「薔薇の葬列」×「ドグラ・マグラ」

今日は自由ヶ丘から話を始めよう。

一般的な自由ヶ丘のイメージはなんだろう。

漠然とお洒落な街、スイーツの街、と答える人が多いような気がする。


以前、自由ヶ丘武蔵野館という映画館があった。

スポーツクラブの2階にあったこの古い映画館は、お洒落な街にふわりと現れたエアポケットのようにも見えた。

調べてみると、当時は基本的にレイトショーやオールナイトで過去の名作を、昼間はどうやら新作を上映していたようだ。

頻繁に通っていたわけではなく、記憶を辿れば数える程しかこの映画館には足を運んだことがない。

しかし妙なインパクトで頭の隅に未だに残っている、そんな映画館だ。

この映画館であったオールナイト上映で私は薔薇の葬列、黒薔薇の館、黒蜥蜴、猟人日記、といった日本の古い映画を何本も見た。

その頃レンタルやセルDVDでもそうそう簡単に見つからなかった作品を複数まとめて見られたのは良い経験であったと思う。

少し古めかしい映画館で、席も自由席。

名画座は基本的に自由席だ。それは平成も終わろうかという今でも変わらない。

昭和の匂いの残る映画館で昭和の映画を見る。

良い経験が出来たと思っている。

自由ヶ丘武蔵野館は2004年に閉館した。

今日はその頃を思い出しながら古い日本映画を2本組んでみようと思う。


「薔薇の葬列」×「ドグラ・マグラ」だ。


どちらも松本俊夫監督の手による、有り体に言えばアングラ映画と呼ぶのがわかりやすい。


「薔薇の葬列」は1969年公開。

ピーターのデビュー作でもあり、新宿のゲイバーを舞台にした愛憎劇だ。

作中で引用された「我は傷口にして刃、生け贄にして刑吏」というボードレール「悪の華」の一節が印象的だ。

モノクロでゲイボーイ達の享楽を刺激的に描いている。

最後にこの作品を見たのは随分と前だが、衝撃的なラストシーンは今でも脳裏に焼き付いている。


「ドグラ・マグラ」は1988年公開。

この世に中2病をこじらせた挙げ句この原作を読んで挫折した人はどれだけいるだろうか。

しかし松本俊夫監督はその難解極まりない夢野久作による奇書を比較的わかりやすく映像化している。

落語家の桂枝雀が演じる正木博士、室田日出男が演じる若林博士は特にハマり役と言えるのではないか。

精神病院に入院した患者を主役に据えた、複雑怪奇な物語である。


昭和という時代の、隙間産業のような暗闇をこの2本で感じてみるのはどうだろうか。

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