魔王とやる気のない勇者

ユウやん

第1話 魔王と勇者

 ここは遥か遠く異界の地、魔物が蔓延る世界。

 その世界を支配する魔王が住んでいる魔王城で今まさに勇者が最終決戦の為に最深部の王の間へと迫っていた。


「くくく……長き戦いもようやく終わりを迎えようとしている。」

「そうですね、魔王様。部下の情報によれば勇者一行はこの下の階層で探索をしているようです。」


 頭に角が生え、大きめの黒いマントを羽織、玉座に座り堂々と勇者を待つのはこの城の主であり魔界を支配する者、名は魔王アルバルト。

 その横に居る紳士服を着こなしコウモリの様な大きな翼を持つご老体は、アルバルトが幼い頃お世話係として使えてきた者、名はデルビア。

 魔王城の内部はこの二人を残すのみ……って訳では無いが勇者との対決を心待ちにしていた。


「長き、長き我が夢が叶うのだな。父上が前の勇者に敗れ400年、この恨み晴らす時が来た。」

「魔王様、いやアルバルトお坊ちゃんの念願がやっと、やっと晴らされるのをこの爺やもう涙無しでは語れません。」

「泣くのは早いぞ爺や。その涙は勇者を倒し、世界を征服したあかつきまで残しておけ。」

「かしこまりました、魔王様。」


 はたから見たらただの仲の良い叔父と孫にしか見えないがこれでも一応魔王である。




「……勇者の奴まだ来ないのか?」

「……きっと探索をしているのでしょう。」

「それにしては遅くはないか?」


 さて、あれから数時間経ったが一向に勇者が姿を表さない。

 不安に感じたのだろうアルバルトはデルビアを横目でチラチラと見ているご様子。

 その視線を感じてデルビアは他の魔物に指示をし捜索させているが報告が来ない。


「まだか勇者め。」


 アルバルトがその一言呟いた瞬間。


「伝令!勇者一行の居場所が判明しました!」

「なに!?どこだ!」

「それが…そのー……」

「ええい、早く言わんか!魔王様を待たせるな!」


 伝令を伝えに来た魔物がなかなか居場所を言わない事に苛立ちながらもデルビアが急かした。


「……魔王城三階、我々の休憩スペースです。」




「ゆうぅぅぅしゃあぁぁぁぁぁ!!!」


 アルバルトは怒り任せに本来勇者が入れない魔物の休憩スペースの扉を勢いよく開けた。


「おっ!よっしゃー、俺の勝ちー。」

「んだよぉ、もう少し粘れよな魔王。」

「ルイの一人負けだね♪早く全員に五千ギル払って。」

「本当に馬鹿だねルイは。」


 魔物の休憩スペースで椅子に座りながら楽しそうに談笑している四人が残念ながら勇者一行である。

 背中に王家の紋章が入った剣を背負っている白銀の髪の青年が勇者ルイ。

 その勇者から見て左に居る魔女がかぶりそうなとんがり帽子を膝の上に置いている流れる金髪のロングヘアをした女性は魔法使いエネ。

 勇者の正面に居るいかにも悪やってましたみたいな見た目の黒髪の青年は格闘家ケント。

 勇者の右に居る眠そうに可愛い兎のぬいぐるみを抱いている薄い水色のショートの髪の見た目は九歳の少女はネクロマンサーのミゥ。

 誠に残念ながらこの四人が再度伝えるが勇者一行である。


「毎度ありー♪」

「…おい」

「あーあ、あと1時間魔王が来なければ俺の一人勝ちだったのによ。」

「おい。」

「ルイは何で魔王が乗り込んで来るに賭けなかったの?」

「それはお前らが絶対に変更しようとしなかった為だろうが!!」

「お前ら!魔王の俺を無視するな!!」


 怒りを爆発させた魔王が勇者達に向かって雷の上位魔法を放ったが。


「おっと、危ね。」


 勇者ルイはそばに置いてた盾で魔法を防いだ。


「あ、まだ居たの魔王。お疲れ様ー、もう戻って良いよ。」

「あ、まだ居たのじゃねぇよ!お前ら何してるんだよ!」

「何って見れば分かるだろ賭けだよ。3時間後に魔王が此処に来るか否かで勝負してたんだぜ。」

「あ、そうなんだー……って成るかド阿呆!!」

「魔王、考えてもみろよ。こんな見た目普通の剣を渡されて『今日からお前は勇者だ!さぁ、魔王を倒してこい!』って言われここまで来たけどよぉ、魔王を倒すのにこんなチンケな剣で倒したいと思うか?ならねー、ならねえんだよ。もっと、こう、伝説の剣だーみたいので倒したいと思うじゃん?」

「お前は!探索をちゃんとしたのか?お前の言う伝説の剣だって、この世で最強の防具だって探せば見つけられるように仕掛けておいたんだぞ!」

「マジで!あー、でも探しに戻るのもめんどいからー……魔王取ってきて。」

「このバカ勇者ぁぁぁぁ!!」


 アルバルトは再度勇者ルイに向かって最上級の魔法を放ったが。


「魔法『シールド』、付与魔法『リバース』」

「あぎゃあああぁぁぁぁぁぁああああ!」


 アルバルトが放っ魔法は、エネの防御魔法及び付与魔法でアルバルト自身に跳ね返ってモロにダメージをくらった。


「ゲホゴホ…ちょっと待て。最上級魔法を跳ね返すって、お前らレベル幾つだよ……」

「皆レベル150だよ、魔王さん?」


 ミゥの放った一言を聴いてアルバルトは絶句した。

 何故なら本来レベル100でカンストのはず、だがそれを超えるのはどう考えても規格外。

 まぁ、理由は少年時代のアルバルトがカンストの上限を弄って自分のレベルを上げたのが原因なのだが、当の本人はすっかり忘れて居るのであった。


「ほれ、さっさと帰った。」

「魔王さん、元気出して?」

「討伐する気分になったら倒しに行ってあ、げ、る♪」

「残念だったな魔王様、ププッ。」


 勇者達はそれぞれアルバルトに一言いって馬鹿にして笑い出した。


「ック、お、覚えていろぉぉぉ!」


 アルバルトは魔王らしくないセリフを吐きながら涙目でその場を走り去ったのであった。

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