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「今までの段階で分かったことがある。新條の居所を掴めたのは優秀なウチの彦だけだ」

「その言葉、瀬戸さんが聞いたら間違いなく飛び跳ねて熱烈なハグをかますっスね」

「やめろ、気色悪い。想像したくもない。――新條は本田に続き大倉まで狙われたことで自分の命の危険を感じたはずだ、何としてでも雲隠れするだろう。彦が探し当てたんだ、犯人じゃ出来なかっただろう」

「つまり、彦君の情報を手に入れられたのはかなり限定されるね」


 瀬戸から情報を貰い、新條の遺体が発見されるまでの間に情報を流すことが出来るのは零号館にいた関係者だけだった。


「でも、それって僕とAPOC幹部だけじゃ……?」

「もう一人いるっスよ」


 絶対の自信を持った口調に蒼斗は目をこれでもかと丸くさせた。

 思い当たるのはしかいない。


 ちょっと待ってくれ。ちょっと、待ってくれ……!


 蒼斗は自分の力について理解が不足していたことに焦りを覚えた。


「蒼斗、お前だって俺たちが何を言いたいのか分からないほど馬鹿じゃないはずだ」


 心臓がけたたましく警告する。

 全く、なんて勘違いをしてしまっていたのだろうか。

 に囚われて蒼斗の予知の本来の役割を忘れていた。


 ……いや、蒼斗自身、のしかかる違和感に薄々気づいていた。

 けれど、それを認めたくない自分がいて、ずっと思考を遮断してきた。考えないように意識していた。


「お前にとっては辛いかもしれないが、事は一刻を争う。相手はそこらの狂魔とは桁違いなんだからな」

「俺と蒼斗は一緒にいた。卯衣も合流するまでずっと部下と話し込んでいた。彦は確かに来客と話をしていたのを側近から聞いて裏も取れている。千葉は自分の役割を済ませると、大倉のところでずっと卯衣の代わりをしていた。それは何人もの部下が確認している。――となると、残りは一人」

「で、でも消去法で犯人にするのはどうかと思います! だって、APOCの一員でもあり、仲間ですよ。……それに新條さんに撃たれて――」

「それが決定打だ」

「え?」

という事実から容疑者から必然的に外れ、被害者の位置に立つ」

「じゃあ……がわざと新條の弾を受けたってことですか? そんなバカな……」

「まぁ、奴が狙っていたかは定かではないが、これを利用しない手はなかった」



 蒼斗は自分の発言で、答えを導き出してしまった。


 ビジョンに映っていたのは撃たれて傷ついた辰宮――では、蒼斗の視点は一体

 その人物こそ、『加害者』辰宮から拷問を受けた『被害者』――すなわち、新條慶介。



「お前は気づいていたはずだ。辰宮が撃たれ、新條の遺体が発見された時点でな」

「っ、でも、本山さんはどうなんですか! あのビジョンが彼だったなら、傷だらけの近衛さんが目の前にいたのはどう説明するんですか!」

「それも本山殺しが辰宮だという何よりの証拠だ」

「どういう、ことですか?」


 蒼斗のビジョンの特徴からして場所は本山殺害現場で間違いない。

 女の目撃証言と、亜紀が合同捜査決定後に捜索させ見つけた本山が抵抗時に使用したとされる割れた瓶の欠片。

 勿論本山の指紋がべったりと付着しており、破片に残っていた血痕が後の千葉の調べで判明した。


「じゃあ新條さんが殺された後に千葉さんに言っていた急ぎの用事というのは……それを、調べさせるため?」

「そうだ。案の定血痕は辰宮のものだった。つまり、殺したのは近衛に化けたアイツということになる。お前は変装した状態のビジョンを見ただけに過ぎない」

「そんな……っ、どうして辰宮が……」

「近衛の犯行にしておけば捜査の目を誤魔化せると思ったんだろう」


 必要最低限のプロフィール以外の家族構成や何もかもが未知に包まれたAPOC捜査官の近衛なら大丈夫だろうという安易な予測を立てたのだろう。

 だが、近衛に関しては幹部奈島含む幹部全員が全て把握していた。

「化ける相手を間違えた。それだけのことだ」

「でも動機が分からないじゃないですか! 誰かに依頼されたのかも……!」


 そこで奈島の端末に部下から連絡があった。


「押収した白井のパソコンから、大倉が襲われた時間の数分後にハッキングされた形跡が見られたっス」

「大倉のパソコンに研究データがあると思ったのかな」

「もしかして白井が辰宮の共犯者っスか?」

「だから辰宮は犯人じゃないって言っているじゃ――」


 そこで亜紀の端末が鳴り、スピーカーから瀬戸の声が聞こえてきた。 


「今病院から連絡入ったよ。数時間前、辰宮が病室からいなくなった。どうやら医師の白衣を拝借していったようだ」


 報告を受けた蒼斗は、背後から迫り来る不安に押し潰されそうになった。


「……白井は危険物質が生成されたという事実が明るみに出ればいずれ自分たちの横領もバレると考え、隠蔽目的で黙っていただけだろう、奴は放っておけ」

「直ちに辰宮星妃の自宅を捜索しろ! 必ず手掛かりがあるはずだ!」


 奈島の指示でサッと部下たちはパトカーに乗り込み、辰宮の自宅へ急行。静かになった現場には見張りの警官しか残っていない。



「さて――俺たちも行こうか。に」


 亜紀は振り向いて不敵に笑った。



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