海と空と山吹色

@aqly

第1話 夏と海と私

________「 夏だ。 」

海猫の鳴き声、潮の香り、時折吹く涼しい風。

「綺麗... 」

強い日差しで水面がキラキラ輝いている。当たり前のように思えるその風景に私は感動していた。



20xx年6月18日 私、「神田 そら 」 は、都心から田舎に引っ越す事が決まった。

引越しの理由は両親の離婚ということだった。

私は昔から都会育ちで、コンビニはない、デパートもない、バスは3時間に1本という場所に引っ越すなど死に等しかった。

私はもちろん反対したのだが、

「あんたの意見なんか聞いてない。」

と呆気なく意見は却下された。

私はひどく落胆していた。

田舎に住むくらいなら一人暮らしをしたいくらいだった。

しかし、私はまだ高校生でその希望は実現できなかった。

一つだけ

ただ一つだけ楽しみもあった。

それは「海」だ。

引越し先の近くに綺麗な海があるらしかった。

私は生まれてから

1度も海を見たことがなかった。



田舎への引越し当日、私は唯一の楽しみの海と高校の友達が別れ際にくれた寄せ書きを心の支えにして車に乗りこんだ。

いつもの見慣れた銀色の高層ビルが

緑色へと変わってゆく

徐々に変わりゆく景色に自然と涙が流れた。

「私やっぱり帰りたい...」

子供のように泣きじゃくる私に母は

「じゃあここで降りる?」

と優しく、そして厳しく言った。

逃げ道なんてなかった。



田舎の新居は母方の祖母が用意してくれていた。

私は生まれつき身体が弱く、都心から出られなかった。

祖母も身体が悪かった。だから会ったことがなかった。

不安で胸が張り裂けそうだった。

すると、小柄で優しそうな女の人が杖をついてやって来た。

「大変だったねぇ。都会と違ってここは若い人すくないから、寂しい想いさせちゃうかもしれないけど、ごめんねぇ。 」

祖母は優しかった。

私は少し安心した。



田舎での初めての朝を迎えた。

私は引っ越す時に持ってきた自転車を漕いでいた。

新居から自転車で30分ほどで海についた。


初めて見るその景色に、感動を超えた何かを感じた。

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