第12話 異世界

 その日は昨日の移動中、私に対してずっと無口だったリーファが打って変わって、口数がかなり増えていた。私の泣き顔を見て警戒心が解けたのか、或いは泣かせたと思い込んでいる罪悪感からか。相変わらず笑わないが、ぽつりぽつりと馬車の操縦方法を教えてくれる。


 馬車を引いているらばは、とても賢いようだ。ピルメラという名前らしいその子は、手綱を介した指示のみならず、口頭で飛ばす指示にも従うのだ。器用にリーファが言葉だけで馬車の速度を上げたり、蛇行してみせた。


 感心して眺めていたら、ピルメラはブルルッと鼻を急に鳴らし、首を大きく上下に数回振る。抗議している様に見える。するとリーファは肩をすくめ、口をつぐむ。ピルメラにもピルメラの都合がある、という事か。私も試してみたかったが、またの機会としよう。


 馬車に揺られながら、この世界の事を少し考えてみた。ここは私の知っている日本ではない。そればかりか、私の知っている地球ですらないようだ。ならば、どこなのか。あるいは、いつなのか。


 宇宙に存在する地球によく似た惑星。地球上に存在している平行世界。歴史に残っていないような過去。知り得ないような未来。全て夢物語のような響きを有していて、現実味が無い。


 そして私の立場は何なのか。外国人でも間違いでは無いが、おそらく世界単位で違う。宇宙人。しっくりこないな。外部の人間である事には間違い無いが。疎外感、というより地に足が着いてないような。大きな何かに属していた風船が急に切り離されてしまったような、心細さがある。異界にでも迷い込んでしまった気分だ。


 ピンとくる。異界。そうか、ここは異世界だ。


 妙に納得した気分で午前の残りは、昨晩の睡眠不足を補うように、転寝を繰り返した。

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