買い出し

 早速アトルと一緒に買い出しに行く。


 やはり現地人がいると便利である。

 欲しい物を言うとその店まで案内してくれる。


 まずは鞄。


 持ってきた鞄は流石にもう使えそうになかった。

 紐を切られた鞄のかわりに、新しいリュックを買う。


 わしの分とアトルの分と。


 なるべくたくさん詰めて、肩紐が広く丈夫なリュックがいい。


「よし、これにするかの」


 そうして選んだ鞄はなにかの動物の皮で出来ており、縫製もしっかりしている。


 店員に声をかけようとしたら、周りがわしらを見ながら顔をしかめているのに気が付いた。


 わしらというかアトルじゃな。


 店員に至っては何か盗まれるんじゃないかと警戒しているようだった。


 確かに、アトルは全身垢だらけで匂うし服はボロボロ、サイズもあっていない。

「一体いつから着ているんじゃ?」と聞いても覚えていないという。


「こりゃいかん」と、すぐにアトルの服を買いに行く。


 ついでに靴も買ってやる。

 

 アトルは裸足であった。

 以前は履いていたがサイズが合わなくなって捨ててしまったらしい。

 服も同じくサイズがあわなくなり、今着ているのはほぼ拾ってきたものとのこと。


 子供の成長は早いからの。


 それを見越して少し大きめのサイズを選んでいく。


 本当はお風呂にも入れてゴシゴシ洗ってあげたいが、それは家に帰ってからにしよう。

 きっと見違えるようになるぞ。


 考えるだけで楽しくなってくる。



 それにしても子供の服を選ぶのはどうしてこんなに楽しいのか。


 調子にのってあれもこれもと選んでいると「こんなに持てねーよ!」と抗議の声があがった。


 見ると、選んだ服がカウンタにいっぱいに積みあがっていた。


 確かに、これから食材も買わないといけないのだ。


 仕方なく必要最低限の分だけ買い他はお引き取り願った。




 お金を払い終わると、アトルが小さな声でお礼と「ちゃんと、返すからな」と言ってきた。


 その気持ちだけで十分である。



 頭のいい子だ。


「出世払い大歓迎じゃ」と笑うと「おう」と気持ちのいい返事をしてくれた。



 早速、新しい服に着替えさせ、着ていた服は特に捨てて問題ないというので即捨てる。



 そういえば、アトルには自分の持ち物というのはないのじゃろうか


「アトルや、何か持って行きたい物とかはないのかの?」


 もしあれば、持っておいでと言うと「ある」といって取りに行った。

 すぐに戻ってきたアトルは背中に剣を背負っていた。


 装飾が美しい立派な剣だった。



「それは、本物か?」と問うとアトルが「どういう意味だ?」と顔をしかめた。


「偽物持ってどうするんだよ」


 おかしなことを聞くなと返された。


 ……まあ、言われてみればそうかもしれない。



 道行く人のほとんどが身に着けているのでわしはてっきり模造武器を身に着けて歩くのが最近の流行りなのかと思っておった。

 

 あれらは全部本物か。


 そう思うとちょっと怖いの。

 

 護身用にしては皆かなりいかつい武器な気がする。

 喧嘩が始まれば死人が出そうじゃ。



 日本では銃刀法違反になるが、この国にはそんな法律はないようだ。


 よくよく考えて見れば、自分は今し方ハンサムに刀で斬られたのだった。


 こんな日中の往来でだ。



 鞄の紐だけではあったが日本では悲鳴が上がってもおかしくないのに、特にそんなこともない。


 下手すれば切り殺されていたかもしれないと思うと背筋が凍る。



 でもまさかアトルがそんな立派なものを持ってくるとは思ってもみなかった。


 何故なら、十分金に換えることができる品物だからだ。


 その金で飢えが凌げる。



「親の形見だから、これは死んでも売らねーよ」


 疑問が顔にでてたのか、アトルがそう言って誇らしげに笑う。


 歳のせいか小さなアトルの親を想う気持ちが胸にしみすぎて辛い。



「は? いや泣くとこかよ」

 

 おーいおいおいと泣くわしを見てアトルはドン引きしていた。


 アトルさんや

 親の形見を抱きながら飢えて死んでいく子供を見たら堪らんよ?


 これが泣かずにいられるもんか



 涙を拭くついでに手拭いでズビビーっと鼻をかむと、ものすごく嫌そうな顔をされた。


「きったねえ」といった子供の遠慮のない表情をみて思わず吹き出す。

 これだから子供はかわいい。


「今度は何笑ってるんだ」


 不気味がるアトルを連れて、今度は食料調達に向かった。





「お嬢ちゃん何がほしいんだい?」


 市場に行くとあちこちでそう声をかけられた。


 この街の人たちはお世辞がうまい。


「ねえちゃん」で十分なところを「お嬢ちゃん」ときたもんだ


 もう何人もの人に言われているから、ここでは女の人ならたとえ老婆でも「お嬢ちゃん」と呼ぶのが標準なのだろう。



 露店一つ一つが一種類を扱っている所が多い。

 つまりリンゴならリンゴだけを山盛り詰んでいるのだ。


 こんなに一日で売れるのだろうか。

 

 品ぞろえの良いスーパーを見慣れていると、とてつもなく効率の悪い売り方のような気がしてくる。


 そんな露店だが、見て回ること自体は面白かった



 流石外国というべきか、よくわからない食べ物が目につく。


 アトルがどんな物かを説明してくれたのだが、今あまり冒険する気にはなれない。


 とりあえずは、根菜類や干し肉、チーズ、卵といった常温保存のききそうな物を中心に買い込む


 そして牛乳、ハム、葉物などは数日で食べきれそうな分だけを買う。



 米も買いたかったが、ここらではあまり食べられていないらしく、見つけるのに苦労した。

 やっと見つけた玄米も古い上に保存状態もよくなかったようで変色し虫が湧いていた。


 無いよりマシと思い買ってはみたが、少しの量だけにとどめておく。

 これは小麦で生活していく覚悟を決めるしかない。


 米を探すのと同時に醤油と味噌も探したがこちらは見つけることは出来なかった。

 基本調味料「さしすせそ」である砂糖 塩 酢 醤油 味噌のうち2つも無いとは頭が痛い。


 もう一つ困ったことは海の幸がほとんど売っていない事。


 島国日本では考えられないのだがここクマリンは内陸にあるため海産物はめったに入ってこないらしい。

 冷蔵技術もないのでは運んでいるうちに腐るということだろう。


 秋ごろになると川で獲れる魚が市に並ぶそうだが今の時期はほとんどないそうだ。


 出汁を取るため昆布やいりこ等も欲しかったがなかった。

 たぶん昆布ではない海藻、サバではない魚の乾物が奇跡的にあったのでとりあえず購入しておいた。


 ここでは出汁をとる文化がないのか、店の人に「そんなもの何に使うんだい」と驚かれた。


 卸しの際押し付けられた商品だったらしい。


 店の在庫全部持って行かされた。





 日本との文化の違いを感じる買い物であった。

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