完全なる花の種

吉浦 海

第1話

 永遠なんて、ないのよ────


 花は、光の粉をまきちらして言った。ひらひらとはなびらを翻しては、風に弄ばれまいと抗っている。


「ならば、なぜ、おまえはここにいるの?」


 ソラは、くしゅり、と片手で花を握りつぶした。乾いた地面から引き抜かれ、宇宙を引き裂く声をあげた花が、この世の何よりも、よい匂いを放つ。てのひらに鼻を埋めて、はなびらを顔にこすりつけたソラは、体の奥深くにまで、すんすんと香りを吸い込む。


「これが、応えなの?」


 花はほろほろとわらいながら、ソラの胸に舞い降りた。


「ねえ、教えてよ。アユムは、もう一度、眼醒めるだろうか。そのときに、ぼくを捜してくれるだろうか。ねえ、なぜ、おまえたちはここにいるの?」


 花は、つんっ、とそっぽを向いて、風に流された。


 海岸を覆い尽くす砂に埋もれて腰を下ろしたソラは、片手で自らの肩を撫でる。ぶらぶらゆれる、役に立たないちぎれた腕が、ぎりり、と金属同士の擦れ合う音を響かせる。焦げ臭い砂を巻き上げる風に誘われるように……。


 傍らを見下ろすと、僅かに膨らんだ胸を隠すように、両肩を抱いたアユムが膝を引き寄せ横たわっている。


 ぼくは知っているよ。お腹にいる人間の赤ん坊は、みんな、こうして眠るんだ。


 まだ動く指先で、砂に覆われたアユムの髪を梳いたけれど、どれだけ掃っても小波のように寄せる熱い砂は、溜め息をつく間にもアユムの体を呑み込もうとする。風は容赦なく砂を運ぶ。


 ここの連中は、私たちのことを「虹の花」なんて呼んだりするのよ。虹が何かなんて、知りもしないくせに────


 砂に交じった花は、頬に、髪に、貼り付きながらソラに囁く。


 まったく、高慢なやつらだな。

  

 煩いのはいつものことだと諦めて、ソラは、降りかかる砂から守るように、アユムの体に被さった。片手で抱き起こすと、砂は、ざらざらと滑り落ちるより先に、風と共に飛び去っていく。細い肩にアユムを担いだソラは、底なしの砂に足をとられながら海岸を後にした。 

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