第13話

 手術室の奥にガラス張りの見学室があった。

 

 羅無蔵らむぞう理事長が挨拶する。

「こんなチベットの山奥みたいな病院においで頂いて、申し訳ない。さぞお疲れだったでしょう」

 笑みを浮かべてはいるが、目は笑っていない。口はイグアナのように口角が上がっている。


「お茶でもお出ししたいところですが、まず用事を済ませてしまいましょうか?」

 理事長は手術室に入ると手早く準備を始めた。さっき案内してくれたのとは別の看護師が手慣れた様子で助手を務めている。

 上田さんの話では、理事長も爬虫類愛好家で、Dr.とはそのコレクションを競い合う間柄であるという。


 みんな疲れていた。


 部長の笑いも消えている。ランドセルさんのツンツン頭も、クリニックを出るときにはススキみたいだったのが、汗がにじんで束になり、しおれた長ネギみたいになっている。ボクは疲労を感じながら、妙に興奮しているところもあり頭は冴えていた。どんなことをするのかと理事長の一挙手一投足を見守った。


 理事長は、ゆっくりワニの背後から近寄ると、百列拳を見舞った。

 ……ということは全くなく、太いチューブを口に入れ、麻酔をかけながら、ヘラの付いた機械でゆっくりと口を開いた。看護師はワニの背中を撫でて機嫌をとっているが、ここまでこじれたペットとの関係修復に効果があるのだろうか?

 大きく開けられたワニの口を見ながら、ボクは映画『アラジン』で、魔法のランプが眠っていた洞窟を思い出していた。その入り口は獰猛な肉食獣をかたどっていて、欲深い者を飲み込む大きな罠でもあった。


 Dr.は大量の粘液にまみれ、死んでいるように見えた。

 取り出して寝台に寝かしてみると、いびきをかいて眠っているだけだった。ワニの舌を枕に眠れるあたり豪気と言えば、言えなくもない気がする。

 

 病室に運ばれ目を覚ましたDr.は、ワニの口中滞在記を語った。

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