葉の手豆の手

カゲトモ

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 地下鉄に乗ってだいたい二十分くらい行ったところにそのお店はある。オーガニック食品を扱う店で、ハーブとコーヒーをメインに販売している。俺はその店のファンである。

「やぁ、花菱君」

「おはようございます」

 オーナーとはもう五年ほどの付き合いになる。独立してからは、コーヒー豆を卸してもらっていて、白髪交じりの気さくなオーナーだ。

「良い日に来たね、今日はレモングラスが美しいよ」

 ザルに乗せられた、みずみずしい緑の葉が目の前に差し出される。たった今、収穫されたもののようだ。

「本当だ、綺麗ですね」

 鮮やかな緑と、レモンのさっぱりとした香り。秋晴れの早朝にぴったりの香りだ。

「それじゃあ、レモングラスも頂いて帰ります。俺、カクテルにするの好きなんです」

「僕も好きなんだ。さっぱりして美味しいよね」

「また飲みに来て下さい、いつでもお作りしますよ」

「その時はレモングラス持参しなきゃね」

 はは、と笑うオーナーは柴葉と書いて“サイバ”と読む。ハーブを扱う亭主が苗字に“葉”がついているなんて、なんだか素敵だ。

「コーヒー豆はいつものでいいかい?」

「お願いします。あと、何かオススメとか、ありますか?」

「もちろんあるよ!」

 ちょっと待っててね、と言ってオーナーは奥に行ってしまった。決して広くはない店舗でぽつんと一人、取り残される。朝だと言っても日曜の朝だぞ。他にお客さんが来たらどうするんだ、と思いつつも、自由に商品を見て回る。

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