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世界は人間が思っている以上に、成長と衰退を繰り返している。
それが著しく表れているのはオリエンスと言っても過言ではないだろう。
御影が統治するオリエンスは鎖国政策により外部からの干渉を拒み、彼が描く未来計画が着々と遂行されていた。
その結果は蒼斗でも理解できる悲惨なものだった。
絶対王政、反民主主義、人間の血で錆びつくされた断頭刃が、この国の第一印象だ。
時代が流れるにつれ、世界には科学では証明できないものが存在すると認識されるようになった。
御影は櫻都に研究所を設け、密かにこの世に神たる存在の錬成実験を始めた。
御影は十年前、自らの統治下に従う者とそうでない者を振り分けるために、ある計画を立てた。
――それが、『最期の審判計画』
御影の恐ろしい計画を阻止する者、いや阻止できる者は誰一人いなかった。
しかし、変わらない世界の水面下では、壮絶な闘いが繰り広げられていた。御影に対抗できる唯一の一族……死神
彼らの存在が、数十年で遂行できる計画を長きに渡り阻み続けてきた。
「死神は御影の独裁政治が始まるとほぼ同時に誕生したと言われている。人々を苦しめている世の水面下で、死神は御影を殺そうと闘っていた」
「王を、殺す……」
御影を滅ぼすべく思考をめぐらし、策を以て刃を向けた――その闘いはついに、大きな代償を世界に支払わせることになってしまった。
それこそ、櫻都を襲い、人口の三分の二も削った巨大異常災害――その名もゼロ・トランス。
ゼロ・トランスは単なる異常災害ではなく、人間の手によって引き起こされた事故だった。
御影の支配に苦しんできたオリエンスは、ゼロ・トランスにより二つに分かれた。
片方はオリエンスとして残存。
鎖国化したオリエンスに対し、消滅したとされるオリエンスの三分の二は先導者、
「で、でも……分断されたとしても、忘れられるなんて……」
「その分断のされ方が、少々特殊なんだ」
「?」
「話を戻してもいいかい? それはまた教えるから」
スライドには円形の中に小さな丸が描かれ、そこから五つの線が外へ伸びている。
小さな丸のさらに中心には、逆さ十字架の形をした建物が表示される。
――ペンタグラムは、核が住まうとされる魔鞘塔が置かれた首都セントラルを中心に五つのエリアに区切られ、それぞれ核が選定した五人の皇帝が統治している。
彼らは産業革命として港を各地に開き、ゼロ・トランスにより変化した気候を生かして様々な食糧を生産し、食料自給率を上げた。
他にも農林水産業や工業生産にも他国の技術と知識を取り入れることで進化を遂げ、先進国には劣るが、自立できる国となった。
物価を下げ、高級贅沢品の増税を課して国民の生活を安定させた。
また、教育においては高等部から大学同様にセメスター制度を導入し、基本言語を二カ国語とした。
ペンタグラムは、まさに多国籍国家となってここ十年、進化を遂げてきた。
並みならぬ成長を繰り返す皇帝の手腕を認め、ペンタグラムの人々は彼らを『五賢帝』と呼んだ。
「……似て、いる?」
蒼斗はこの社会情勢を顎に手を当てて首を傾げる――何処かで聞いたことがあるような、気がする。
そしてすぐに入院時に読んだ本、『忘却の国』を思い出した。
多少違いはあるが、片や豊かになり、片や世界から忘れられてしまうという一節を思い出した。
「あの本と同じ……」
「ん、忘却の国を読んだのか? まだオリエンスにあったとは意外だな」
「じゃあ、あの忘れられた国っていうのはここじゃなくて……」
――オリエンスの方。
視点をいくら変えても忘却の彼方の国がオリエンスだという結論は揺るがず、蒼斗は愕然とした。
「今のオリエンスは国民を洗脳し、自発的に国家の意思に従わせる全体主義国家的方法をとっている」
政治体制・戦略・財政・経済体制・社会構造などの総合的な国力を軍事力の増強のため集中的に投入。
警察国家的側面には、強権的な秘密警察や情報機関が必要な要素であり、その他に密告制度、工作員を用い相互監視の性格を帯びた国民管理の方法をとり、更に刑罰を見せしめとして利用することで国民を威嚇している。
オリエンスから離れたペンタグラムが忘れられたのではない……オリエンスが、ペンタグラムから忘れられたのだ――世界からをも。
「そんな……そんなことが、あるわけがない……。だって、明らかにおかしいでしょう? 王が錬成実験を行っているだなんて……それに、オリエンスが忘れられた国だなんて……ありえない!」
「長年仕えてきた国の正体を知れば、誰でも同じ反応をする。だが、最期の審判計画はゼロ・トランス後も準備が行われつつある」
現に、蒼斗の手に死神の刻印が浮かんでいる。
初代はその力を使って最期の審判計画阻止に全てを捧げ、命を懸けた。言葉通り、彼は自らの命を犠牲に御影を殺した。
――しかし、御影は息子に王位を継承し、新たなる暴君として誕生させていた。断ち切れることの因縁は次世代にも続いてしまっていた。
「初代亡き後、息子が二代目となり御影と対峙した」
年代的に考慮すると、二代目は蒼斗の父親だろう。
記憶のない蒼斗にとって、唯一自分を知る手掛かりの父親の存在。気にならないわけがなかった。
「二代目についてだが、あまり望みは持たない方がいい」
「どうして、ですか?」
「二代目の時、ゼロ・トランスが起きたからだよ」
「力になりたいのは山々だが、こればかりはどうにもならねぇな」
「そう、ですか……」
「少なからず分かるのは、御影との対立はまだ終わってねぇってことだ」
紋章が現れるということは、死神としての覚醒が始まった――つまり、御影を殺し切れていないということになる。
今度は蒼斗の番、ということか。
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