Chapter5 凱旋
「で、ヴァイスさん。その、イルム王国とやらは遠いんですか?」
未だ片膝をついたままのヴァイスさんに対し、俺は少し気まずい感じで問い掛けた。
「いえ、すでにここはイルム王国の領地であります。
近くに馬車を待たせておりますゆえ、それほど時間はかからぬかと。」
ここでようやくヴァイスさんがゆっくりと立ち上がり、俺の前に凛々しい姿勢で立つ。
ヴァイスさんが指を鳴らすと、森の陰からドドドッと騒々しい音を立て馬車がこちらに向かって走って来た。
馬が2頭に屋根付きの馬車。屋根はなめした皮で作られている。他にも色々と豪華な装飾も施されていた。
マジか! 馬車だ! 初めて見たな…
アニメの世界でしか見た事無い馬車に俺は心が踊った。それに生まれて初めて至近距離で馬を見た。
その馬のプリティな目をウットリ見つめる俺。
そんな俺を羨望の眼差しで見つめるカルミナ。
ヴァイスさんが運転席?と言えばいいのだろうか…そこに乗り込んだ。
「さぁ! 行きますぞ! お乗り下され!」
ヴァイスさんが手綱を掴み、意気揚々としている。
俺とカルミナは馬車に乗りこんだ。
そして俺とカルミナを乗せた場所は城に向かって走り出した。
ドドドッドドドッ
お世辞にも乗り心地は良く無い。
まだ、俺の愛車ランボルギーニ(10年落ちの中古の軽)のほうが快適だ。
横に座ったカルミナが、ジッと俺を見つめている。
「な、なんだよっ、おれの顔に何か..」
俺は少し顔を赤くしながら照れてしまった。
「い、いえ、なんでもありませんよぉー」
カルミナは、しまったと言った感じにすぐさま目を逸らし、横を向いてしまった。
なんだか嬉しそうだな、カルミナ。
走り出して30分ほど経っただろうか。
窓から見える景色が、気付いた時には綺麗な西洋風の街並みに変わっていた。
街の中に小さな川も流れている。
「っと…ここは?」
俺は馬車の窓から外を見て、すぐにカルミナを見る。
「はいっ、ここはですね、イルム王国の城下町ロートリアといいますよぉ。」
カルミナは少しはにかみながら、体を俺の方に向けた。
街はとても賑やかで華やかだった。
そこにいる人達も皆、笑顔だった。とても他の国と戦争中だとは思えない雰囲気だった。
襲われた緊張感から開放されたのか、カルミナがやたらと俺に笑顔を見せるようになっていた。
窓から入った風に、カルミナの銀髪がなびいている。
それはとても幻想的で、絵になるとはこの事だろう。
俺は窓から顔を出し、街の人に手なんか振ってみる。
街の人達も陽気に手を振り返してくれる。
気分は修学旅行だ!
「なぁ! カルミナも一緒に…」
俺はカルミナの方を向き、手を差し出した。
「…いえ、わたしは…」
顔を伏せ、少し申し訳無さそうに話す。
なんだろう、急にカルミナの元気が無くなったな…
街の人と交流するのが苦手なのだろうか。
ほどなくして馬車はバカでかい門の前で止まった。
門の前には数人の門兵らしき人も居る。
「さあ! 着きましたぞ!」
ヴァイスさんが馬車から降り、俺達にも降りるよう促す。
俺とカルミナも馬車から降り、3人は門の前に並んだ。
うわぁ…鎌倉の大仏並みの門だなこりゃ…
よくアニメとかで見るが、こんなデカい門て、どういう仕組みで開くのだろうか?
電動とかではあるまいし、まさか人力…
と、いらぬ模索をしていると門がゴゴゴと大きな音を立て、開く。
「「カルミナ レオ イルム王お帰りなさいませ!!」」
大勢の人間の揃った大きな声だった。
門が開くとそこには、左右に分かれ跪く《ひざまづ》騎士と、従者達。
100人近くいるのではないだろうか、その先には巨大な白い城が見える。
城と言われ、俺は姫路城のような物を想像してしまっていたが、西洋風のお城だった。
「さあ、こちらへどうぞ。」
ヴァイスさんが先を歩きカルミナ、俺と続く。
庭とでも言うのだろうか、城の敷地を抜けて城への扉に向かう。
城への扉を開けて中へ入ると、すぐに大広間があり、
そこにも従者だろうか、数え切れないほどの人がいた、皆カルミナに跪いている。
そこでヴァイスさんも跪いた。
その1番奥に玉座が見えた。見るからに王の椅子だ。
カルミナの顔には先ほどまでの笑顔は無かった。
「…少し待っててね…皆んなが納得できる説明を思い付いたから…」
カルミナが俺の耳元に手を当て、少し顔を赤くしながら小さな声で呟いた。
何の事だろう? 俺の事だろうか?
カルミナはスタスタと前へ歩きだし、玉座に腰掛けた。
そして、足を組み、大きな声で言い放った。
「皆の者! 私が留守の間、城の警護ご苦労であった!
楽にしてよい!」
は、はぁ? さっきといい、キャラ変わりすぎだろ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます