IQ200!? アインちゃん☆ みんなは幼女の不思議に答えられるかな?

にのい・しち

第1話 教えて、お星様

 山に囲まれたアメリカの田舎町。

 12月25日は綿のようにフカフカな雪が町を包んでいました。


 ちょっと寒いクリスマスの夜。

 2階のお部屋から小さな女の子は、お星様に語りかけます。


「ねぇ、お星様? アイン、不思議だわ」


 5歳のアインちゃんは、ホットケーキのようにふくらんだ、ほっぺを両手でささえ、ひじを窓のへりに乗せながら、夜空を見つめて溜め息をつきます。


 アインちゃんは金の糸を束ねたように綺麗な金髪で、ドレスのような白いパジャマはお姫様のように優雅です。

 目はサファイアみたいに青く輝いている、愛らしい幼女なのです。


「ねぇ、お星様? アインの不思議に答えてほしいの? サンタ・クロースさんは本当にいるの?」


 悩んでいるうちに眠くなってしまったアインちゃんは、眠い目をこすりながら、ベッドに歩いて行きます。

 するとーーーー。


「やぁ~お嬢ちゃん! メリークリスマス! サンタ・クロースだよ!」


 振り向くと赤いお洋服に、雪のように真っ白なおひげ、サンタのオジサンはニコニコしながら2階の窓から現れました。

 

 本物のサンタさんにアインちゃんは飛び上がり、大喜び。


「わぁー! サンタさんだぁー」


 サンタさんはアインちゃんに聞きます。


「さぁ! お嬢ちゃんの欲しい物は何だい? 大きな袋から欲しい物を出してあげよう」


「アイン、プレゼントはいらないの」


 サンタさんは首を傾げます。


「おや、珍しい子だねぇ。じゃ、何が欲しいんだい?」


「サンタさん。アインの不思議に答えてほしいの?」


「お安いご用意さ! さぁ、何でも聞いておくれ?」


「んとね~……」


 アインちゃんは爛漫とした青い瞳で見つめ聞きます。


「サンタさんはとうやって、1日で世界中の子供にプレゼントを配るの?」


「はぁはぁはぁ! 何、サンタ・クロースは1日で世界中を飛び回れるんだよぉ」


 豪快に笑うサンタさんに、アインちゃんは聞きます。


「それだとおかしいわ? だって地球の人口は約79億人。そのうち子供は約

21億人。

それだけの人数にどうやって配るの? 

地球の大きさは1万2千742キロメートル。 

世界一、大きいお山のエベレストでさえ、標高8キロメートルだから、比べようのない広さなの」

 

 サンタさんはアインちゃんの質問に驚き、感心しながら言います。


「お嬢ちゃん、すごいねぇ~。難しいことを知ってるねぇ~」


 アインちゃんは続けます。


「それだけじゃないわ。ある科学者は1日で回るのに、時速2万8千キロメートルの速さが必要だって言ってたわ。

地球の外、宇宙へ行くロケットと同じくらいの速さよ?

そんな速さで飛んでいたら、ソニックブームが発生して、お家は滅茶苦茶よ?」


 サンタさんは返す言葉が見つかりたせん。


「そ、そうだね~、速いね~」


「それだけの速さをどうやって生み出すのかしら? 

トナカイさんはお空を飛ぶけど、推進力は何? 

ロケットは科学薬品のヒトラジンや硝酸。液化メタンや液体酸素を組み合わせて飛ぶけど、トナカイさんにも同じ仕組みなのかしら? 

でも、お尻からブースターが噴射されたら、トナカイさんのお尻が爆発しちゃうわ! 

だって3000度の炎が噴射されるのよ? 

地球で、とても熱いマグマだって1500度なのよ? 

も~と熱いわ」


 アインちゃんの疑問に、サンタさんはなんとか答えようとします。


「ト、トナカイのお尻は頑丈だから平気だよ。ハ・ガ・ネのお尻!! それにサンタは、もっと高い、お空を飛んでいるから、ソニック……ん~は、大丈夫なんだよ!」


「でも、世界各国の航空会社は、安全なエアラインを確保するために、常にレーダーで空を見ているのよ?  

サンタさんが乗ってるソリと、ソリを引く6匹のトナカイの大きさは、セスナ機くらいになるだろうから、レーダーにも引っかかるはずよ?

その他にも、領空を侵犯する未確認飛行物体を監視する為の、軍事用レーダーがいくつもあるから、クリスマスの日は、ミサイル警報が鳴りっぱなしになるはずよ?」


「サ、サンタは、も~と高い所を飛んでいるから大丈夫さぁ~」


「でも、大気がある地上で、時速2万8千キロメートル で飛行したら、摩擦熱で燃えてしまうわ」


「も、もも、もっと高いところだよ!」


「もっと上? それでも上空200万メートルの人工衛星に捉えられるはずなの、でも、その高度だと人間は気圧に耐えられなくて、呼吸もままならないのよ。

それ以上だと、宇宙と地球の境界線、アームストロング・ラインでは、気圧の上昇で血液は沸騰して、身体は風船みたいに膨らんで破裂しちゃうのよ?」


 サンタさんは黙ってしまいました。

 アインちゃんの疑問は止まりません。


「アームストロング・ラインを越えたとしても宇宙は、と~ても寒いのよ。どれくらいかと言うと、マイナス270度の絶対零度。サンタさんもトナカイさんも凍っちゃう。

あれ? もしかして、サンタさんの赤いお洋服は、宇宙服なのかな?」


「う、う~ん……そうかもね」


 サンタさんはとりあえず、頷きます。


 アインちゃんは、愛らしい顔に似合わない、深刻な顔つきで聞きます。


「それにね。世界には、怖い人達がいっぱいいて、世界中で戦争や紛争をしているの。

夜は、いつ銃弾や砲弾が飛んで来るか解らないのに、サンタさんはそんな危険な場所に、とっても目立つ赤い服でプレゼントを配りにいくの? 

それに紛争地帯に住む子供達は、プレゼントや千羽鶴より、美味しい食べ物や、お薬が欲しいはずよ?」


 サンタさんは、アインちゃんのお話に付いて行けなくなり、さえぎります。


「待っておくれ! お嬢ちゃん……君は何でそんなに頭がいいんだい?」


 アインちゃんは笑顔で答えます。


「アインね、IQが200以上あるのよ! パパとママは、アインシュタインの生まれ変わりだって大喜びして、彼から名前を取ってアインにしたの」

  

 サンタさんは、少し疲れた顔をして言います。


「そ、そうか……お嬢ちゃん。ごめんね……サンタのオジサン。いろいろ考えたいから、今日は帰るよ」


「もう帰っちゃうの? うん、またね~」


 アインちゃんは、サンタさんに無邪気に手を振ります。


 サンタさんは来たときより、何だか小さく見えました。


 サンタさんを見送ったアインちゃんは、ほっぺたを両手で抑えて、また、夜空のお星様を眺めます。 

 

「ねぇ、お星様? やっぱり世界には不思議なことが多いわ。アイン、解らない」


 翌年、クリスマスになっても、アインちゃんのお家にサンタさんは現れませんでした。

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