馬車を買おう

 この家での生活も慣れてきた。なれると案外楽しい。


 あー坊がいるのがなによりも大きい。

 子供の喜ぶ顔をみると、手間も苦痛でなくなるものだ。


 でもここにきて問題が発生した。


 そろそろまた街へ買い出しに行かないと食べるものが無くなる。


 だがまた妖怪に襲われたらと思うと怖い。


 あー坊がいうにはもんすたという妖怪は夕方から夜にかけてが多いらしいが昼間に出ないわけでもないらしい。


 危険を冒して街までを歩くか。



 武器を探したところ、剣と槍を発見しわしは槍を手にした。

 理由は単純怖いのでなるべく遠くから叩けるものがよかったのだ。


 そういえば昔学校で、藁人形に竹やりを刺す訓練をさせられたことがあった。

 竹やりが藁人形を貫通しないと合格できないのだ

 合格できないと、それはもう酷い体罰をうけていた。


 これさえあれば、妖怪を追い払うくらいならなんとかできるかも。




 あー坊と話し合った結果、行きはクマリンに向かう馬車に乗せてもらい、帰りは馬車を買おうという話になった。

 そしたらもっと買い込みができるようになる。

 ついでに魔物対策の道具も買い込んで、明るいうちに帰ってくる計画だ


「馬車なんて買えるのかよ」

「多分大丈夫じゃ。これ売れば馬一頭は軽く買えるらしいからの」


 と例の水晶をみせる。


「! 魔法石じゃねーか!」

「ハンサムもそんなこと言ってたのぉ」


 ハンサム?と聞かれたのでわしの鞄盗んだ男のことだと説明すると「あいつハンサムっていうのか。なんか恥ずかしい名前だな」と勘違いしていた。


「これはなんの石なんじゃ?」

「魔法石だよ。持ってたら魔法が使える石」


「マホウ? カエルに変身したりできるのかの?」


 それともカボチャを馬車に変えれるのか



「どうやって使うんじゃ?」


「いや、俺知らねーけど」

「じゃあ、必要ないの」


「いや、でも、皆魔法が使いたくてもなかなか手に入らなくて手をこまねいてる状態なのに」

「でも、今は使えない魔法より使える馬車じゃ」


「まあ、確かに……」


 ただし換金しなくて済むなら売らない事、無闇に人に見せない方がいいことを言われる。

 また狙われるぞと注意された。


 確かに前は無防備すぎたかの。気を付けよう


 こうして、街行きは決行された。


 結界内の見晴らしのいいところで馬車を待ち、通りかかった所で道まで下りて声をかける


 偶然にも前の親子だった。

 わしの姿を見るなりすぐに車を止めて乗せてくれた。


「あんた、故郷は?帰るのやめたのか」


 彼女はラナという名前らしい。今更ながらに自己紹介をした。


「やめてはおらんよ。手段がなかっただけじゃ」


 そう、手段を探さないといけない。その為にはまず地図をみる必要がある。


 だが、前回買い出しの時にクマリンで少し探してはみたがここら周辺の地図しかなかった。

 しかも隣町まで道のりを手書きでザックリと書かれているような地図だ。

「この道のこの目印のついた岩を右に曲がる」というのが絵でわかるように書かれている。


 おそらく字が読めない人のためなのだろう。


 隣町に行くには問題ないのだが、わしが見たいのはもっと広域の地図だった。


「ふーん。それで?その子は?前はいなかったよな」


 ラナにアトルを紹介した。

 出会った経緯と今一緒に住んでいることも話す。


「かわいいじゃろう?」


 にこにこと頭をなでてやると、手酷く払いのけられた。本当かわいい。


「わしの、孫みたいなもんじゃ」


「……」


 沈黙が落ちた。しばらくガタゴトと車が走る音だけが響き渡る



(……あんた、苦労してるな)


(まあな。ばあちゃんて呼ばされてるしな)


(ばあちゃん?何それキツ)



 ラナとアトルがコソコソと話をはじめた。やはり子供同士の方が気が合うようじゃ。


 クマリンに近づくにつれ、麦畑が増える。

 たしかにここら辺はもう収穫は終わっているようだ。

 家でもここ数日あー坊が頑張ってくれたおかげでやっと終わりが見えてきたところだった。


「へーあんたの所麦畑あるんだ」


 でも稲ならいざ知らず麦の扱いがわからなくて悩んでいる。とりあえず稲のように干してあるが


「なんなら、手伝いにいってやろうか?」


 そのかわり、うちに安く卸してくれよな?ラナがそう言ってニヤリと笑う


 なかなか強かな娘のようだ。さすが商売人の娘。


 だが、そういうことなら大歓迎じゃ。正直扱いに困っていた所なのだ。

 収穫した後買い取ってくれるなど願ったり叶ったりだ。ぜひ、お願いしたい。



 それとついでに、馬車が買いたいが、どこでいくらぐらいで買えるか聞いてみる。


「速さを求めないなら馬はやめとけ。餌に煩い」


 というアドバイスを頂いた。


「ロバの方が扱いが楽だぞ。あとおすすめは【ハロタン】かな」


「ハロタン?」


「【ハロタン】ってのは大型のヤギだ。

 ロバほど力強くないから騎乗はともかく車引かせるなら2匹つがいで飼って2連で引かせることがおおいかな。

 2匹買う必要があるし、その分エサも増える。だが、こいつのいいところはミルクが美味い。」


「あー坊!ハロタンを飼うぞ」

「決めるの早いなおい」


 冷蔵庫がないここでミルクは貴重だ。街なら毎日買いに行けるがあの立地では無理だ

 ミルクは2,3日でもう腐り始める。

 脱脂粉乳もあるにはあるが、ミルクには敵わない。


 全部揃えるのにどれくらい必要か聞いたが、簡易荷車でいいなら持ち金でも十分に買える値段だった


 ついでに、売ってくれるところを紹介してくれるらしい。


「ばっちり値切ってやるから、まかせとけ」


 なんと心強い。お言葉に甘えてすべてお任せすることにした。


 こうして、無事車を手に入れることができた。

 荷車のつけ方とハロタンの扱い方を教えてもらう。


 ラナ親子に今回こそちゃんとお金を支払おうとしたのだが、仲介料もしっかり貰ったから必要ないと断られた。


 お礼なしなのも心苦しいので代わりに焼いてきたクッキーを渡すと「おっ」という顔をされた。


「今日はトウモロコシじゃないんだな」と何故か笑われてしまった。

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