第4話 周辺視

 かなり登って来た。再び空を見上げれば、最後に見た時より幾分か紺が薄らいだように思える。周りの木の大きさも一回り小さく、数も少なくなっていて、見通しが良くなっている。


 ふと、視界の端に何かを捉えた。反射的にそちらの方角を凝視してみるが、何も変わったものは確認できない。視線を元に戻すと、また同じ場所が気を引く。今回はもう少し具体的な感覚。蠟燭の火を思わせる様な、仄かな灯り。だがそこを注視するとまた消えてしまう。


 何年か前の心理学の授業を思い出す。目の錯覚について教わるにあたり、眼球の構造と見るという行為の仕組みを、基礎だけだが習った事がある。確か、焦点が合う視界の中心では、物の色や距離を捉えるのには適しているが、光と動きに敏感なのは周辺視であった筈。


 目線を明かりが見えた気がした方から外し、意識だけをそちらに向けてみる。すると微かだが、確かに、灯りが揺らめいていた。


 焚き火だ。直感する。逸る気持ちを抑えながら枕を脇に抱え直し、仄かな灯りを目指し、再び歩き出す。足取りは、自然と軽くなっていた。

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