アブラゼミの恋
汗が滴る。大木からはセミに合唱が轟き、太陽の光はどこにも阻まれることなく、私のもとに届いた。なぜ外に出ているのか。なぜこんな暑い日なのか。理解できない人だってたくさんいるだろう。8:26。私がここにいる理由。私の好きな人はこの電車を降りてくる。私もそうだ。でも偶然。ただの偶然。そう言って自分を誤魔化す。
「あ、おはよ」
彼が私に気づく。
「ああ、おはよ」
気づかなかったふりを終わらせる。こうしてまた二人何気ない話を始める。できることならこの暑さ以外が一生続けばいいのに。私の淡い願い。聞こえる人は誰もいない。でも彼には好きな人がいる。私じゃない好きな人がいる。
「そこ子よりも私の方があなたを想っているのに、どうして?」
問いかけたい気持ちを毎日おし殺した。
ある日、彼は私に言った。
「俺、あの子と付き合えることになった。相談乗ってくれてありがとう」
「ん?」
聞こえたはずの言葉。蝉の大合唱で聞こえないふり。聞き返すようにして、あなたのことずっと見ていた。
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