単発 短編集
文月一星
大切なもの
少年は歌が好きでした。彼が所属しているのはもちろん合唱団です。でもときには嫌なこともあります。そんなとき、彼は真夜中に家を抜け出し、公園へ行き、夜空を眺めていました。
そんな日々の中、ある日真夜中の公園に人がいるの発見しました。
「なんだ、先客がいるのか?」
彼はそう思い、近づいて見ました。するとそこには自分と同じように星空を眺めている少女を見つけたのです。年齢は自分と同じくらい。月明かりのせいか、少女はとても美しく、目があったことに気がつきませんでした。
「君も抜け出したの?」
彼女は少年に話しかけました。我に戻った少年は少女に答えました。
「嫌なことがあった日はここに来るんだ」
「私も」
二人はお互いのことは何も知りません。ただ偶然出会っただけなのです。それでもなぜか少年がそこに行った日には少女がいるのです。少年と少女は少しずつ言葉を交わして行きました。その度互いに言いのです。
「頑張れ」と。
二人の不思議な関係は、日が照った日も、風が吹いた日も、雪が降った日も…
気がつけば少年は少女と一緒に星を数えていました。そしてそのことが少年の喜びとなり、知らず知らずのうちに少女に対して好意を抱いていました。
そんなある日、少年は勇気を出して、明日行われる合唱祭に少女を呼ぼうと公園を訪れました。しかしそこに少女はいないのです。偶然だと思い、寂しくは有るが、誘うのを諦めました。次の日の夜、真夜中の公園へ訪れるとそこには椅子が置いてありました。そして落ちないように丁寧に貼り付けてある手紙がありました。
「私はもうここにはいられなくなってしまいました。あなたとの日々は楽しかった。ありがとう」
手紙に書いてあったのはそれだけです。読んだ瞬間少年の目頭は熱くなりました。もし、もう少し早く伝えられていたら。いや、一言では言えない。伝えたいことがたくさんあった。少年は溢れんばかりの感情を抑え空を見上げ、歌い続けました。その夜は嫌いなほど美しい光を放つ星たちが輝き続けていました。
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