「the EYE」×「キョンシー 」

キネカ大森という映画館がある。

駅に近い西友の上にある劇場で、小さなスクリーンが3つある。日本で1番古いシネコン、というのが売り文句だ。テアトル系列のなかなかきちんとした、そしてちょっぴり攻めてる映画館でもある。

ここは新作のロードショー公開もしている一方で常にひとつのスクリーンが名画座として稼働している。

ロビーで名画座の開場を待つ映画オタクの横にドラえもんの新作を見に来た親子連れがやってくる。そんな映画館だ。


そのロビーの一角に「あなたが見てみたい2本立て」という企画コーナーがある。

映画館が用意した紙に自分が見てみたいテーマとそれに準じた2本立てを書いてコルクボードに貼る。

そして他のお客さんがそれを見て「これは良い」と思った2本立てに投票する。


随分前、私は「アジアンホラー」というテーマで「the EYE」×「キョンシー」と書いてコルクボードに貼り付けた。

結果、票が入った形跡は無く当然実現はしなかったが、私は香港映画とホラー映画が好きなのでこの2本を選んだ。キネカ大森は毎年ホラー秘宝というホラー映画イベントをやっているのも頭の隅にあったかもしれない。

アジアのホラーには他にも良作はあるが、その時はこの2本がパッと思い付いたのである。


「the EYE」はオキサイド・パン、ダニー・パン兄弟が監督した2002年の作品である。アメリカでリメイクされたようだがそれは見ていない。

失明した女性が角膜移植を受けてからおかしな現象に悩まされる、簡単に言えばそういう内容だ。

これは視力の悪い人こそリアルに感じる恐怖である。角膜移植後のぼんやりとした視界は視力の低い人間に取っての現実に近い。視力矯正器具がなければ世界は明確な輪郭を持たないのだ。そのうすらぼんやりとした恐怖。

決して派手ではないが、とても上手く作られた良作である。


「キョンシー」はジュノ・マック監督による2013年の作品だ。

タイトル通り霊幻道士のリブート作品でありながらコメディ要素は全くない。ガチガチのホラーだ。「リゴル・モルティス 死後硬直」という別題がついている。

Jホラーで有名な清水崇も製作に関わっているのもあってか、ジュノ・マックの初監督作品にしては非常に良く出来ている。

「色々盛り過ぎ」ではあるのだが、それをよく2時間程度の尺に上手くまとめたと思う。

香港の古い団地と古い因習が絡み合い、どことなくゴシックな雰囲気すら感じる。

これはどちらかと言えば派手なタイプのホラーだ。エフェクトやビジュアルという意味でだ。


同じ香港のホラー映画でありながらthe EYEは静かな恐怖、キョンシーは派手な恐怖である。


しかしどちらも色に例えるなら「グレー」なのである。

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