みんなでストーカーはじめてみました。
ちびまるフォイ
期待の新人、登場!!
「今日も暇だなぁ」
仕事もないし趣味ないのでやることがない。
こもりがちだった家から町に出ると、怪しい集団を見つけた。
「こそこそとなにしてるんですか?」
「しーーっ。今はストーカー中なんだよ」
「見つかったら終わっちゃうだろ」
聞くと、今社会人の間で人気のスポーツ「集団ストーキング」の真っ最中のこと。
「見つかるか見つからないかのスリルがたまんないんだ」
「かくれんぼと何が違うんです?」
「かくれんぼみたいに同じ場所じゃないだろ?
常に動き続けるから、いろんな場所に行ける楽しみもあるんだ」
「ストーカーされた人は大変ですね」
「参加しないなら向こうヘ行ってくれ。しっしっ」
「いえいえ、俺も参加しますよ」
どうせ暇だったので集団ストーカーの一員になることに。
やってみると意外に連帯感があって楽しい。
「まずい! こっちを見たぞ! 気を引いてこい!!」
「はい!!」
仲間同士の連携。
「建物に入られたな……。ここからは交代制で見張ろう。今の内に寝ておけ」
「でも寝る必要ないんですよ」
「強がるな、いいから寝ろ」
熱い友情と仲間意識。
「新人、お前は見込みがあるな。ターゲットよりも大事なのは
周りの一般人に不審に思われないことだ。それができている」
「ありがとうございます!」
徐々に築かれる信頼感。
仕事にも行けなくなった日から久しく忘れていた感覚を味わった。
「集団ストーカー、楽しいですね」
「だろ。非日常が手軽に味わえるんだ」
ストーカーにも慣れてきてシフトを1人で任された。
どうせ見えないだろうとたかをくくって警戒を怠っていた。
「あなた……だれ?」
「し、しまった!!」
ふいにやってきたターゲットに見つかってしまった。周りに仲間はいない。
「前から誰かに見られているような気はしてたけど、あなただったのね」
「あ、えっと……」
実際には流れないものの、冷汗が出そうだ。
「ちょっと話があるから部屋にきて」
「はい……」
俺はターゲットの部屋に連れていかれた。
待っていたのは手厚い歓迎とウェルカムドリンクだった。
「あなたが私をつけてくれていたのね、本当にありがとう」
「え、あ、ありがとう?」
「実は私、かけだしのアイドルなの。でも売れなくて自信がなかった。
こうしてストーカーされてるってことは、私が可愛いって証明になるじゃない」
「歪んでるなぁ……」
「これからもストーカーしてね!」
「やりづらいわ!!」
ターゲットと別れて持ち場に戻ったところ、次のシフトのストーカーが待っていた。
「お、おいお前……なんでターゲットの部屋から出てきたんだよ……」
「実は見つかってしまって、彼女に呼ばれたんです」
「そんな展開があるか!! この裏切者め!!」
何度誤解を解こうとしても、裏切者の先入観があるので聞いてくれない。
俺はストーカーグループから除外されてしまった。
「お前とはストーカー連合を解消する」
「そんな……」
「ただし、これだけだと思うなよ。俺たちを怒らせたらどうなるか!」
ストーカー達は目をぎらつかせていた。嫌な予感がする。
家に帰ってからもその目が忘れられなかった。
「はぁ……新しい趣味を見つけたと思ったんだけどなぁ……」
ボロボロの家で寝転がっていると、窓の外に大量の顔があった。
「わぁ!? だ、誰だ!?」
慌てて窓を開けても、もう誰もいない。
この撤収の素早さについては心当たりがある。
「まさか……次のターゲットは俺なのか……!?」
ストーカー達の言っていた報復とはこれだったのか。
常に監視されているストレスを与え続けるつもりなんだ。
鏡を使って後ろを見てみると、また窓の外には大量の顔が覗き込んでいる。
きっと、別の場所にもストーカーが潜んでいるのだろう。
俺のプライベートは完全に失われている。
ドアの下にはそっと手紙が差し込まれていた。
"我々を怒らせたバツだ。ずっと見てるぞ。けして離れない"
ドアの隙間からは男の目がこちらを見ていた。
手紙の通り、ものすごい執念を感じる瞳で。
「あぁ……もう終わりか……」
※ ※ ※
ストーカー達は裏切者をビビらせたと大喜びだった。
「ははは、リーダーやりましたね!」
「あの野郎ビビッてますよきっと!」
「俺たちを怒らせたらどうなるか、思い知っただろうな。
だが、最後まで手を抜くんじゃないぞ。最後まで追い詰めるんだ」
「り、リーダー!!」
見張り役の男が顔を青ざめて戻って来た。
「男が……ターゲットの男を見失いました!!」
「なんだって!? ずっと見ていたんだろ!?」
「はい、なのにどこかに消えてしまって……」
「そんな手品みたいなことがあるか!!」
ストーカー達は全員でターゲットの家を探した。
それでもターゲットを見つけることはできなかった。それ以前に……。
「あのリーダー。おかしくないですか」
「たしかにな。急に消えるなんて」
「そうじゃなくて、この家ですよ。ボロボロすぎませんか。
とても人が住んでいるようには見えないです。廃墟ですよ」
「だからなんだよ! いいから探せ!」
リーダーが壁に手をかけたとき、朽ちた壁が壊れた。
壁の中からは真っ黒になったお札が部屋の中に落ちていった。
「な、なんだこれ……」
察しの悪いリーダーもやっと状況を理解した。
どうしてストーカーとして優秀だったのか。
どうして眠っている姿を見なかったのか。
「俺ね、心が歪んでいる人にしか見えない幽霊なんですよ」
姿の見えない声が後ろから聞こえた。
それ以来、心霊スポットにストーカーが集まるということはなくなった。
みんなでストーカーはじめてみました。 ちびまるフォイ @firestorage
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