」
「……っ」
続くソタの脅しに、ジル兄は口を閉じた。
閉じたのか息が詰まって喋れなかったのかわからなかったが、信じられない脅迫の言葉に絶句する。
「もう何人も登録抹消に追い込んできてんだ。お前らもあっという間だろうぜ。神官の力で抵抗できるってんならやってみろよ」
そのまま突き飛ばされたジル兄はベラの足元で尻もちをついた。
ニフェカラントの奴等が言っていた。言い合いになったら負けると。
「奴等は各方面に顔が広い。新参者の言うことなんて誰も聞いちゃくれねえよ。それを承知でやってるんだ」そういって彼らは諦めていったのだ。
街の人の反応をみてもわかる。これはもう噂が広まった後だ。
この信用の下がった状態で逆転できるか?たった五人でフランを説得できるだろうか。
最近全く成績を残せていない俺達が。
おそらく無理だ。いくらジル兄が神官の資格もってるからといっても荷が重すぎる。
「どうすんだ?渡さずにフランにでも訴えてみるか?」
どっちの意見が通るだろうなあとニヤニヤ顔で催促してくる。
「……差し出すしかない」
「そんなあ」
「そんなことしたら、私たちが横取りしたって認めたようなものじゃない!絶対いやよ!」
アム兄の出した結論にニフェとベラが非難の声をあげる。
「このままだとフラン活動が出来なくなる」
俺がかすれた声で言うと、アム兄が頷いた。
「モンスターはまた狩ればいい」
「そんな問題じゃないわ!私たちのプライドがかかっているのよ!」
「分かっている!俺だって嫌だ!」
なおも反対のベラにアム兄が怒鳴りつけた。
「悔しいが、こんな獲物にこだわって登録抹消に追い込まれたくないんだ」
怒りで震えるベラの肩をアム兄が優しくなだめる。「ごめんね。僕にもっと力があれば」といってジル兄も背中を撫でた。
俺達は獲物を差し出した。
差し出すしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます