第2話 進めない。【彼女】
「ねぇ、どこに行くのよ。」
なんて、口先だけで言ってみる。知ってる。この人、どこに行きたいとか、何かしたいとか、そんなのないの。
安心する。
今日、私達があって唯一時間が進んだのは氷が溶けたことくらい。なんて味気ない時間だろう。それが癒しの時間なんて、私も大概終わってる。
就職したところが間違ったのだろうか。希望した事務職。毎日同じことするだけでいい職場。小さい包装紙の営業会社の事務は私だけで、昼間は誰も居なくなる。カタカタカタカタ、私のキーボードの音だけ響いて。夕方戻って来た営業の人達が出してくる領収書が汗で少しふやけて、あ、夏だななんて感じる。みんな日に焼けて季節を体に刻んで、生気感じるのに。私だけそんな熱気から置いていかれているよう。定時に上がって、ご飯作って、テレビを見て。季節は等しく巡っているのに、なぜか家にいても職場にいても四角小さな箱の中、時間だけが空転しているの。あれ?私だけ?私だけが時間に取り残されているの?そんな正体不明な不安感の中、あなたに出会った。自販機の陰で水を飲んでいたあなた。一目でわかった。あなたも何もないのよね。行きたいところも、やりたいことも。ただ目の前に膨大な時間だけがある。
安心する。
「ねぇ、どこに行く?」
答えなんて、なくていいの。
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