反論(2016/04作)
時間虫は、時間を食べます。
アリクイがアリを食べるように、時間虫は時間を食べるのです。
時間虫がまだ何も食べることを知らない虫だったとき、時間と、みかんと、警官のどれかを選べとその人に言われました。何も食べないということは、この世界に存在しないことと同じなので、どうしても選んで食べろとその人は言うのです。
その人というのは神様のことですが、もし警官を選んだとしたら警官を食べなければならないわけですから、ずいぶん無茶な話なのです。しかし、警官が増えて街中にあふれてしまったらきっとみんな息が詰まってしまいますし、警官が増えたからといって街が平和になるわけでもないでしょう。むしろ数が増えすぎたせいでやる仕事がなくなった警官たちが、本来の目的や使命感を失って犯罪に走らないとも限りません。みんなから邪魔にされ、おまけに目的や使命感まで失ってしまったら誰だって絶望してしまいます。ですので増えすぎないようにそれを食べなければならないという言う理屈は分かるのですが、時間虫はまだ何も食べることを知らない虫だったので、いったいどれを選べばいいのか分からないのです。
「じゃあみかんにしろ」と、その人は言いました。
でも、みかんは他に食べる人がいるじゃないですかと時間虫は反論しました。
「むむ、じゃあ警官にしろ」
でも、警官に採用する人数を制限すればいいじゃないですか。
「むむむ、じゃあ時間を食え。時間は誰かが食べるしかないのだぞ」
でも、でも。
「さあ、おいしいから一口食べてごらん」
時間虫が最初に食べたのはスプーン1杯の時間でした。これで百年分です。
ボトル1本が1万年分で、タンクにはそのボトルを1万本集めた量が入っています。さらにそのタンクは、コンクリートで整地された広大な敷地に1万基ならんでいます。
時間虫の目には、その景色が巨人の墓場のように見えました。しかしタンクの表面には何も書かれていないので、きっとお墓参りにきた人は目当ての墓を見つけられないでしょう。そんなことを考えていたら、時間虫は悲しくなりました。
「それでも愛はあったんだよ」と、死に絶えた巨人は言います。
でも、愛と言えば何でも許されるのですかと時間虫は反論します。
「われわれはこんな悲しいものしか残せなかったけど、そこに愛があったことは嘘じゃない」
でも、僕はそれを食べなきゃならないんです。
あなたたちの愛なんて、うんざりだ。
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