掌編集
楽獅寺 伽音
星型マザー
空はもう小さい輝きに満ちていて、手を口元まで運んで息を吐く。白い。
「なにやってんです?もうご飯にしましょう?」
ドアを半分開けてこっちに頭だけをひょっこりと出して、アイツがよんだ。
「うん、今行く。」
最後にもう一回空をみてから早いとは言えないスピードで家へと入る。
あったかい。
今日は特に面白い番組なかったよな、とかどうでもいいことを考えながら椅子につけば、見計らったかのようにアイツは目の前に茶碗類を並べていく
「さあ、どうぞ。めしあがれ。」
箸を持って、茶碗を持つ、そこまでの動作をしてから、気付く、その存在。
「あ……ああぁぁああっ!!」
「どうしたんです?」
もぐもぐ、とその存在を口に運ぶアイツ。俺にもっちゃお前の方が「どうした?」だ
「何で人参なんかいれたんですか!!肉じゃがに人参は邪道だと言ったでしょうが!!うわぁあああ……!!!!!!」
肉じゃがに君臨する、星型にカットされて堂々と存在をアピールしてくる人参。
思わず敬語になってしまうほど。俺にとって“コレ”はそれほどのコトなのだ。
椅子から崩れ落ちるように叫べば、アイツは俺の前まできて笑顔で言い放った
「文句いうなら、追い出しますが?」
こんな寒い中、暖かい室内に適した格好のまま外にだされたら
確実に、死ぬ。——完敗だ。
「……」
「……」
無言で見つめ合う—ロマンチックな言い方をしているが、実際は無言の圧力と無言の抵抗って所だろう—俺たち。
アイツの背後には【残したらどうなるかわかってるでしょうね】という、文字が見える気がするのは……いや、これ以上は考えないでおこう。
しばらくして、ふっとアイツは(悪魔のような)笑顔を消し、椅子に腰かけた。
「さあ、早く食べてしまいましょう。」
冷めてしまいますよ?と、ちょっと困ったような顔を向けてきた。
「追い出さないの……?」
「追い出されたいんですか?」
アイツは箸を食卓に置き、カップを口に運ぶ。
「すみません、イジワルしすぎました。」
ふぅ、と一息。ホットティーを適温まで冷ますように吹きかける。
「アナタが嫌がるの、分かってたんですけどね。」
コイツッ!!と、また怒りのボルテージが上がったが、
「でも、私はね、アナタのお母様が作ってくれたように、作りたいんです。」
すみませんね、困ったような笑顔を向けて、カップの中身を足しに席を立った。
思いっきり、ガッ!!と音が聞こえてきそうなぐらいに茶碗をひっつかむ。
行儀が悪いだろうが、気にしない。夢中になって“ソレ”を口に掻き込む。
別にアイツの目が優しかったから。とか、寂しそうだったから。とか、そんなんじゃない。
俺のお腹が食べ物を必要としてたからだ!
なんか、言い訳みたいだ。
アイツが戻ってきた。ああ、すっごい顔……ちょっと笑える。
ふにゃ、アイツが笑った。
「ありがとうございます。」
アイツは目にキラキラと涙を浮かべて、俺の頭をなでた。
俺は母さんのことなんて覚えていないし、
俺は母さんの味なんて、食ってないからわかんないけど、
きっとコイツの作ったのみたいな味なんだ。
目頭が熱くなる。きっと、母さんの星が俺に会いに来たんだ。
掌編集 楽獅寺 伽音 @rakushiji
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