俺の不死物語に終幕をもたらすのは誰か

樋口 之

Chapter1 終わりの始まり


「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッー!!」


え? うるさい、何をしているのかだって?

ふふっ、聞いて驚くなよ? 俺は今、地上50mから高速で落下中だ!


バンジージャンプ? いやいや、背中にゴムなどは無い。


スカイダイビング? ハハッ、違う違う。もちろんパラシュートなんて物も背負ってないさ。


只の飛び降りだよ。そう、ごく一般的な飛び降り。


いやぁ、もう何て言うか全部嫌になっちゃったんだよね。じゃあ、そういう訳だからっ! バイバイ!


ーー完。




とは、ならなかった。

ここから始まる、俺の不思議な物語。

それでは皆様、ごゆっくりとご覧下さい。


時間を少し遡りまして、さぁ、始めましょう。




「…うん、決めた、俺死ぬわ…」


俺の名前は、小田 けい

元気いっぱい!借金もいっぱい。23歳童貞彼女無し!

職業は、まぁ何と言うか、いわゆるフリーターである

高校入れば、彼女の1人や2人できるであろう。

大学さえ出れば、楽な仕事に就けるのであろう。

そんな、ノリだけで生きてきて、今のこの現状だ。

いや、惨状という言葉がふさわしいかも知れない。

本当に、社会不適合者の見本にさえなれるんじゃないか?

とすら、思う。


「何故、俺には彼女と言うか、女の子が寄ってすらこないんだろうか..顔だってイケメンとまではいかないにしても、決して悪くないはずなんだがなぁ…」


俺は常日頃、鏡に向かって問い掛けていた。

しかし、ギャンブル好きで、散らかった部屋で自堕落な生活を送っているフリーターなんてモテるはずがない! (自覚あり)



「え? 肉体労働があるなんて聞いてないですよ」

「俺、こういうの得意じゃないんで、他の作業回してもらえますかー?」


言い訳ばかりで1つの仕事が続いた試しが無い!

能力は人並み以下のクセして、プライドだけはやたら高いもんだから余計にタチが悪い。

楽はしたいが、人には認められたい。

俺だったら、こんな奴が後輩に居たら殴っている。


俺が全て悪い、自分のせいで今の状況に置かれているという事はもう分かっていた。

分かっていたが、認めたくなかった。


だが、もうここいらが限界だろう。

生きる意味を見い出す事ができない…

このまま何の目標も無く、死んだように生きるのは、

俺は死ぬ事よりも辛いと思っている。

辛いこの世に別れを告げて、あの世でhappyLifeだ!


「…この高さなら...決めた、ここにしよう。」


俺は風でシャツをなびかせながら、ビルを見上げた。


時刻は深夜2時を回ったところ。

歩き回ってようやく見つけた、

見た所、10階建て以上はありそうな廃ビル。

闇の中にぼんやりと不気味な月明かりに照らされて立つ巨大なビル。

この高さなら確実に死ねるであろう。


中途半端な高さから飛び降りて、骨折で済んだとか、

逆にシャレにならんからなー。


「えーっと、入口は...」


ビルの正面付近をキョロキョロと見回す。


なんて事だ…治安大国日本とは思えない、出入り自由だと?

まぁ、俺にとっては、そのほうが助かるんだが。


もちろんエレベーターなどは動いてるはずも無い。

俺は地道に階段を一歩一歩進んでゆく、

まさしく処刑台に登る気分だった。


足を進めながら、俺は今迄の人生を振り返ってみた。


「笑えるぐらいに何もねぇよ! 笑いすぎて泣けてくるわ…ハ、ハハ、ハッハハハ!」


俺は腰に手を当て、反り返りながら笑った。

鉄筋コンクリートの壁に笑い声がよく響く。


もし、俺が有名人になってインタビューで、学生時代、社会人の時の思い出は何ですか?

と、聞かれれば声を大にしてこう言うだろう!


「ないです。しばくぞ。」と!


「まぁ今迄生きてきて大した怪我も病気もした事無かったからそこは両親に感謝だな、うん。

…ん?…怪我? 病気? そういえば記憶に無いな…」


少し足を止め、ポケットに両手を突っ込んで考える。


よほど自分は身体が丈夫なんだと思おうとしたが、

少し、異常である事に気付く。

小さな怪我すら記憶には無い

今思えば自分の血を見た事が無い。

血液検査みたいな時は流石にあるけど、

怪我としては、見た記憶がほとんど無い。


神がかってるのか呪いなのか、はたまた俺の特殊能力なのか!とか厨二臭い事を考えている内に屋上へ出る扉を開くところまできた。


「まっ、そんなもん死んじまえば、何も関係……

…って、なんだこれ?」


ポケットに突っ込んだままだった手を少し驚いてしまい思わず出す。


屋上の床に、何やら赤い色で絵のような物が描かれていた。

重なった円の中に、複雑な文字。


これはアニメでよく見るやつだ!


「…血か? フッ、赤い魔方陣…バカバカしい…」


俺は人差し指を眉間に当て、ポーズを取った。


ちょっとカッコイイなと思ったのは内緒だ。

人生最後の記念に何かやっておこうと、

赤い円の真ん中に立ち。


「汝!来世デハ我二彼女ヲ与エ給エ!……

あ、可愛くて巨乳が希望です!」


両手を空に掲げ、声を大にして叫ぶ。


厨二病は、歳を取っても治らない事は証明済みだ!

よし、もう思い残す事はない!

何か、後ろのほうで光ったような気がしたが、

俺は気にしない。

男は前だけを向いていくものなのだ。


俺は屋上の外周に張られた金網を震える足でよじ登り外側に立った。


こえええぇぇ〜!

ヤバい..産まれたての子鹿並に足が震える…


下を覗きこむが暗闇で下が見えない。

見ている内に吸い込まれてしまいそうな本当の闇。


これで俺の人生も幕引きなんだと思うと、

やはり少し寂しくなるもんなんだな…

だがしかし、俺はやると決めたらやる!

プライドだけは一人前だ!


「よし…行くぞ...やっぱ掛け声はあれかなぁ…うぅ、怖い………


…アーーイ … キャーーン...フッ…


《ドンッ》


「えっ」


ラァァァァあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!」




死ぬ、これは間違い無く死ねる!

物凄いスピードで落ちているのが分かる。

そ、そうだ! 走馬灯は? いや、そんなん見えねぇ!

てか、さっき誰か押した? 何、何?気のせい?


ま、いっか…


俺はそっと目を閉じた。




ん?


まだか? 長くないか?

これは新手の焦らしプレイなのか?


俺はたまらず目を開けた。

むちゃくちゃ眩しい…

真昼間だ…そして俺の目の前には。


1人の少女が不思議そうに俺を見つめ、立っていた。

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