第26話

「〝お母さん〟が初めて生んだ赤ん坊は男の子だったよ。ゆりかごの中で、ぼくは赤ん坊に舐められたり、引っ張られたり……脚がちぎれたり……眼が取れたり……その度に〝お母さん〟が修理をしてくれたんだ」


「〝お母さん〟はノゾミより修理が上手なの?」


「同じくらい上手。だけど、修理を重ねるごとに、眼の色や髪の色が変わっていくんだ」


「今と同じだわ」


「そうだね。だって、〝お母さん〟にはたくさんの子供が生まれたんだもの。ぼくの仲間も同じ数だけ作られたから、材料が足りなくなったんだ」


「色々なソラがたくさんいたのね」


「だけど、その頃には、もう人間たちの争いは、始まっては終わるを繰り返していて、材料はますます足りなくなり、ぼくの体の色も変わっていった。〝お母さん〟の子供たちは大きくなる前に死んでしまい……ぼくの仲間たちも、みんな炎に焼かれてしまった……家や、街と一緒に……」


「かわいそうだわ。寂しかったでしょう?」


「いいや、ちっとも。ぼくは、ただ、起こっていることを眼に映すだけだよ……だって、ぼくは人形だから。でもね、〝お母さん〟は、いつもぼくを大切に扱ってくれたよ。まるで子供のように……。大きくなった男の子が、争いの渦の中に追い立てられてしまったとき、〝お母さん〟は、ぼくに着替えとベッドを用意して、毎日髪を梳き、彼と同じ名前で呼んだんだ。〝小さなソラ〟って……」


「ソラの名前は〝お母さん〟が付けたのね」


「そうだよ。やっと戦争が終わって、帰って来た彼は女の人と暮らすようになったよ。そのうちに、彼と彼女の間には女の子が生まれたんだ。〝お母さん〟は〝おばあさん〟と呼ばれるようになり、初めての孫娘のために、息子が生まれたときと同じように人形を作ったよ」


「また、仲間ができたのね」


「そう、ぼくと同じように壊れたら修理をしてね。だけどね、その孫娘は、まだ子供のうちに死んでしまった」


「じゃあ、また会えなくなったのね」


「病気というものには、ぼくのような作り物には解らない〝痛み〟や〝苦しみ〟があって、とても我慢できないようで……女の子は、いつも泣いていたよ」


「泣く……?」


「泣くんだよ、〝涙〟というものを流して。ぼくの見た人間は、みんな泣いてばかりなんだ。痛くて泣く、子供が生まれたときにも泣く、子供が死んだときにも泣く。どんなときに泣くのかは解らないけれど、人間は泣いてばかりの生き物だ。そして、いつも祈っている」


「祈る……?」


「〝おばあさん〟は戦争に行った息子が無事に返って来るようにと、毎日ぼくの頭を撫でながら手を合わせていたよ。初めての孫娘が死んだ日には、星になって輝くようにと、空に向かって泣きながら願っていたよ」


「死ぬと星になるの?」


「そんなに遠くに行ったことがないから判らないけれど、昔は今よりもずっと空気が清んでいて、空には星がたくさん輝いていたから、きっと、そうだったんだと思う」


「その願いは誰が叶えてくれるの? 誰に祈るの?」


「この世界を……宇宙を創った者に……じゃないだろうか。人間は〝カミサマ〟と呼んでいた気がする」


「カミサマ?」


 神様? 神様? 神様? …………それは、なあに? ────


 花たちはこそこそと囁きあった。

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