碌星らせん短編集

碌星らせん

社畜戦隊カロウシマン(要約版)

社畜戦士「カロウシマン」第一話『あゝ、涙の社畜哀歌』


 時は近未来。世界はシンギュラリティを迎え、人間の労働が機械へと置換されていく狭間の時代。しかし福祉の助けは未だ薄く、ベーシック・インカムなど夢想家の戯言。だが、この国には機械労働力シンギュラリティへ抗う熱き人々が居た。人は彼らを、社畜戦士と呼ぶ。

 カロウシ・イチロウ(カロウシマンの正体である)は、とある街で親子に出会う。父が工場労働者、息子は小学生の父子家庭。だが、父親の働く工場にもまた、シンギュラリティの波は押し寄せていた。自動化された工作機械によって、父親の職が奪われようとしていたのだ。

 紆余曲折の末に、旋盤加工で自動機械と勝負し、勝ったら少年の父を雇い続けるという約束をするカロウシマン。対決の結果、歩留まりの差で勝利するカロウシマン。

「人間は、まだまだ機械には負けない……!」

 対決に勝利したカロウシマンは、少年の元へ報告に訪れる。だが、少年の顔に笑顔はない。

「これで、お父さんの雇用は守られたぞ」

「カロウシマンの馬鹿野郎ーっ!」

 少年の父は、病院へ運び込まれていたのだ。工場勤務が辛い年齢になっていたというのに、無理していたツケだった。しかも今後の仕事では、カロウシマンと同等の効率を要求されてしまう。

 あのまま解雇されていれば、福祉の助けを得られたのかもしれない。機械労働力シンギュラリティは人間を不幸にするとは限らないのかもしれない。それでも、カロウシマンは人間の尊厳を守ったのだ。戦え、社畜戦士カロウシマン。己が過労死するその日まで……



----------------

社畜戦士「カロウシマン」第二話『嗚ゝ、魂の仕様変更』


 シンギュラリティを支える社会インフラたるIT企業。だがそこは、進捗が破壊され仕様変更が乱舞する混沌の坩堝と化していた。今も煌々と燃え上がる現場に、一人の男が派遣される。彼の名はカロウシ・イチロウ。彼こそが人類労働力の防人、カロウシマンの正体である。

 仕様変更により、このままでは納期に間に合わないことは確実。企業は莫大な損失を蒙り、多くの労働者が職を失う。だが、同時にシンギュラリティは一歩遠のく。人の尊厳とシンギュラリティの阻止を天秤にかけ、思い悩むカロウシマン。

「だが、私は人の尊厳を守るために戦う……!」

 彼は決断した。納期を優先する。その為にカロウシマンは最大効率で働いた。だが、彼のペースに疲弊したチームメンバーが追い付かない。そう、開発の罠にカロウシマンは嵌まろうとしていたのだ。

「チームワーク……!」

 ここから先は、チームメンバーの命を削ることになる。彼の戦いは、ここまでかに思えた。だが、深夜。三連徹の後一時間の仮眠を取ったカロウシマンが深夜三時に職場に戻ると、そこには煌々と明かりが付いているではないか!

「みんな……!」

 エナジードリンを片手に魂を削るチームメンバーの姿!そう、社畜戦士は一人ではない……!全ての人の心の中に、社畜戦士は宿るのだ!

 不眠不休の努力の結果、システムはどうにか完成に漕ぎ着けた。この開発スケジュールに味をしめた会社は、更なる苦行を技術者達に強いるかもしれない。それでもカロウシマンはまた一つの職場を、人の尊厳を守ったのだ。彼の戦いは、終わりなき仕様変更の如く続いていく……何故なら、彼は一人ではないのだから。



※社畜戦士「カロウシマン」はフィクションです。実在の人物、団体、企業、職場等とは一切関係ありません。



----------------


社畜戦士カロウシマン第三話「あゝ、さらば社畜戦士」


 度重なる社畜労働によって、カロウシ・イチロウの肉体は限界に近付こうとしていた。職場を転々としてきた彼には、労災認定を受けることも困難。死は一刻一刻と迫ってくる。

「それでも、職場に行かなくちゃ……ああ、ここが会社じゃないか」

 仮眠室のソファーから立ち上がろうとする彼に、幻の中の人々が怨嗟の声を投げかける。お前はもう、働くなと。だが、彼が働くことを止めてしまえば、誰がシンギュラリティと戦うのか。そんな中、一週間前の新聞のニュースが目に入る。『ベーシック・インカム法案国会へ』。

 人類が働かずとも良い世界。それは現実のものとなろうとしていた。

「機械に食わせて貰うなんて……そんなの、人の幸せと呼べるのか?」

 深刻なワーカーホリック症状下にあるカロウシ・イチロウは新聞を屑籠に入れ、エナジードリンクを摂取してデスクへ向かおうとする。だが、そこで彼は崩折れた。

 急性カフェイン中毒だ。彼以外に職場に人は居ない。薄れゆく意識の中で、ベーシック・インカム法案の可決を伝えるラジオの声が響く。そして、カロウシ・イチロウはそのまま息絶えたのだ。

 ……だが、社会は未だ社畜戦士を必要としている。この世に労働ある限り、彼らは生まれ、そして死んでいく。


-----------------


作者コメント:

 話が重すぎ。

 景気が少し好転したので、ギリギリ洒落になるかと思って再公開しました。

 尚、このあとの展開予定としては、カロウシマン2号~N号が登場し、

第四話「あゝ、狭間の研究生活」

第五話「あゝ、滅びの一次産業」

第六話「あゝ、不屈の介護労働」

第七話「あゝ、目覚めの外食チェーン」

 等が予定されていたが、ブッシャリオンの連載再開検討が始まったので、ボツになりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る