詰み(アトル視点)
いきなり無防備な背後から突き飛ばされた俺は床を転がる。
「いきなり何だ」と即座に起き上がり眼前に迫っていたオオカミを払う。
だが文句の言いたい相手が床に伏しているのを目にして血の気が引いた。
ぐったりと目をつぶるキクの上にモンスターが跨り白い腕に噛みついて、引きちぎろうと顎を振っていた
「やめろっっ」
剣を振り回してキクの上から追い払う。傍に駆け寄って剣を構える
「ばあちゃん!!」
呼びかけても返事はない。
右肩から左腰にかけて背中の皮が切れ肉をえげぐられている。その傷が三本。
俺をかばって……?
自分の踏む足元に真っ赤な液体が流れてくる。
モンスターが飛び掛かって来るたびに剣でいなすが、そのたびに床に血の足跡が残る
キクの生死の確認をしてる余裕がない。
だが、この出血はやばい。今生きていてもこのままだと確実に死ぬ
キクが死ぬ
手が震える。
状況は絶望的だった。
もし、奇跡的にこの危機を脱したとする
だが、キクを助けるためには街に運ばないとならない。
足として使っていたハロタンは既に喰われてしまっている。
俺が負ぶって向かうしかない。
その上この危険な時間帯。
間違いなく、間に合わない。
俺の背中の上でキクは冷たくなるだろう。
すでに詰んでいる。
ふざけんなよ、なんだこれは
俺、何やってんだよ
悔しくて唇が震える。
キクを護ろうと思ってたのに、そのためなら命かけてもいいって思ってたのに
なんで俺の方が護られてるんだ。
恩人の女の子一人守れないなんてお前クソだろ。
絶望の中、次から次へと襲ってくるモンスターを剣で払う。
当たればこの剣の効果で炎が付くがそれくらいでは致命傷にはならないようだ。また起き上がって襲い掛かってきた。
そのうえ火だるまになる仲間を見て警戒したのか迂闊に深く踏み込んでこなくなった。
どんなに引き延ばそうが、これはただの消化試合だ。
このまま俺は少しずつ削られていき体力消耗したところを遅かれ早かれ喰われる。
「誰かっ!」
絶望の中
「誰かいないのかっ!!」
俺は力の限り叫んだ
「もしいるならっ」
こんな山奥の人知れない場所にある屋敷の中で
「助けてくれえええっっっ!!!!」
俺の声を聞きつけてくれる奴などいるはずがない。
普段ならそうだ。
だが今、普段にはない可能性が、一つあった。
玄関が開いていたのだ。
俺とキク以外
第三者がこの家に存在する。
玄関を開けたのはモンスターじゃない
鍵をあけ、ドアノブを使って扉をあけて侵入した人物がいるはずだ。
それに賭けるしかない。
ふと視線を感じた気がした。
心臓が早鐘を打つ
ゆっくりとドアの向こうに目をやる。
い た。
黒い人影が廊下の向こうに立っていた。
よく気が付いたと自分で思う。
一体いつからそこにいたのか
全く気配を感じさせず、静かに佇んでいる。目を逸らせば忘れてしまいそうなほど希薄な存在感。
だが確かにそこにいる。
背中に冷たい汗が流れる。
それが吉と出るか凶とでるかはわからない。
だが俺はそいつに縋るしかなかった
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