　あなたは巍（ぎ）然としていた。

　最大級の悲劇の兇兆に遯（とん）竄（ざん）しなかった。

　唐突に基（き）督（りすと）教（きよう）が――基（き）督（りすと）の存在そのものが――隠蔽されてから十四世紀澎（ほう）湃（はい）たる二遍の世界大戦――前述の通り希（ぎ）臘（りしや）神話を標（ひよう）榜（ぼう）し這（しや）般（はん）の宗教を殲（せん）滅（めつ）せんとする覇権国羅（ろー）馬（ま）と基（き）督（りすと）教（きよう）が消滅しフリーメーソンが暗躍するようになった亜（あ）米（め）利（り）加（か）とによる第三次世界大戦および露（ろ）西（し）亜（あ）国内の秘密結社の陰謀によって惹（じやつ）起（き）され事実上覇権国亜（あ）米（め）利（り）加（か）と同羅（ろー）馬（ま）との総力戦となった第四次世界大戦――を閲（けみ）して四十世紀へと突入した爾（じ）時（じ）世界の片隅日本列島は新潟県を中枢として新興宗教を勃興させたあなたは旗（き）幟（し）鮮（せん）明（めい）たる倫理道徳と安寧秩序のもとに混（こん）沌（とん）たる現代文明を復活させんと獅（し）子（し）奮（ふん）迅（じん）の精神で邁（まい）進（しん）していた。巍（ぎ）峨（が）たる神道が完璧なる国教となった日本において猶（ゆ）太（だや）教系新興宗教は意想外にも狂（きよう）瀾（らん）怒（ど）濤（とう）の勢力で日本列島津々浦々を席（せつ）捲（けん）してゆき遂（つい）には老（ろう）獪（かい）なる巨大与党二党と連立政権を磐（ばん）石（じやく）とする魁（かい）偉（い）なる新政党を――猖（しよう）獗（けつ）を窮める第二次世界大戦における敗北と連合国軍総司令部の掲揚した日本国憲法の発布から二十世紀民自党と主民党との二大政党時代を閲（けみ）して民自党と主民党の連立による事実上の保守系巨大独裁政権が樹立須（しゆ）臾（ゆ）もなく日本国憲法の大幅なる改変が国民投票による圧倒的支持で遂行これにより政教分離の精神は実際問題として湮（いん）滅（めつ）され巨大独裁政権は毀（き）誉（よ）褒（ほう）貶（へん）相半ばする政権を磐（ばん）石（じやく）にするために欣（きん）喜（き）雀（じやく）躍（やく）として新興宗教による新政党との連立を諒（りよう）承（しよう）した――樹立するにまで到達した。摩（ま）訶（か）不（ふ）思（し）議（ぎ）なる不老不死の教祖として君臨することとなったあなたは――あなたは不老不死であって『不死身』ではないので――新興宗教による政党が老（ろう）獪（かい）なる保守系巨大独裁政権と盟約したことを呪（じゆ）詛（そ）する獅（し）子（し）奮（ふん）迅（じん）の急進過激派による暗殺を危惧し事実上怜（れい）悧（り）なる新政党党首を新興宗教の党首として任命しおのれは狭（きよう）隘（あい）なる新潟市の教会に蟄（ちつ）居（きよ）するようになった。

　あなたは遯（とん）竄（ざん）しなかった。

　畢（ひつ）竟（きよう）燦（さん）爛（らん）たる大天使ガブリエルとの契約によって綿（めん）邈（ばく）たる六百年後に一（いち）蓮（れん）托（たく）生（しよう）のわたしと邂（かい）逅（こう）できることを約束されていたあなたはこの天界での契約の背後には奇奇怪怪なる霊威による陰謀が隠蔽されていると考（こう）覈（かく）し千思万考しながら巍（ぎ）然たる態度で世界情勢と人類史を翻弄する極秘裏の陰謀と対（たい）峙（じ）せんとしていた。そのために新興宗教の教祖として陶（とう）朱（しゆ）猗（い）頓（とん）之（の）富（とみ）を掌握したあなたは万（ばん）斛（こく）の財産を蕩（とう）尽（じん）するかたちで奇妙奇（き）天（て）烈（れつ）なる人類史の豹（ひよう）変（へん）の研究に没頭し澆（ぎよう）季（き）混濁の世界情勢に倦（けん）厭（えん）した世界各国津々浦々の碩（せき）学（がく）たちを招（しよう）聘（へい）し此（こ）処（こ）までの体験を解説したうえでともに臥（が）薪（しん）嘗（しよう）胆（たん）して極秘裏の世界豹（ひよう）変（へん）の実態を追窮していった。人類史における最大級の変貌は約四千年前に殲（せん）滅（めつ）されていたはずの邃（すい）古（こ）羅（ろー）馬（ま）帝（てい）國（こく）が巍（ぎ）然として現代史に君臨していたことと第二次世界大戦で凱（がい）歌（か）をあげた覇権国亜（あ）米（め）利（り）加（か）の中枢に秘密結社フリーメーソンが蔓（まん）延（えん）することになったという二点であった。ともに旗（き）幟（し）鮮（せん）明（めい）たる資本主義国家として遼（りよう）遠（えん）なる二十世紀には共産圏たる露（ろ）西（し）亜（あ）や中華人民共和国と対（たい）峙（じ）し隠（おん）密（みつ）裏には羅亜共同条約を盟約していたほど一（いち）蓮（れん）托（たく）生（しよう）の存在であった両国だが爾（じ）来（らい）二十世紀を閲（けみ）していずれか一方あるいは両方に――現代の日本かそれ以上の権力を掌握する――魁（かい）偉（い）なる独裁政権が勃興すれば現代世界情勢も愈（いよ）々（いよ）巨億の人類を犠牲にする終（しゆう）焉（えん）期へと驀（ばく）進（しん）することは一目瞭然であった。二十一世紀の狡（こう）猾（かつ）なる黒人大統領の誕生から梟（きよう）猛なる白人差別が瀰（び）漫（まん）することになった亜（あ）米（め）利（り）加（か）で老（ろう）獪（かい）なる黒人独裁者が誕生すれば世界規模で白人が危機にさらされるであろうし第二次世界大戦前後全体主義政権が君臨していた羅（ろー）馬（ま）帝（てい）國（こく）において輓（ばん）近（きん）瀰（び）漫（まん）している羅（ろー）馬（ま）帝（てい）國（こく）新全体主義の趨（すう）勢（せい）が磐（ばん）石（じやく）となればふたたび端（たん）倪（げい）すべからざる第二次世界大戦中の阿（あ）弗（ふ）利（り）加（か）系羅（ろー）馬（ま）人大量虐殺が勃発しないともかぎらなかった。

　事態は緊急を必要とした。

　翩（へん）翻（ぽん）として改（かい）竄（ざん）されてきた人類の歴史は最大級の豹（ひよう）変（へん）をむかえることとなった。そもそも魁（かい）偉（い）なる邃（すい）古（こ）羅（ろー）馬（ま）帝（てい）國（こく）は西暦一九一四年に釁（きん）端（たん）のひらかれた第一次世界大戦では獰（どう）猛（もう）なる巨大帝（てい）國（こく）として羅（ろー）馬（ま）帝（てい）國（こく）から独立せんとしていた英吉利（いぎりす）仏（ふ）蘭（らん）西（す）および領土の一部を占領されていた露（ろ）西（し）亜（あ）という三国による三国協商と猖（しよう）獗（けつ）を窮める衝突を瀰（び）漫（まん）させた結果最大規模の軍事都市であった独（ど）逸（いつ）を殲（せん）滅（めつ）され完璧なる敗北を喫していた。更に西暦一九三九年に突如羅（ろー）馬（ま）帝（てい）國（こく）が露（ろ）西（し）亜（あ）に宣戦布告したことから濫（らん）觴（しよう）した第二次世界大戦においても覇権国亜（あ）米（め）利（り）加（か）による首都羅（ろー）馬（ま）への核攻撃という最悪の事態におよんでまたもや惨敗していたのである。四十四世紀へと突入した現代において人類史はまたもや改（かい）竄（ざん）されこの澎（ほう）湃（はい）たる両世界大戦――畢（ひつ）竟（きよう）二十世紀までの人類最大規模の悲劇――までもが完璧に豹（ひよう）変（へん）してしまった。畢（ひつ）竟（きよう）第一次世界大戦では三国協商による独（ど）逸（いつ）占領は湮（いん）滅（めつ）され戦後巨大都市独（ど）逸（いつ）においてアドルフ・ヒトラーを党首とした『国民社会主義羅（ろー）馬（ま）労働者党』――『国粋主義』の独（ど）逸（いつ）語読みから略して――『ナチス』が狂（きよう）瀾（らん）怒（ど）濤（とう）の勢力で羅（ろー）馬（ま）帝（てい）國（こく）の第一党の玉座を簒（さん）奪（だつ）したのである。かくして惨（さん）憺（たん）たる第二次世界大戦では磐（ばん）石（じやく）たる科学技術の研（けん）鑽（さん）によって『ナチス』は世界初の原子力爆弾を製造し魁（かい）偉（い）なる散発の原子力爆弾を覇権国亜（あ）米（め）利（り）加（か）本土に投入して凱（がい）歌（か）をあげることとなった。羅（ろー）馬（ま）帝（てい）國（こく）は欧（よー）羅（ろつ）巴（ぱ）と亜（あ）米（め）利（り）加（か）大陸を支配する超巨大なる独裁主義的覇権国へと成長した。混（こん）沌（とん）たる現代四十四世紀におよんで婆（ば）娑（さ）羅（ら）狼（ろう）藉（ぜき）のナチスが君臨する羅（ろー）馬（ま）帝国は新世紀の大量虐殺の端緒たる『反ナチス反羅（ろー）馬（ま）人殲（せん）滅（めつ）作戦』を遂行し世界全土を支配せんと――ナチス党首曰（いわ）く――『神（しん）聖（せい）なる世界最終戦争』を布告したのであった。