第12話

 もちろん、大丈夫じゃない。

 状況は既に詰んでいる可能性が高かった。


 目の前には“お城”の門があった。異様な大きさだ。

 どんな敵に備えようとしたら、こんな門構えが必要になるのだろう。

 コンクリート打ちっ放しの、それ自体が巨大な建築である門の枠組みがあり、巨人が攻めてきても大丈夫そうな鋼鉄の扉がその間を埋めている。

 マッチョな警備の男がやって来て運転席の上田さんに用件を尋ねる。間もなくして、怪獣の断末魔のような音とともに、ゆっくりと門扉が開いた。

 その門扉から斜面に生えた木々や畑の間を縫うように砂利道を進んだ。

 丘の頂上にあたるところに“お城”はあった。

 見上げるとピンク色の壁に“浅井病院”という文字が貼られている。


「ここはなあ、スミス先生も昔勤めとった精神病院なんだぞお!」

 部長が、場を支配していた暗い雰囲気を破るような調子で言ったが、ボクは余計に重苦しい気分になった。


 とてつもなく大きな建物の割には入り口は小さかった。それは大きなダムに開いてしまった蟻の穴のようだった。それと極端に窓が少ない。この桃色の建物に入り込むことが、自由の終わりを意味するような気がして、本能が“入っちゃダメー!”と警告してくる。その警告を無視して、案内に出た看護師に促されるまま、蟻の穴に入っていった。

 薄暗い廊下の角を何回曲がっても、似たような扉があった。通過には毎回パスワードの入力が必要だった。看護師が、「迷路みたいでしょ? 建て増しを繰り返してくっつけたから……」と誰かに聞かれることを畏れるようなヒソヒソ声で話した。ボクたちは、二つの寝台にまたがって載せられ、列車みたいになったワニとDr.を押しながら、建て増しのせいだけとも思えないクネクネとした通路や渡り廊下をひたすら進んだ。


 やがて“ここを通るとラスボスがいますよ”と言わんばかりの頑丈で禍々しい扉が現れた。蛍光灯のせいかみんな顔色が悪く見えた。看護師がオモチャのマジックハンドのような痩せた腕でゆっくりと扉を開ける。

 ……

 そこには、鋭い目つきの老人が、白衣を着て立っていた。

 この人が浅井羅無蔵あさいらむぞう理事長、“お城”のあるじだった。

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