セミは本当に早死になのか?

 ※文末に今回の「まとめ」を掲載しています。

  読みにくい文章に耐えられない方は、一番下まで画面をスクロールさせて下さい。


亡霊葬稿ゴーストライター 紫文しぶん』の舞台は夏です。


 日本の夏には、様々な風物詩があります。

 一般的には花火や海ですが、薄い本と答える方も少なくありません。

 そしてまた忘れてはならないのが、高らかに鳴くセミです。


 意外かも知れませんが、セミはカメムシもくの昆虫です。


 カメムシもくには、他にもアブラムシやカイガラムシと言った昆虫が属しています。

 香川かがわ照之てるゆきが愛してやまないタガメも、カメムシの仲間です。他にもアメンボやタイコウチと言った水棲すいせい昆虫こんちゅうが、カメムシもくに分類されています。ただし有名なゲンゴロウは、カブトムシやクワガタの仲間です。


 カメムシもくの昆虫は、一様に針状の口を持っています。とは言え、エサは様々です。

 ご存知ぞんじの通り、セミは樹液を吸います。一方、タガメの獲物は小魚や小動物です。カメムシの場合は種によって異なり、草食のものもいれば、肉食のものもいます。


 2017年現在、セミは3000種ほど発見されています。ただし、都会で見られる種は僅かです。ツクツクボウシやミンミンゼミがいないわけではありませんが、目に入るのはアブラゼミばかりです。


 日本人にとって彼等は、特に意識することのない昆虫です。

 ヘビロテされる鳴き声に、辟易へきえきとしている方も少なくないでしょう。


 その実、はねが透明でないセミは、世界的にも珍しい存在です。


 現にミンミンゼミもツクツクボウシもヒグラシもクマゼミも、はねは透き通っています。あれだけたくさんいるのに珍しいとは、何だか不思議な話です。


「アブラゼミ」と言う名前は、「鳴き声が油で炒める音に似ている」ことに由来します。ただし、「はねの色が油紙あぶらがみに似ているから」と言う説もあるようです。


 よく知られている通り、セミが鳴くのは異性にアピールするためです。

 ただし、ラブコールを発するのはオスだけで、メスは鳴くことが出来ません。


 鳴く虫と言えば、スズムシやコオロギも有名です。

 彼等もまた求愛のために鳴く昆虫で、季節を告げることもセミと共通しています。

 とは言え、夏の風物詩と秋の風物詩とでは、音を出す原理が全く異なります。


 スズムシやコオロギは、はねを擦り合わせて音を発しています。

 一方、セミの鳴き声を生み出しているのは、腹です。


 セミの腹の中には、発音はつおんきんと呼ばれる筋肉があります。発音はつおんきんはV字状で、左右にある発音はつおんまくと言う膜に繋がっています。


 セミは発音はつおんきんを収縮させ、発音はつおんまくを震わせることで、鳴き声を発しています。彼等の腹の中には大きな空洞があり、膜から出た音を大きくする働きをしているそうです。


 四六時中響き渡る鳴き声は、騒がしいの一声に尽きます。

 神経質な方は、窓を開けて寝られないのではないでしょうか。


 一方で彼等には、儚いイメージもあります。


 騒々しい合唱が響き渡るのは、夏の間だけです。

 秋の訪れと共に、セミの鳴き声はぱったり聞こえなくなってしまいます。


 また彼等が短命と言われることも、もの悲しさを感じる理由でしょう。

 限られた時間の中で、精一杯声を張る姿は、健気と言う他ありません。


 世間一般的に、セミの寿命は一週間と言われています。


 実際、夏の路上にはセミの死骸が大量に落ちています。秋には鳴き声が聞こえなくなる以上、長生きでないことは間違いないように思えます。


 しかし、セミは幼虫から成虫に変態へんたい(変身)する生き物です。

 多くの方が知っている通り、セミの幼虫は土の中で暮らしています。

 人目に付かない分、成虫になるまでの時間はあまり知られていません。


 とは言え、カブトムシやクワガタの幼虫は、1年弱で成虫になります。

 同じ昆虫である以上、セミも幼虫でいる時間は長くないはずです。


 ――と思ったら、大間違いです。


 アブラゼミの幼虫は、6年から7年も地中で過ごします。

 しかも彼等は、特別な存在ではありません。

 数年間も地中で暮らしているのは、他のセミも一緒です。


 特に「周期しゅうきゼミ」や「素数そすうゼミ」と呼ばれるセミたちは、成虫になるまでに17年掛かります。中には13年で羽化する種もいますが、どちらにせよ短命とは言えません。と言うか、下手をしたらイヌやネコより長生きです。


 彼等は体長2、3㌢ほどの小さなセミで、北米の東部に棲息しています。

 あまりに長い寿命は勿論もちろん、数年に一度大発生することでも知られています。


 その数と言ったら、1㍍四方に40匹と言うから驚きです。

 しかも限られた範囲に集まる習性があり、なかなか移動しません。


 奇妙な生態を持つ彼等は、日本でも知られた存在です。

 ただ、一般的なイメージと実像には、微妙なズレがあるようです。


 まず羽化するまでに17年掛かると言っても、17年に一度出現するわけではありません。

 彼等には幾つかのグループがあり、それぞれ発生する年が異なります。


 あくまでたとばなしですが、2017年にセミが出現したからと言って、17年間姿を消すわけではありません。2018年になれば、2001年に誕生したグループが姿を現します。


 実のところ、17年周期で現れるセミは、それほど珍しい存在ではありません。17年間の内、12年は姿を現します。逆に13年周期のセミはレアで、13年間の内、3年しか現れません。


 誤解と言う点では、大発生にも同じことが言えます。


 確かに数は多いですが、セミが出現する地域は、グループによって決まっています。そして他の場所には、全く姿を見せません。つまり地域の限られた大発生で、アメリカ全土に出現するわけではありません。


 定期的に大発生するセミは、住民にとって厄介な存在です。


 大音量の合唱は、簡単に人の声を掻き消してしまいます。

 大量のセミにむさぼられた結果、木が枯れてしまうことも珍しくありません。またセミが死んだ後も、死骸の山が悪臭を漂わせることになります。一方で観光資源としての側面もあり、あながち迷惑なだけでもないようです。


 さすがに彼等ほどではありませんが、アブラゼミの幼虫も充分に長生きです。

 ただし、成虫の寿命は2週間程度と言われています。


 早死にと言うイメージを持たれているのは、先ほど書いたようにやたら死骸を見掛けるためでしょう。またやかましく鳴くセミは、生きている期間が非常に判り易い昆虫です。仮に彼等が無口だったら、成虫が一夏ひとなつの命と気付く人は少なかったかも知れません。


 考えようによっては、セミは他の昆虫より悲惨かも知れません。たった2週間飛び回るためだけに、暗く狭い土の中で6年間も耐えなければならないのですから。


 ◇今回のまとめ◇

 ☆セミはカメムシの仲間。


 ☆はねが透明ではないセミは非常に珍しい。頻繁に見掛けるアブラゼミは、世界的にもレア。


 ☆「アブラゼミ」と言う名前は、「鳴き声が油で炒める音に似ている」ことに由来する。ただし、「はねの色が油紙あぶらがみに似ているから」と言う説もある。


 ☆セミはオスしか鳴かない。


 ☆セミの鳴き声は、腹の中にある膜から出されている。


 ☆アブラゼミの幼虫は、6、7年間も地中で過ごす。


 ☆ほとんどのセミが、数年間は幼虫の姿で過ごす。


 ☆「周期しゅうきゼミ」や「素数そすうゼミ」と呼ばれる幾つかの種は、17年掛けて成虫になる。成虫になるまでに、13年掛かる種もいる。


 ☆周期しゅうきゼミは定期的に大発生する。


 ☆周期しゅうきゼミは、17年に1度現れるわけではない。幾つかのグループがあり、17年間の内、12年は出現している。


 ☆周期しゅうきゼミの出現する場所は、グループごとに異なる。


 参考資料

 素数ゼミの謎

 吉村仁著 (株)文藝春秋刊


 虫の呼び名事典

 森上信夫著 (株)世界文化社刊


 徹底図解 昆虫の世界

 岡島秀治監修 (株)新星出版社刊

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る