第3話 妹との買い物デート
「ほらお兄ちゃん行くよ」
「はいはいっ」
バイトを始めて1ヶ月が過ぎた。
慣れてみれば口下手な店長なだけで結構良い職場という事もあって俺はバイト三昧な日々に明け暮れ遂に昨日初給料日を迎えた。
薬丸さん曰く俺がバイトを始めてから売り上げが一気に伸びているからとの事でかなり奮発してバイト代を貰ったので今日は妹とデートする事となったのだ。
と言っても正確には喜美ちゃんとデートをする時に恥をかかない様に教えてくれると言う名目だが。
なんにしても服とかクリスマスプレゼントの用意もしたいので願ったり叶ったりであった。
「それで今日は町の方へ出るんだよな?」
「うん、見たいお店も在るからね」
俺の手を引っ張りながら駅へ向かう緑の姿を見ながら高校生になっても子供だなぁとか考えながら俺は早歩きで進む。
「あら緑ちゃん、今日はお兄さんとお出かけかい?」
「うん、お兄ちゃんとデートなの」
「それは良いねぇ、楽しんでおいで」
「はーい」
通りすがりで声を掛けてきたのは妹の同級生の母親である。
この田舎も誰もが親戚みたいな付き合いはきっと都会では羨ましいのだろうが住んでるこっちとしてはどうにも困る。
常に監視されているみたいなモノで悪い事も出来ないもんな・・・
そんな事を考えていたら妹の会話が終わり再び手を引かれて駅へ向かうのだった。
「やーん、これ可愛い~」
「お前こういうのが好きだっけ?」
「うん、なんか最近はキモ可愛いってのが流行ってるんだよ~」
お洒落なのか分からない雑貨屋で緑が見ているのは不思議な怪物のキーホルダーだ。
どう見てもこれを見て可愛いと言う感想は出ないと思うのだが・・・
「ほら、お兄ちゃん。これなんて良くない?」
「うっ・・・」
緑が手に取ったのは昔の妖怪な人間みたいな人形だ。
子供が見たら泣いて逃げる様なそれを両手に抱きしめてこっちを見る緑・・・
あっそうかこれはアレだ。
美人の友達はブスとか言う・・・
「お兄ちゃんなんか変な事考えてるでしょ?」
「そ、そんな事は全く無いぞ」
突然話しかけられて驚いたものあるが、人形を抱きしめながら上目遣いで見詰める妹にドキッとしたのは秘密だ。
そんな感じで何件か雑貨屋を中心に巡って緑が欲しがったキーホルダーとアクセサリーを買ってやった。
「本当にこんなんで良かったのか?なんだったらもうちょっと高くても良いんだぞ?」
「ううん、これでいいの・・・だって・・・お兄ちゃんに買って貰ったから・・・」
「ん?なんだって?」
「なんでも無いって、それよりそろそろお腹空いたね」
「あぁ、もう昼結構過ぎてるもんな」
お店に飾られている時計に視線をやると14時を回っていた。
買い物に夢中になってた緑は時の経つのも忘れていたようだ。
俺は気付いていたが、楽しんでいる緑の顔を見ると腹減ったとはとても言い出せなかったので我慢していたのだ。
女心が分かるってやつだな。
「ねぇ、何処かでお昼食べよ」
「あぁ。何か食べたいものあるか?」
「う~ん・・・何でもいいよ」
「そっか」
そう言って俺が選んだのはメクドナルドであった。
だが店の近くまで行って妹が背中を叩く。
「イテッ!なんだよ」
「折角のデートなんだからもうちょっと違うモノにしようよ」
「そうか・・・そうだな・・・」
そう言って次に行ったのは定食屋であった。
そして、また妹に背中を叩かれる・・・
「今度は何だよ・・・」
「ここでお昼ってデートっぽくない」
「はぁ・・・何でもいいって言ったじゃないか?」
久々な甘えた表情の緑に内心ドキドキしながら兄として接する俺だったが妹から返ってきた返事に驚いた。
「もぅ、お兄ちゃんは女心が全く分かってない。女の子が何でもいいって言うのは『私が好きな物なら何でもいい』って意味だからね」
「そんなん分かるか?!俺はエスパーかよ?!」
そんな楽しい買い物も遂に大詰め、最後に行ったのは服屋であった。
しかし、店の入り口に近付いた時に妹が手を引っ張って俺を止めた。
「ん?どうした?」
「お兄ちゃん・・・この店入る気なの?」
「うん?それがどうした?」
何故か妹が俺の手を強く握って俺を止めていた。
そして、俺は再び緑からとても驚く事を聞くのであった・・・
気付かぬ想いと届かぬ気持ちは離れて始めて伝わる 昆布 海胆 @onimix
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