第19話 優しい味

いろいろあって、晩ご飯の時間になりました。

...いろいろはいろいろです。

「あ!小町ちゃん!」

「?」

突然後ろから名前を呼ばれた。

真南斗先輩と良く似たこの声は...

「郁斗さん。」

「あ、覚えててくれたんだね。クリスマス以来かな?久しぶり。」

「お久しぶりです。あ、お世話になります。」

「堅苦しいのは無しで良いよ。それより今からご飯だよね。」

「は、はい。」


実はお姉ちゃんが...

「小町!ほんっとうは、小町と離れたくないんだけど、小町に美味しいもの食べさせるのは私が良いから、本当に不本意だけど、小町と別行動するね...!」

と言って先にダイニングへ向かったから1人で行くことになったんだけど、このお家大き過ぎて迷子なんだよね...


「...あ、そうだ。俺もまだだから一緒に行こうか。」

「!ありがとうございます。」

心の声を読んだかのような気遣い...え、ほんとに私声に出してないよね?

「それよりさ、楠の本性見抜いたんだってね。それも会って直ぐに。」

「見抜いたっていうか...」

「悔しいなー、俺は2日もかかったのに。」

「楠さんにも悔しいって言われました。」

「だろうね。あいつは本性を隠すのが特技だからね。」

「どんな特技なんですか。」

本性を隠すのが特技なんて、思わず呆れてしまう。

「ははは、まぁ、真南斗もだけど、楠とも仲良くしてやって。」

「はい。」

「うん。良いお返事。あ、着いたよ。」

「ありがとうございます。」

喋っている内に着いてしまった。

それにしても、郁斗さんはすごくお兄ちゃんって感じで落ち着くなぁ。

「あ、小町ー!」

「お姉ちゃん...!」

手前に大きなテーブルが置いてあり、奥がキッチン。キッチンも大きくてレストランみたいだ。

「ごめんねー!迷わなかった??」

「うん。郁斗さんが連れてきてくれたから。」

ほんとはちょっと迷ったけどね。

「あ、郁斗さん!小町を連れてきてくれて、ありがとうございます!!」

「俺もご飯食べに来たついでだから、そんな感謝されることじゃないよ。」

「でも...」

「郁斗様、彩さん、小町さん。お食事の準備が整いましたので、こちらへ。」

「「!?」」

「お、よし、じゃあ行こうか。」

「は、はい。」

く、楠さん、いつからいたんだろう...?


「本日のメニューは、彩さんの助言により、小町さんのお好きなカレーに致しました。」

「!?」

席まで案内してもらって、メニューの説明をしてもらったまでは良いけど、私の好みで今日のメニュー決めたの!?

「あの、すみません!!」

「「「「??」」」」

いきなり謝ったからみんな何が?みたいな顔してる。...ちょっと待って、なんでお姉ちゃんまでそっち側にいるの。

まぁ、いいや。

「今日の晩御飯、私の好みにしちゃってすいません。」

ほんとにごめんなさい...!!

「はは、なんだ、そんなことで謝ったの?」

「そんなことって...!」

「大丈夫。晩御飯なんて、毎日食べるんだし、お客様がいるときくらい、好きなもの出したいよ。」

すごいな、真南斗先輩。さらっとフォローできちゃうとこ、見習わなきゃ。

「でも、私のじゃなくて、お姉ちゃんの好きなものでよかったのに...」

「何言ってるのよ。」

「へ?」

「彩の好きなものは、小町ちゃんが好きなものなんだよ。」

ね?っと優しく声をかけてくれる真南斗先輩に本当に申し訳なくなる。

「そうよ。まぁ、小町が好きだから、小町の好きなものも好きっていう方が正しいのかな?だから、これは私の好きなもので、私が我が儘言っただけなの。」

お姉ちゃんも...

「小町、こういう時はごめんなさいよりありがとうの方が真南斗様や彩さんはうれしいんじゃないか?」

楠さんまで...

「ほら、じゃあ、みんなに言うことは?」

そう言って背中を押してくれるのは郁斗さん。...さすがお兄さんだ。

「みんな、ありがとうございます。」

「当たり前でしょー??」

「皆様、折角のお料理ですので、どうぞ、お召し上がりくださいませ。」

「「「「いただきます!」」」」

「どう?小町ちゃん。」

「とっても美味しいです!!」

今日のカレーは、今までの中で一番美味しいカレーでした。

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