カレノカノ

カゲトモ

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「ったくさー、ちょっとくらい驚いたりしないわけ?」

「えー」

「えーって。俺、こう見えても店で凄く人気なんですけど」

 少しばかり大きな荷物を持った(と言ってもトートバッグ。いつもは小さなクラッチバッグだ)ミヨがどっかりとカウンターに腰かけていた。今日はもう、退勤してきたんだと。

「本当の女の子みたいって、お姉さま方から人気高いんだから」

「オネェさまじゃなくって?」

「お姉さま、だよっ。もちろんおじさまもだけど」

「へー」

「うーわ。興味ないって顔だ」

 当たり。別にミヨの需要状況とか興味ないし。

 ミヨは裏にあるオネェスナック“ミケ”のスタッフだ。オネェではなく、男の娘として勤めているが、実際外でもそのスタイルは変わらない。

「普通男湯で女の子みたいな人が入って来たら少しくらい驚くでしょ?」

 昨日常連さんから貰ったタダ券で近所のスーパー銭湯へ行った。その時そこのサウナ室でミケと会った。いや、正確には勝負した? ちなみに勝ったのは俺だ。

「いや、だって、ミヨだったし」

「最初から気づいていた訳じゃないでしょ」

 そりゃそーだけど。

「だからって入って来た人の事じろじろ見るもんじゃないだろ」

「じろじろ見なくてもシルエットでドキッとするでしょ! 前隠してたんだから」

 隠してたのかよ。頭にタオル乗っけてて顔が見えなかったことしか覚えてないし。

「俺の事見て驚かなかった人の方が少ないんだから」

 とミヨが両頬を膨らませた。驚かせなかったのが不満らしい。今どき可愛らしいからってだけでは、もう驚かないぜ?

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