和食
「ついでにこれもお土産です」
そう言って、革布についた魔法石に触れるとクロの手が魔法陣の中へと埋まっていく。
なんという手品じゃ!一体どういう仕掛けになっとるんじゃ!?
次に手を出した時には一升瓶を握っていた。
続いて木桶も取り出した。
わしの興味は手品の種明かしよりそちらの方にむいた。
中身を見なくても想像がついて、心が躍る。
思った通りそれは味噌と醤油だった。
「どうしたんじゃこれ!!」
わしがずっと探し求めていたいたものが、こんなに簡単に手に入るとは!
「あるところには、あるんですよ」
「おおおおお」
両手で顔を覆う。
嬉しすぎて涙が零れ落ちる。
クロ助の手をとり、ありがとのありがとのと繰り返しながら手をこする。
どんなにお礼を言っても言い足りない。
「クロ大明神様」と拝み奉った。
「もうクロ助に足を向けて寝れんの」
「大げさですよ」とクロは苦笑していた。
今日は腕によりをかけてご飯をつくるからの!!
和食じゃ和食じゃ!!!
出来上がったのは日本食の定番ご飯とみそ汁と、肉じゃがと酢の物
まず最初に、味噌汁をすする。
ああ、懐かしい。この味じゃ。小さいころから食べ続けた優しい味じゃ。
体だけでなく心が底の方から温まってくる。
「泣きながら食べるなよ」
そんなこと言われても、涙が止まらない。
涙と鼻水で顔が大洪水だがもうどうしようもないんじゃ。
ほら、と手ぬぐいを渡されて「ずびびびびー」と鼻水をかむ。
「うわっ食欲なくなるわー」と苦情を言われたが、耳が遠いわしの耳には入らない。
次にご飯。
純白の米がお椀の上で艶々と輝いていた。
その穢れの無い佇まいにごくりと唾をのんだわしは、そっと口に運ぶ。
パンのように口の中の水分をもっていかない、むしろ潤してくれるこの瑞々しさ。
一口食べたわしは黙って箸をおいた。
「?」
「どうしました?」
「ふおおおおおおお」
口を両手で押さえ、わしは泣き崩れた。
ホカホカご飯が胸までも熱くし、受け止められなかった熱が目からあふれ頬の上を熱く流れていく。
こんな大量に放出させているにも拘らず胸の熱は納まりを見せず、それどころかだんだん苦しくなっていきテーブルに突っ伏したわしは嗚咽を漏らした。
それをあー坊とクロは遠い目で眺めていた。
「もう、勝手にやってろ」
「いやー。こんなに感激されると買って来た甲斐があるってもんです」
◆
「へーこれが米か。初めて食べるな」
そういいながらご飯を頬張ったあー坊は、うまいなともぐもぐと食べる。
みそ汁も茶色いモヤモヤに最初抵抗を示していたが一口飲んだら、意外といけるじゃんと感想を漏らして食べ進めていた。
そんなあー坊を見ながら、味噌を仕入れてきたクロもみそ汁に口をつけた。
そして、目を丸くする。
「なんだこれ、全然違う」
そういって、一気に飲み干し空のお椀を差し出してきた
「おかわりお願いします」
涙をぬぐったわしは「ええよ」と鼻声で返事をし、おかわりを注いであげる
「どうしたんかね?」
「僕の知ってるみそ汁の味と全然違ってまして」
受け取ったみそ汁をまた啜っては不思議そうに首をかしげていた。
「味噌汁は家庭によって味が違うからの」
「でも、同じ味噌使っているのに」
「そりゃあ、出汁が違うと味も変わってくるもんじゃよ」
「出汁?」
「なんじゃ、クロは出汁を知らんのか」
そういえば、ここらへんでは出汁をとる文化がないんじゃったな。
「出汁というのはな、乾燥させた魚や昆布、キノコの旨味を水に抽出させてつくるんじゃ。ただの水で作る料理と、うまみがたっぷり入った出汁で作る料理では全然美味しさが違ってくるぞ」
「あの魚のミイラ、そんな風に使うのか」
あー坊は目から鱗を落としていた。
「そうですか、出汁……」
「でどうじゃった?」
「こっちの方が、はるかに美味しいです」
「そうじゃろそうじゃろ」
肉じゃがも
「これも全然味が違う。こんなに味に差がでるのか」
とブツブツ言いながら食べていた。
自炊してみて初めて母親の手料理のおいしさが分かった男の子のようじゃの。
その日限りの男の手料理が、毎日子供のために作り続ける母親の技にかなうわけなかろ。
熟練度が圧倒的に違うからの。
「どうじゃすごいじゃろ?」とエヘンと胸を張る
「すごいですね」
クロ助の素直な賞賛の声にわしは気をよくする。
「他に何か、食べてみたいものはあるか?」
「唐揚げ作ってください」
クロ助は唐揚げが好きか。
まあ男は大体唐揚げが好きよの
「ああ、ええよ。明日の夜は唐揚げにしようかの」
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