不穏な影
魔法石の存在。これは大きかった。
よく探してみると、家のいたるところに魔法石はついていた。
まずはカマドの前、手をかざせばマッチなしで火がつく。
ただし、手を離すと消えてしまうので薪は必要なようだ。
そして台所でもう一つ魔法石付を発見した。
それは、棚の奥に置いてある壺だった。
なにやら変な色をした液体が入っており、魔法石に手をかざすと触っていられないほど冷たくカチンコチンに凍り付く。
壺が置いてあった棚も食器棚にしては妙に頑丈で、密閉されるようなドアがついている。
もしかして、もしかするとこれは
「冷蔵庫じゃ!」
わしが叫ぶと、隣で見ていたあー坊がビクついた。
「っくりしたあ!」
いきなり大声だすなと苦情をいわれたのち「一体なんだ?その『れいぞうこ』って」と聞かれる
これを中に入れておくと棚の中が冷たくなる。つまり、冷蔵庫。
「なんの役に立つんだ?」
「これがあれば、食べ物が腐りにくくなるんじゃ」
「ふーん……」
あー坊には、このすばらしさが分かってもらえなかったようじゃ
これまでは、買い出しに出かけた二、三日だけ生肉があり豪華な食事になるくらいで、その後は腐りかけているような干し肉くらいしか肉が存在しなかった。
卵とミルクと小麦粉、トウモロコシ、ジャガイモ、玉ねぎ等で献立を考えないといけない。
どうしても毎回似たような料理しか作れない。
しかも主菜ぬきの副菜で誤魔化した料理ばかり。
あー坊は育ち盛りだからもっとお肉を食べさせてやりたいのに。
優しいあー坊は十分だと言ってくれていたが、ずっと申し訳なく思ってたところじゃ。
これで少しはマシな料理ができるようになる!
他にも明かり用の魔法石もみつけた。
手をかざせば部屋一面を明るくするくらいに光るのだが、あまり長く続かない。
広範囲でなくていいなら油を入れて光るランプの方が使いやすい。
こちらも魔法石付きでスイッチ一つで火がついてくれる。
それ以前に日が暮れたら寝るようにしてるのであまり使ってはいないが。
あと風呂場にも見つけた。期待通りお湯が出てきた。
これは湯船さえ用意出来ればお風呂に入れそうだ。
今度ドラム缶のような湯船代わりになるものを探してみよう
そして一か所、なんのための物かわからない魔法石があった。
それはこの家で唯一開かずの扉についていた。
魔法石に手をかざしてみても、叩いてみてもなんの反応もない。
一度無理やりこじ開けようとしたところ、バシッと弾かれた。
「結界が張ってあるのか?」
アトルが言う通り以前妖怪をはじいたあの時と同じ現象だった。
一体この部屋は何なのか、中に何があるのか
気になりはするが、開かなくても特に困りはしないので放置しておく。
◆
広い庭の中、大型のヤギが草を悠然と食べている。
ハロタンはとても穏やかな性格をしていて、乳を搾っている間も暴れたりしない。
躾もしっかりしてあり放し飼いにしていても呼べばちゃんと戻って来る。夫婦仲睦まじく大体2頭一緒に行動している。
わしがいつものように水場で洗濯をしている傍らで、今日は鍬をもったあー坊が庭を耕していた。
耕した所を雌鶏が虫を探して歩き回り、その後ろを孵ったばかりのヒヨコ達が追いかけている。
最近になって、卵と鶏肉確保のためにニワトリのつがいも飼い始めた。
しばらくは卵は食べずに孵していき数を増やしていこうと計画中である。
ミミズを見つけたあー坊がヒヨコ達に放り投げるとそれを我先にとヒヨコ達がつつきまわす。
それを面白そうに眺めた後、また耕し始める。
まるでヒヨコの兄貴分みたいだの
幾分か伸びた黄色い頭を見ながら、密かに笑う。
この土地は、土がいいのか作物の育ちが抜群にいい。
以前植えたトマトももう実をつけ始めた。
もっといろいろ植えて見ようと、あー坊に畑をつくってもらっている。
麦刈が終わってからも、あー坊はよく働いてくれて本当に助かっている。
あー坊は拾ってもらった恩を返さねばと思っているみたいだが、そんなこと気にせずもっと甘えてくれてもいいのにの。まだ子供なんじゃから遊んでなんぼじゃろうに。
そう思いながらも本人がやりたいと言うのでついわしの方が甘えてしまっている。
麦刈り以来ラナ親子がよく遊びにくるようになった。
魔法石付き脱穀機等の貸し出しのためだったり
簡易の動物小屋を建ててくれるためだったり、
ああ、それと湯船代わりの大樽も親切に探し出し持ってきてくれた。
おかげで今は、快適お風呂生活をさせてもらっている。
やっぱりお風呂に入らんと綺麗になった気がしない。
ラナ達が遊びにくる理由はいろいろだったが一番の目的はご飯なのだそうだ。
クマリンで店番している母親も、お土産のクッキーを心待ちにしているとのこと
そんなこと言われたもんだから、調子に乗ってシフォンケーキを焼いた。
途中、卵の白身を泡立てるのが大変で、作ろうとしたことを激しく後悔した。自動泡だて器が欲しい。
腱鞘炎になりながら作ったシフォンケーキは、フワフワだと大絶賛だったので良かったが
ラナ達が帰った後、赤くはれた手を水で冷やすはめになった。
「なんで、家の中にいたはずのばあちゃんが重症負ってるんだよ……」
あきれ顔のあー坊の視線が痛い。
何をするにも痛がるわしの代わりに明日のパンの生地をコネてくれた。
本当良い子じゃ。
車を手に入れてからというもの、クマリンへの行き来が楽になって助かっている
週一くらいのペースで買い出しに行っている
今度、ラナ達の取引先について隣町にも足を伸ばしてみようかと話している。
隣町に行けば新しい情報が入るかもしれない。
そんな安定した生活が続いてたある日のこと、
クマリンからの買い出しから帰ってみると
なぜか玄関が開いていた。
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