アリ得ないほど強いアリ ①ヒャッハー! なアリ

 ※文末に今回の「まとめ」を掲載しています。

  読みにくい文章に耐えられない方は、一番下まで画面をスクロールさせて下さい。


亡霊葬稿ゴーストライター 紫文しぶん』で語った通り、アリは恐ろしい昆虫です。


 昆虫の中でも小さい彼等は、ひ弱なイメージを持たれがちです。

 事実、多くの映画やアニメは、アリを迫害される存在として描いています。また物語に登場するアリは平和主義者で、争いを好みません。悪役を担当するのは、いつもカマキリやスズメバチです。


 その実、彼等は弱いどころか、昆虫界でも恐れられる存在です。

 好戦的な種も多く、(人間の価値観からすれば)残酷な行為に及ぶことも少なくありません。


 日本各地に棲むサムライアリは、クロヤマアリを奴隷にすることで有名です。

 あまつさえ彼等の女王は、クロヤマアリの巣を乗っ取る習性を持っています。


 交尾を終えたサムライアリの女王は、クロヤマアリの巣に潜入します。続いてクロヤマアリの女王を噛み殺すと、自分自身が女王の座に納まってしまうそうです。


 当然、彼女の卵からはサムライアリが生まれますが、クロヤマアリは甲斐甲斐しく世話を続けます。新しく生まれることのなくなったクロヤマアリは、どんどん数を減らしていきます。


 困ったことに、サムライアリは自力でエサを取ることが出来ません。

 それどころか、奴隷に食べさせてもらわないと、エサを口にすることさえ不可能です。卵や幼虫の世話も完全に人(?)任せで、クロヤマアリなしには生きていけない宿命にあります。


 そこで彼女たちは、定期的にクロヤマアリの補充を行います。

 多くの場合、補充は真夏の午後に行われるようです。


 先ほど書いた通り、サムライアリは基本的に何も出来ません。しかし略奪だけは得意で、徒党を組んでクロヤマアリの巣を襲います。「サムライ」などと名乗っている彼女たちですが、やっていることは完全に「ヒャッハー!」です。


 勿論もちろん、クロヤマアリも応戦するのですが、略奪に特化したモヒカンアリにはかないません。モヒカンアリは難なく抵抗をねじ伏せ、モミ……じゃなかった、クロヤマアリの幼虫やサナギを巣に持ち帰ってしまいます。


 徹底的に怠惰たいだなモヒカンアリは、戦利品の世話もクロヤマアリ任せです。そうして奴隷によって育て上げられたクロヤマアリは、自身もサムライアリに奉仕します。


 恐ろしいことに、奴隷を使うアリはサムライアリだけではありません。

 また日本各地に棲むトゲアリやアメイロケアリは、他のアリの巣を乗っ取る習性を持っています。生きるためには仕方がないのでしょうが、イメージと異なるのも事実です。


 そもそもアリは「ハチ」もくで、スズメバチに近い昆虫です。日本人には意外な話ですが、多くの種が毒針を備えています。


 特に中南米に棲むパラポネラや、オーストラリアに棲むキバハリアリの仲間は、強い痛みをもたらすことで有名です。命の危険は少ないようですが、数日は痛みが引かないと言われています。


 アリは顎の力も強く、敵を噛み殺すことも少なくありません。

 昆虫の死骸に群がる姿からも判る通り、大多数の種が肉食か雑食です。

 しかも彼等は、凄まじい数の兵隊を有しています。


 つい「彼等」と書いてしまいましたが、外で働いているアリは全てメスです。

 とは言え、卵を産む能力はほとんどなく、繁殖は巣の中の女王アリが担当します。


 ただ日本各地に棲むアミメアリは、女王アリが存在しません。代わりに働きアリがそれぞれ卵を産み、数を増やしていきます。また彼女たちは、メスだけで繁殖することが可能です。


 アリの場合、有精ゆうせいらんからはメスが、無精むせいらんからはオスが生まれます。耳を疑うような話ですが、女王アリはオスとメスを産み分けることが可能だと考えられています。


 女王アリの数は、種によって様々です。

 一つの集団に一匹しかいない場合もあれば、複数の女王がいる場合もあります。


 同じ種類のアリでも、女王が複数いる場合と、一匹しかいない場合があるようです。

 専門的には前者を「女王じょおうせい」、後者を「たん女王じょおうせい」と呼びます。


 2017年現在、ハチもくの昆虫は17万種ほど確認されています。

 その内、アリの数は1万種程度で、日本には300種前後が棲息しているそうです。


 幸い我々の身近にいるアリは、ほとんど毒針を持っていません。

 中には刺すアリもいるのですが、一瞬痛む程度です。

 このため、アリが毒針を持つことは、あまり知られていませんでした。


 しかし2017年、彼等が刺すことは急速に知られるようになります。

 日本人の認識を変えてしまったのは、外国から侵入したヒアリです。


 長くなったので、今回はここまで。

 次回は一躍時の人(昆虫)になったヒアリを紹介します。


 ◇今回のまとめ◇

 ☆サムライアリは、クロヤマアリを奴隷にする。


 ☆アリはハチの仲間で、多くの種が毒針を持っている。中南米に棲むパラポネラや、オーストラリアに棲むキバハリアリは特に痛い。


 ☆働きアリは全てメス。


 ☆日本に棲むアミメアリには、女王アリがいない。


 ☆アリの有精ゆうせいらんからはメスが、無精むせいらんからはオスが生まれる。女王アリはオスとメスを産み分けられるらしい。


 ☆ハチの仲間は、17万種ほど確認されている。その内、アリの数は1万種ほどで、日本には300種前後が棲息している。


 ☆日本人の身近にいるアリは、ほとんど毒針を持っていない。


 参考資料

 アリの生態 ふしぎの見聞録

 ―60年の研究が解き明かすアリの素顔―

 久保田政雄著 (株)技術評論社刊


 徹底図解 昆虫の世界

 岡島秀治監修 (株)新星出版社刊


 トンデモない生き物たち

 白石拓著 宝島社刊

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る