狐は幻想の英雄でして

榛乃チハヤ

01~『願い』は残酷でして~

 ただひたすらに、紅葉は色づき人々を魅了し、また散ってゆく。

 それは絶えることなく。


 ――紅葉って、なんでこんな紅くて綺麗なのかな


 老若男女に愛でられる紅葉は修学旅行生の純粋な心を奪ってゆく。

 それは無論良い意味であって、惹かれる、と言ったほうが聞こえが良いのかもしれないが。

 

 「くれは、やっぱり紅葉ってテレビで見るのと全然違うんだな」


 「本当に綺麗ですね」

 

 その紅い葉は、人々の他愛も無い会話の数々を生む。

 もしその美しい一枚一枚の紅い葉が、誰かのかけがえのない『願い』が込められているとしたら――


 毎年その願いが叶って舞うのだろうか。


 狐は、尻尾を揺らして湖畔を駆ける。


 「雪斗さん、狐が走ってます、かわいいです」


 「おおっ可愛い、もふもふしたい」


 この世界の何十億もの人間のうちのたった二人、今市雪斗、夕凪くれは。


 もしこの世界で二人が、何気なく、それも突然に『願い』を叶えたいと思ったら――、


 「くれは、お土産見ていこうぜ」


 ――どうなるか。

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