黒目黒髪の男

 

「いや、捨てるんでなく売るんじゃよ」


 わしが答えると、男はすこし拍子抜けしたような顔をした。


「わしにとってこれはちいとも価値のないものなんじゃ、今はお金のほうが重要じゃ」


 ハンサムは「そうですか…」といって手を顎にもっていき何やら悩んでいた。

 一体何に悩んでいるのかわからないが、結局これは売れるのか売れないのか


「わかりました。では僕が買い取ります」


 これくらいでと、提示された額はさっきの額より桁が二個違っていた。


「足りませんか?」と聞かれたが、わしとしてはとりあえずお金に変わればいい


「いいですよね?」とハンサムはお店の主人にも確認をとる。客を横取りした形だ。

 だがわしを騙そうとしていた手前、店の主人は渋い顔で頷いた。


 わしら二人は店の邪魔にならないように場所を変えることになり、一緒に店をでた。



 誘われるがままにハンサムの後ろをついていくと、広場についた。ちょうど道が合わさるところらしく石畳で中央には噴水があった。


 噴水は日本で見る吹き出すような形のものではなく、お皿が沢山積み重ねられたような形をしており一番上から水が湧き出し、下のお皿へ下のお皿へとチョロチョロと落ちていく仕組みになっていた。

 噴水のへりに腰かけると、ハンサムは落ちていく水に手をかざして水を飲んだ。

 

 え、汚くないのかの


「ここの水は、湧き水なので飲めるんですよ」


 確かに周りをみると水汲みに来てる人がいる。


 手をのばしてみると冷たくて気持ちいい。そのまま手を洗い、おそるおそる水をすくい飲む。

 自覚はなかったが、喉がかわいていたようだ。

 1回2回と繰り返し飲んだ。冷たい感触が喉を下る。


「生き返るのぉ」


 ついでに顔も洗ってやる。


 バッシャバッシャとあらうわしの横でハンサムは腰に付いた小さな鞄から大量の札束をとりだし数え始めた。


 よくその小さな鞄の中にその量の札束が入っていたものだの。


 いや、札束と思いきやよくわからん紙束だ。


「おまいさん、そりゃなんじゃ?」


 ハンサムは「えっ」と驚きの表情をした後、すぐに笑顔に戻る。


「ここでのお金の単位は【ドパ】なんですよ」


 そうだった、ここは日本じゃないからお金も違うのだ


「ということは、これも使えるってことかの」


 家から持ち出したお金をみせる。


「はい。使えます。ずいぶん大金をお持ちのようですね。」


 そのままお金の種類と価値、そして相場を教えてくれた。

 とりあえず石を売らなくても手持ちのお金で十分生活できるらしい


 さっきも言ったように石はこのまま持ってた方がいいと言われる。

 まあ、そんなに言うならと鞄の中にしまう


「他に何か分からない事はありますか」

「いや、とても分かりやすかったぞ」

「お役に立てたようで、光栄です」


「なあ、おまいさん」と声をかけようと顔を上げた瞬間、風を切るような音が聞こえた。

 ハンサムに目を向けるといつ抜いたのか手に刀を握っており、もう片方の手に見覚えのある鞄が乗っていた。


 肩の重さがいつの間にやら無くなっている


「では、失礼します」


 さわやかな笑顔で、ハンサムは去っていった。


 わしは何が起こったのかわからず、ただただその後ろ姿を見送った

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