滅び行く世界の片隅で

ゆーうに

滅び行く世界にりんごの木を

第1話 砂中の旅

 

 この物語を誰かが読んだという事は、私はもうこの世にいないのかもしれない。

 でも、貴方に引き継いで欲しいと思う。私が、いや、私たちが生きた世界を。地球を。


 そして、知ってほしい。私たちの存在を、


 記録者:アイリ


□□□□□


 砂に足が捕らわれ、上げる足が重く感じる。また、風が肌へと当たるたびに、砂の香りが全身で感じる。

 灼熱の太陽が照らす砂漠で、私は迷子になったようだ。

 

 前の街を出発する時に、、

「東へまっすぐと1日行けば、次の街が見える」

 と言われたのだが、既に3日が経過しているのがその証拠。


 真っすぐと来たつもりだったんだけど…。目印もない砂漠を真っすぐ進むのは、定規なしで紙に線を引くよりも難しい。


 大型のバイクに荷物を括り付け、それを力任せに少しずつ前へ前へと押していく。砂が深いこの地域では、バイクは使い物にならない。

 タイヤが砂へと埋もれ、空回りを起こすたびに板を下へと潜り込ませる。暑さとこの作業のせいで、徐々に体力が奪われてゆき、既に限界だ。永遠に続く地獄の作業はいつ終わるのか。


 ゴールの見えない砂漠の地平線を眺め、

「あっつい」

 とぼやき、脚を止めた。


 ぼやける視界を、なんとか薄目で絞り込みながらピントを合わせた。バイクに括り付けられているテントを取り出すと、フライパンのような砂の支柱を建て、布を張る。

 ボトルから水をコップに入れると、テントの中で横になった。


 水を口に運ぶと、太陽の熱で温まった水が、するりと喉を通りすぎてお腹へと入っていく。出来たら冷たい井戸の水でも飲みたいのが本音。けど、飲める水あるだけマシ。


 大の字になり、

「はぁ…」

 とため息をこぼす。


 このままこうしてたら誰か迎えに来てくれないかな。


 ここはサハラ砂漠のど真ん中、、というわけではない。もしくは、異世界と呼ばれる場所なのかと聞かれたら、それもそうではない。


 ここはれっきとした地球であり、ここは名もなき砂漠の真ん中でなのだ。

 というのも、ここ数百年で地球の大半は砂漠になってしまったのだ。何処を旅しても、砂漠化、何もない荒野やひび割れた大地。


 人類と動植物の、その全てが絶滅危惧種であり、かつての動植物図鑑そのものがレッドリストへと姿を変えているような時代。

 かつてあった巨大な建造物は倒壊し、人類の象徴であった科学文明もとうに消えた。


 このバイクや、テントとか、かろうじて残っている旧文明の遺産はオーパーツとして扱われ、使い方を知っている人は少数存在するが作ることはできない。


 で、私がなんでこんなにも荒廃したこの世界で物事に詳しのか?


 私は旅人だからだ。


 各地の街をまわり、様々な話を聞いたり本を読んだりする。何よりの趣味は、オーパーツを集めること。そして。旧文明に触れること。

 この時代唯一の、情報人型ネットワークインフラと呼んでも過言ではない。


「面白い話ないかな、、」


 過去にいった場所といえば、世界一高い塔、海峡を渡る大きな橋の残骸や海に沈んだ都市など様々ある。

 どれも凄かった。思い出すだけで心臓の心拍数が上がり、ぞくぞくと身の毛が高まる。


 ニヤニヤと記録の書物と勝手に私が呼んでいる物を見つめた。


 この記録の書物とは、スマートフォン?と呼ぶらしい。記録の書物に入っている辞書に、そう書いてあった。銀色に輝く端末で、私の旅の記録や写真が保存されている。


 裏には、蛍光ブルーの色をした蜘蛛の巣を基調とするデザインのロゴが彫り込まれている。

 それが夜になると、うっすらと光浮かび上がるのがシャレオツだ。


 このロゴは私のバイクの側面にも同じものが刻まれていて、赤を基調とするデザインによくマッチしている。

 これを作り出した人は、どんだけ素晴らしいセンスをしてるのだろう。もう亡くなっているだろうが、是非ともあってみたい。

 そして、このバイクにサインをしてほしい。


 ほほを緩めるながら、写真フォルダをスクロールしてると、画面が真っ暗になる

 「あっ」


 しまった、充電するの忘れてた。


 私は記録の書物の電源ボタンを何度も押したり、画面をタップしたりするが、

「あ~~。まだ見てたかったのに、、」

 と流石に諦めた。


 しぶしぶと立ち上がって、テントを畳むとバイクにしまい込む。真黒に細長いケーブルを取り出すと、バイクの端子へとを指す。

 もう片方の先を、記録の書物の下へと突き刺すと、画面の一部が小さく赤く光った。

 これで、充電が出来ているらしい。


 「充電が終わるまでは歩くかな」


 石のように重い脚を上げ、動きたくないと手が震える。それを頭からの命令で無理やり働かせ、亀のようにゆっくりと再び歩き出す。


 太陽の傾きが15度ぐらい変化し、透明な光がオレンジ色に染まる気配がしだした。

 と、私はバイクが軽くなっている事に気が付いた。足で砂を蹴とばすと、今まで深かったのが浅くなっている。

 歩くスピードが今までは全然違う。

 太陽をちらりとにらむが、まだ1時間はいけそう。

「よし、進めるだけ行こう」

 ももを上げると、つりそうとばかりに痛みを感じる。

 ゆっくりとバイクに乗り込み、頭につけていたゴーグルを目の所まで引っ張りそうちゃくすると、エンジンをかけた。親指でアクセルのレバーをグッと押した。

 最初はうんとも言わなかったバイクだが、指に力を入れるにつれ、前へと動きだす。


 身体中が喜びに沸くいた。

 「これで歩かなくてすむ」

 とでも言いたげだ。


 バイクのエンジンが、大きな機械音を上げる。

 べとべとだった汗を冷やし、風が通りすぎる。この感覚が最高に気持ちい。

 今では、私のような旅人ぐらいしか乗り物は持っていないが昔の人はこの感覚をもっと多くの人が体感していたのだろう。さらにはもっと多くの種類で。実に羨ましい。

 

 私は生まれる時代を完全に間違えたのだと思う。


 久しぶりのバイクに乗る快感に浸っていると、遠くのほうに小さな点が、ちらちらと視界に入る。

 目を細めてゴーグルを取り、

 「蜃気楼?にしては」

 と疑いはしたが、あの形と大き、間違いない街だと確信をし、バイクの進路をそっちに向けた。


 近づくにつれて、はっきりと建物が見えだす。石や岩で作られた建物のようだ。

 とても質素な建物がほとんどで、旧文明の面影さえ感じない。この時代に作られた建物であることは、一目瞭然だ。

 

 ちょっと残念。


 建物のすぐ近くまでたどり着き、バイクから降りた。

「あんた旅人だな?」

 さすがに大きな音を上げながらバイクで近付いたせいで、街の入口で住民に囲まれ始めた。

 老若男女問わずに、私とバイクに興味深々のようだ。

 

 かくいう私は、彼らのことを全く興味がない。

 だから、適当に、

「そうよ」

 とあしらった。


 私の返事に、静かに見ているだけだった彼らは、口々に様々ことを次々に聞き出した。

 これだから人間は嫌なのだ。無理があると思うが、静かに街へと入れてほしい。


「これって何?あの音はこれ?」

「そうよバイクっていうのよ」


「何処から来たの?」

「遠くから」


「その頭についている黒いの何?」

「ゴーグルっていうオーパーツよ」


「なんか面白い話聞かせて」

「あとでね」


 ほら、面倒。この問いかけが、後何回続くのだろう。唯一元気だった口まで疲労を感じ始める。

 しかし、しょうがないのだ。この街で休むには、彼らの機嫌を損ねてはならない。


 質問の雨と押し寄せる住民の中

「ほらほら。その辺にしなさい」

 と、老人の声が響いた。


その声の方から、すぅっと人がはけると花道のような場所から1人年寄りが姿を見せた。その格好と言動から、この人がこの街の長であることが一目でわかる。


私は少しだけ頭を下げ、

「この街の長でいらっしゃいますか?」

と問いかけた


 老人は伸びる白いひげをなでながら、ゆっくりと頷き、

「いかにも。おぬしは旅人だな」

 と肯定をする。


「えぇ。しばらくの滞在をお許しください」


「構わない。それより、皆が迷惑をかけた。お疲れだろう、家に招待しよう」


 街によっては、滞在のための対価を求めてくることがある。

 旅人はたいてい珍しいものをもっているからだ。

 そういった時は決まって、そのまま街を過ぎ去る。オーパーツを渡すぐらいなら、休みなどいらない。

 にこやかな顔をした長に、私もにこやかに顔を上げて答えた。


「ありがとうございます」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る