汚勇者様と私

小岩井

汚勇者様

ようやく憧れのお城で働けるようになった私



勉強、勉強、勉強の毎日

とかく私は幼少の頃からお城に憧れた



だってさ、綺麗なお城に高級な飾り

礼儀正しい人達に美味しい食べ物

厳しくも優しい王様と素敵な王子様




それに…





世界を救う素敵な勇者様



憧れた世界に入れた私は今日も王様に紅茶を捧げた



王様は私から受け取った紅茶をゆっくり口に含むと声を出した



「そろそろか…」



なにがそろそろ何だろう?

思った瞬間に走る足音が聞こえた



「王様!!

お勇者様が帰…」




ダーーーーン!!



近衛兵士さんが言い終わる前に扉が荒く開かれた



「よぉ、王様…久しぶり」



物汚い格好の者が扉を越えて玉間に入ってきた




優しい顔をしていた王様は瞬間にして険しい顔になり、嫌そうな顔をした



その者はボサボサの髪に無精髭

なおかつ、扉を開けた瞬間から異様な…と、言うよりとにかく臭かった



「持ってきたぜ、依頼の品…」



汚い男は、そういうと大きな薄汚い袋を3つ王様の前に投げた



落ちたと同時に、3つのうちの1つの袋の紐が解けた




オークの首



その異臭の元凶のように腐ったオークの首が玉座の前に転がった



王宮の民衆の憧れであり、華やかで綺麗な…

豪華なイメージは、その瞬間に崩れた




それを見て、王様は口を開く



「うむ、勇者よ…ご苦労じゃった

しかし…流石というか、よく一人で3体ものオークを…」



「一人じゃねぇよ!!

こんな化け物…

俺一人で倒せるもんか!!

なにが勇者だよ!ちくしょう…」



「では、他にもいるのか?

是非会わせてくれないか?」



「はぁ?何言ってんだ!!お気軽…ってか夢見てるってか…

世間様が言うように俺達の住む世界とは別の世界なんだな

お気楽なもんだな…

夢見ていた頃の

俺達みたいだ…」



強く言葉を発した後、勇者は諦めたように、残念なように荒げた口調で続ける



「仲間は…逃げた奴と俺以外全員死んだよ!!

この国の依頼…いや、王様の依頼のせいでな!!

何が冒険者だ、何が勇者だ!!

あんたの依頼に夢を見て、世界に幻を見て…

ちくしょう!!」



「それは…すまぬ…」




王様が悪い訳じゃない

王様は、確かにこの国を荒らすオークの討伐を冒険者に依頼した



命をかける依頼にほとんどの冒険者が断った…と、言うより受けなかった依頼



だけど、少数ながら、勇者…いや、冒険者の中でも夢を見る者、強き者、勇者の名に恥じない、まさしく勇敢な者のみが依頼を受けた




登録人数で言えば、その数73名



数十人で隊を組むギルド

数人で挑むチーム

一人で戦う者

逃げ出す者…



正直言ってしまえば、それぞれが報酬に目がくらんだ者だと私は思う

それは夢物語なのだから…


実際、オークを一匹倒すのに王宮の中でも世界中での手練れな近衛兵が10人で倒せるか…



それを3匹倒せと言う無理な依頼



報酬は『勇者』という称号と王様に対して可能な限りの願い



当選ながら世界に通用する手練れの衛兵はこの国にはいない


『勇者』になった彼は言う


「さぁ、報酬を渡せっ!!

報酬を!!俺が望む報酬をな!!」




「ふむ…」


「では、そなた…勇者である君は何を望む」



小汚ない者に対して王様は落ち着いたようにゆっくり言う



当然だ

王様にとって、脅威だったのがこの国を脅かすオーク


かつ願いは王様本人の可能な限りの願い



王様自体が利益ない…

もしくは害がある話ならば、断る事ができる話



元より王様より上を願えない願い



小汚ない勇者は言った

「死んだ仲間を生き返らせてくれ!!

そして、俺と同等の願いを叶えてくれ!!」



勇者にとって当然の願いだが、一人の人間に対して無茶ぶりな願いに当然、王様は首を横に震る



もう一度、勇者は言った

「ならば、俺のチームメンバーの両親、家族に対してそれぞれの願いを可能な限り応えてくれ!」



その言葉にも、王様は首横にふった

「それは、その者が生きていれば私も受け入れる

もちろん、勇者の願いとして…

が、しかし…勇者とは勇敢であり、かつ勝利した者の事。勝利できなかった者に対しては『無謀』だろう?それなら自殺志願者でも勇者になれると思わんか?

自殺志願者が死を目的に戦うのは勇者かね?」



流石…と言うか、全て自分優位にしか話をしない王様に、俺は無口になる

と、言うより、主導権を握られた俺には何も言えなくなった



権力を上手く使いながら相手にはなるだけ自分に不利益な話をさせない話方…

帝王学と言うか王学と言うか



仲間を失って

家族…恋人…

全てを失った俺は、感情のままに言う



「確かに王様が言う理論が正しいならばそれは勇者じゃねぇ!ただの自殺者だ!!

それこそ、勝った者が正義だ

が、しかしな…

夢見た奴やらや

死んだ奴…そいつ達の希望や想いに王様はどう思うんだ!!

どう感じるんだよ!!」



「勇者の称号を得た君にあえて言おう



「結果からして、君達の敗けだと…さて、

話が長引いたね…勇者の君は何を望む」



勇者の手が私の手を掴む




「なら、報酬にはこれを貰おう

貴族である貴様達の内の一人に俺達の世界を見せてやる!!」



ちょっ…勘弁してください

私貴族じゃないし

本気で無理です

てか貴方貴方!

この国で勇者かもだけど臭いし汚いし…


うぉおぉぉおぉいっ!!

王様!!王様!!

さっき私の紅茶飲んだよね?

絶品だったよね?

もう一回てか、毎日飲みたいよね?


私ね、勇者は好きじゃなかったと思う

やっぱさぁ、王子様だよね

白馬に乗った王子様!!

私の夢なんよ

だから助けてよ王様!!

っていう気持ちをめいっぱい乗せて王様に目で合図した



「よかろう

それと、今から風呂と髪切り者も用意しよう」



ちょっ…

えと…私は売られましたか?確定ですか?

あげられましたか?

えと…

えと…




え?!




「では、アリエッタよ…

これからは勇者様をよろしく頼むぞ」


ニッコリと私に微笑みながら王様は言った


「アリア(通称)、王様が言ったように今日から俺とお前は従順関係だ。

俺は今から散髪して風呂に行く

1時間後位に風呂場前の通路で待っていてくれ」



何か爽やかな感じで言う『勇者』だけど、小汚ないし、臭い



私はやむを得ず


「はい…」

と言った



これは仕方ないこと 

王様の命令は絶対である国の掟



もし、命令に逆らえば、従者が地の果てまで追って来て殺される

例えば、私がこの国一番の魔術者であっても、休みなく限りなく来る従者には、やがて殺されるだろう


魔術も生命も無限ではないのだから 



一時間後…





私は男性風呂の前に立つ


それが汚勇者様の前であっても王宮に支える者ならば当然礼儀として私自身の精一杯の格好で待った



が、汚勇者は出てこない…



ちきせう…

からかわれたか、騙されたのだろうか?



私が、努力しただけの下民と言う事を彼は知っていたのだろうか?



私は下を向き、下半身にまっすぐ伸びた両手を握る



俯きながら何故かポロポロ涙が出た



わかってる



あんなに汚くても実績は実績

実績がある以上彼は勇者なのだ


下民である私はいくら努力をしても及ばない存在なんだ

無視されて…バカにされて…

それでも生きていかなきゃいけない存在なんだ…




そう思った



でも待つしかない

王様の命令は絶対だし、私は何時間待とうが彼を待つしかないのだから


それに彼の望みを王様が叶えた以上、私は彼の命令に背けない



私はとにかく待った




約束の時間からどれくらいだろうか?

私の目の前に素敵な騎士が遠目に現れた



綺麗な姿勢からの歩き方、堂々とした行動や凜とした振る舞い

貴族でいながら、力強く美しい姿に私は王子様だと思った



すれ違い様と言うか、彼が正面に来た時に見知らぬ人は足を止めた



「やぁ、アリア、すまなかったな

あいつらさぁ、めちゃくちゃ面倒てかさぁ、とことんまでやる奴らなんなー、

俺もさぁ、勇者になったん初めてやけどさー、こんなんなると思わんかったー

アリア貴族やろ?

やからさ、後任せるわぁ」



「えと…」


なぜか私の名前を知っている騎士様に私は尋ねた



「すいません、私は、確かにアリアですが人違いではないでしょうか?

それに…その…」



確かに私は王宮で働いている者ですが、貴方様に対して.対等に話会える身分では…

そう言おうと口を開いた瞬間


「は?何言ってんだ?

俺だ、俺!!さっきお前の事を貰うって言った勇者だよ!!

なんでわかんねぇんだよ、チクショウ!

そんなに俺の印象薄いのかよ!!」



「はい?」



私は耳を疑った

いやいや、私の嫌悪するご主人様は汚勇者様ですよ

貴方様ではないのです


当然、私は首を横に二回振り



「誰かと間違えておられないでしょうか?

私は貴方様程の方にお声を掛けて貰える程の身分でははありませんよ

申し訳ありません」


嫌みの無いように精一杯ニッコリ微笑みながら私は言った



「はぁ?何言ってんだ?

アリアだろ?お前の姿を見間違える程、俺はバカじゃねぇよ

それかアレか?アリアと言う名前のそっくりな奴で同じ指輪を10個している奴がこの城にはたくさんいるのか?」



「すいません、私はこの王宮の方を全て理解していないので理解しかねます」



「まぁ、いいや。

とかく俺が一緒に居たいと思ったアリアはお前だ

今から晩餐会だし、一緒に行こう」



そう言うと騎士様は私の手をぎゅっ…と握った








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