136.幼女、名付けに迷う
「ひょるる……」
ふよんふよんとクラゲちゃんが空中を泳ぐ。
私の視線よりずっと高い位置を漂うように進んでいるからか、キースくんがジャンプしても届かないようだ。スカッと両手が空を切る。それが楽しいのか、幼い歓声は止まらない。元気いっぱいだ。
さっきはつい叫んじゃったけど、あの様子ならクラゲちゃんが捕まる事はないだろう。たぶん、キースくんのジャンプ力が突然進化しなければ。
ゆっくり息を漏らして、箱庭の扉に背中を預ける。どくどくと鳴る心臓を押さえる。走って緊張して安堵して、朝から大運動会だ。
いやぁ、ルウェンさん達と入れ違わなくてよかった。次の約束も取り付けられたし、これでしばらくは安心……あ、駄目だ100階のお料理教室あったわ。でも数日は猶予あるし、今は考えないでおこう。
とりあえずクラゲちゃんの様子を見なきゃ。主食が何かもわかってないし、寝床をどうするべきかも考え付かない。どんな病気にかかる確率があるかとか……ぬるま湯を好む当たり箱庭の温暖な気候は肌に合ってるとは思うけど、本来はどんなとこに住んでる魔獣なんだろうか……
考え事をやめて顔を上げると、ちょうどクラゲちゃんが目の前に来た。私の腕に長い触手をぎゅうっと絡めて、そのまま胴体……たぶん胴体である傘部分を、ぐいぐいと押し付けてきた。お、おうん? 可愛いな?
「ひょるるる……」
鳴き声もなんだか、元気がない。どうしたんだろ?
私が首を傾げていると、キースくんの頭上をぴょんぴょん跳ねる事で興味を引いて誤魔化してくれてたテクトが、テレパスで読み取って教えてくれた。
<……急にいなくなったから、驚いたってさ>
そっか。隣にいたはずの親がふと見えなくなったら、慌てて追いかけるよね。箱庭は安全だから大丈夫ってのは、私側の認識だ。そんなのクラゲちゃんには関係ない。
孵ったばかりの子に配慮不足だった。これは間違いなく、私が悪い。
腕にひっつくクラゲちゃんの頭……きっと頭頂部のあたりを、ゆっくり撫でる。
「ごめんね、びっくりしたね。大丈夫、もう離れないからね」
「ひょるる」
撫でられて嬉しいのか、今度は私の手に向かって頭をぐりぐりしてくる。な、なんだこの、心の底からこみ上げてくる愛しさは! クラゲちゃんこんなに懐こいのかぁああ!! やっば顔にやけちゃう……!!
いやいや落ち付け。今はにやついてる場合じゃない。反省しろ私!!
<調べなきゃいけない事はたくさんあるだろうけど、まずは腹ごしらえだよ。もう少しで12時になる>
<あ、ルウェンさん達が来る時間って事は、昼が近いじゃん!>
腹が減っては何とやら。空腹のままじゃ、いい考えも浮かばないよね!
<その意気だよ。ついでにセンスのいいネーミングを思いつくといいね>
<テクト私の名付けを根に持ちすぎじゃない!?>
いやずっと悩んではいるけど! 私1人で決めるわけがないじゃん!
「──え、いえ。私はてっきりルイが決めるものだと思っていましたが」
「ゔっ!?」
うどんをちゅるりとすすった所だったので、リトジアの発言で思いっきりむせた……!
お昼ご飯食べながらクラゲちゃんの名前決めない? と提案した矢先にまさかの返答だよぉ! なんでぇ!?
「大丈夫かい!?」
「ルイ! 水を!」
「げほっ、う、うん大丈夫! ちょっと穴間違えただけだから!!」
天かす入りのぶっかけうどんにしちゃったから、ものの見事に入っちゃ駄目な気管にスッポリと! あっ、温玉のとろみで出しやすそう! これが出れば! 治るから! 皆そんな、身構えないで!!
「っていうか、え、何で!? クラゲちゃんは末っ子だから、皆で案を出し合うものだとばっかり……!!」
だがヒューさんもリトジアも、きょとんとした表情を返してきた。待って今萌えたら喉やばい。マジでやばい。
「てっきり、僕はルイが決めるものだと」
「いやいやいや! 何で!?」
「この子の親だし」
「親になったのは偶然だよ!?」
思わずというか、つい手を取っちゃっただけで……むしろ奪っちゃった立場というか……
軽く咳き込んでると、水のおかわりを注いでくれたリトジアが「いいえ」と首を振った。
「私は偶然ではないと思います。ルイだからこそ、戸惑う手を取れた」
「まさかぁ……」
「……私はあの手が、何を求めているのか察せませんでした。相手の事を理解する余裕がまだない、自分の事で手一杯だという
まあ、ようやく大きな一歩を踏み出したばかり、ではあるからね。隠れていたとはいえ箱庭以外の人に自ら会いに行くなんて、すごい進歩だと思う。
彼女の言う通り、まだリハビリ中であるならば……余裕がないという言葉も、頷ける。でもなぁ。
真剣な眼差しでこちらを見てたリトジアは、ふと表情を崩した。
「私もミチも、ルイが名付けてくれました。ならば新しく入った子にも、あなたが祝福を与えるべきです」
祝福……か。
そう、言ってくれるんだなぁ。そっかぁ。嬉しくて涙出そう。咳の影響でもう出てるじゃん、とは言わないでよテクト。
「んでは
<センス良くね>
「はーい」
私の頭にぺたりとくっついているクラゲちゃんを、するりと撫でた。ひょるる、と元気な鳴き声がする。
「クラゲ……ゼリーフィッシュ……ファンタジーのクラゲ……空飛ぶクラゲ……んんー……」
「随分と悩んでおられますね」
「うん……」
気付けばお日様は傾いてた。そろそろおやつの時間だなぁ……今日は何にしようか。新入り2人の味覚開発目的でまんじゅうもありかな。初めてでも食べやすいこしあんの、そうだなぁ、ふかふかの温泉まんじゅうにしよっか。小さければキースくんも食べやすいし。
<おやつはすぐ決まるのにね>
「すみませんねぇ、ネーミングセンスより食欲が強いのでぇ」
ハンモックの隅からひょこんと顔を出したテクトに文句を言って、ふわふわの頭を撫でる。ええい、その極上の毛で私を癒してくれぇい!
いやあ、こんなにも名前が決まらないのは初めてだ。悩みに悩んで家の中を歩き回ったり、テラスにハンモックを出して寝転びながら考えていたんだけど……まあご覧の有り様である。
ちなみにその間、クラゲちゃんは私にべったりだった。親子猿のように背中に張り付いたり、私が抱っこする形だったり、状態は違えどずっと一緒だ。
さすがぬるま湯を好むファンタジークラゲ、幼女の人肌は結構温かいと思うんだけどまったく動じた様子がない。むしろ人肌を求めるが如く全身くっついてきてる。
クラゲちゃんからしたら、産湯よりずっと高い温度だと思うんだよなぁ。でもテクト曰く平気らしい。
苦しんでる思念は感じないよ、と言われたら拒否する理由もなし。私は全身で癒しを感じながら頭を悩ませていたわけである。浮いてるからか、体重が軽いからか、幼女の私が抱っこしてても負担にならないのが幸いだった。
今はハンモックに揺られながら、私の腕の中でひょるひょると鳴いている。可愛いねえ、頭撫でようねぇ。
「いやさ、ミチとリトジアの時は何かこう……これからこうなって欲しいとか、目で見て大きな目印みたいなのがあったから……案外早く名付けれた気がするんだよね。でもクラゲちゃんは……どこからどう見てもクラゲちゃんじゃん」
「はい」
「孵ったばかりだから、私的には健やかに成長してほしい気持ちが強くて……」
そう、真っ白な雪原を前にしてる気分なんだよなぁ。
たとえばさ、すでに出来上がってる雪像に名付けるなら、悩む時間もきっと少ない。でも、誰も踏み入れてない雪原で一から何かを作って、それに名付けて、ってなると時間がかかるというか……ううーん、例え話も上手く出来ないなぁ。
今まで生きていた背景がない、
<いや、そんな気難しく考えなくてもいいと思うけどね>
「そうかな」
<センス良くしろって言い重ねた僕が言うのもなんだけど、ルイって悩み始めるとドツボにハマるじゃない>
「仰る通り」
<もっと肩の力を抜いて、気楽に考えるべきなんじゃない? いくつか候補を選んで、それがあまりにも酷ければ僕が指摘するし>
「そこは容赦ないねぇ」
<そりゃそうだよ。誰だって食べ物の名前は嫌でしょ>
「うん」
じゃあゼリーフィッシュから引用するのは止めとこう。食べ物+食べ物だもん。
クラゲ、空飛ぶクラゲ、半透明な青色のクラゲ……空はスカイ、青はブルー、半透明付けると……トランスルーセントブルー?
「ねえちゃ! おやちゅ!!」
「あ、キースくん」
満面の笑みで催促しに来たキースくんは、三食おやつ付き生活に慣れてきたようだ。体内時計もしっかりしてるようで、とてもよろしい。
悩んでてもどうしようもないし、おやつ休憩しようか!
ハンモックから降りると、クラゲちゃんが腕の中から頭の後ろにしゅるりと移動する。見た目水棲生物なのに私の体のどこも濡れないのが、ファンタジー感ましましだよなぁ。完全水棲じゃないって言われてたのを思い出すよ。
「ヒューさん、おやつの時間だよー」
「今行くよ」
箱庭の端をぐるりとジョギングしてたヒューさんに声をかける。
メンタルもやや前向きになり、体調もよくなったヒューさんは最近、体力作りに真剣だ。早く稼ぎたい気持ちもあるんだと思う。
増築して諸々の片付けが終わった後、稼ぎに行きたいって相談されたんだよね。でもヒューさんの肉体は酷使され続けて衰えてるから、素直に頷けなくて。幼女の健脚より弱そうなんだもん。
だから「長時間歩く体力がないと外出許可出さないよ、聖樹さんが」って言ったんだよね。同意するように聖樹さんの枝が激しく揺れたのも記憶に新しい。
それからヒューさんは、熱心にジョギングを始めたのである。初日は3周したくらいで息切れして倒れたけど、数日朝昼晩と真面目にこなしてたから今日はまだ長く走ってる。「昔は森も山も苦も無く移動できたんだよ……! こんなに衰えてたなんて……!!」って悔しげに呟いてたなぁ。私も幼女なりたての時は足遅すぎ体力なさすぎで絶望したよ……
ヒューさん汗かいてるだろうから、タオルと、スポドリも用意して。テラスのテーブルセットにおやつの温泉まんじゅうと、リトジア用の食べれる花を入れた果実水ゼリー、それぞれのコップと飲み物を準備する。
駆け寄ってきたヒューさんの眉が下がった。
「手伝いもしなくて、ごめん……」
「いいんだよー。今日は私が暇だもの。こういうのは手が空いた人がやればいいの」
「ええ。私も……このように空いてる手がたくさんありますので」
リトジアの背後からツタがいくつも出てきて、そして素早く収まっていく。使いこなしてるなぁ。特に最近は、繊細なものを扱うのが上手になったと思う。
「今日のおやつは、私の故郷のお菓子だよー。口に合えばいいんだけど」
紙で出来た四角い箱の蓋を取る。ビニールに包まれて行儀よく並べられた茶色のまんじゅうが、きらりと光った。
町内会の旅行で行った旅館で買った、思い出のまんじゅうだ。茶色の薄皮にぎっしり詰まったこしあん。口に入れればふかっと柔らかな生地、とろりと溶ける甘さ。艶のある薄皮が歯にくっつくのもご愛敬だ。
温泉まんじゅうってさー、生地が薄くてすぐあんこに行き当たるのがいいのよ。軽いからぺろりといけちゃうしね。また店によって生地の厚さや食感、見た目、あんこの味、重さが違うのもいい。食べ比べしたくなる魅力がある。
町内会で行った時は皆で食べ歩きしたけれど、懐かしいなぁ。夕飯は豪勢に食べるぞーなんて言ってたのにね。せっかくのご馳走が食べれなくなると悪いからって、お祖母ちゃんと半分こしてたっけ。こんな、幼女の手の平より小さいおまんじゅうを……
「ルイ?」
「ああ、ごめん。ボーっとしてた。これはね、手に取って食べるんだよ。裏側から袋を外して……」
「ああ、接着されてるんだね。結構、簡単に取れる」
「袋は食べれないから、取り除いてね。はい、キースくん食べてごらん」
「ん! んー、おいちぃ!!」
「よかったねぇ」
キースくんはまんじゅうをお気に召したようだ。次はまだかとキラキラした目を向けてきながら、口をもぐもぐさせてる。可愛いなぁ。心のシャッター止まりませんわぁ。
どれ私も一つ……うん、うん、美味しい。思い出と変わらない味だ。
「甘くて、美味しいね」
「よかった。甘いものは疲れに効くからね。ヒューさんいっぱい食べていいんだよ」
「いや、そんなには……キースも食べたいだろうし」
2個目になかなか手を出さないヒューさんに向けて、にっこりと微笑む。そんな私の手には、もう一種類の箱があった。
味が好みじゃないならまだしも、遠慮で我慢なんてさせないからね。
「大丈夫。運動後のヒューさん用に塩気のあるあんこ入り温泉まんじゅうも用意してあるから! 足りなくなる心配はご無用です!」
「うう……た、食べたい!」
「だよねー! 私も食べたいと思ってたの!」
よっしゃい、もう1箱開けるぞー!!
この塩気強めまんじゅうは生地がしっとりしてるタイプ! お祖父ちゃんはこっちが好きだって言ってたなぁ。
上機嫌で包装を破く。ご開帳じゃーい!
<ヒューも要求を言えるようになったね、偉いじゃない>
「そうかな……」
<いい傾向だよ。思った事は言えばいいんだ。ルイもそう望んでる>
「……おやつでも?」
<たかがおやつと侮っちゃいけない。食欲の権化を相手にしているんだ、自分の主張を通さないと彼女の好きなものばかりで埋められていくよ>
「ふふ……そうか、侮れないね」
「なにー? 何か言った?」
<食べ比べもいいけど、食べすぎて夕飯が入らない、なんて事にならないようにね>
「そりゃあもちろん!」
悩むべきは名前だけじゃない。
クラゲちゃんの寝床をどうするべきか、後は寝るだけという時間が差し迫った中、私達は未だ正解を知らないのである。シンプルにやっばーい。
リトジアもヒューさんもテクトもクラゲちゃん自体初めて見るから、この子がどういう環境に元々適しているのか誰も知らないんだがなぁ、これが!
温暖な気候で問題ないのは、日中過ごしてわかった。お風呂の温度は熱すぎるらしく、浴室の扉開けっ放して私をジーッと見るだけだった。
でも寝床は? 水の中だとしたら私一緒に寝れないんだが?
あれ、これちょっと困るね? ちょっとどころかかなり困るね??
<……などと困っている様子でしたので、馳せ参じましたわ>
「ダァヴ姉さんほんと救世主!! 来てくれてありがとう!!」
寝床だけじゃないよクラゲちゃんが蓄えてる栄養はいつ尽きるの? どんな食事が必要なの? と頭を抱えてテーブルに突っ伏してたら、目の前にちょこんと
<まさかこんな事でダァヴに頼る時が来るとは……>
<あら、いつでも呼んでくれていいのですよ。可愛い弟達のためですもの、助言も楽しいものですわ>
「わーい!!」
諸手を挙げて喜ぶ私と、苦虫を潰したような顔のテクト。またまたぁ、姉さんが来てくれて嬉しい癖に、素直じゃないなぁ。
おっと、睨まれたので話題を戻そう。
「ダァヴ姉さん、クラゲちゃんについて教えてください!」
<ええ。ですがまずは、誕生おめでとうございます。よき生を歩みなさいね>
「せ、聖獣から祝福を賜るなんて……この子は将来、大物になりますよ!」
リトジアの興奮に激しく同意しつつ、ダァヴ姉さんの話に耳を傾ける。
クラゲちゃんは温暖な気候の森の中に住んでる魔獣で、現地の人達の中では森クラゲと呼ばれる事もあるらしい。森仲間じゃん、一気に親近感湧いたわ。
森の奥地、湖や泉の近くに生息し、穏やかな陽気を好み、極端に暑かったり寒いのが苦手。だからお風呂から逃げたのかぁ。私から離れたくない一心でこっちを見てたのは健気で可愛いんだけど、扉はもう少し閉めようか。シャワーで脱衣所がびっちゃびちゃになるからね。
それに水中も空も、魔力を使って自由に泳げるらしい。大人になれば馬と並走できるんだとか。海のクラゲは波に漂うだけなのに……だいぶアグレッシブなクラゲちゃんだ。
<雌雄がある種です。いずれ繁殖期になりますが、出会わなければ発情期は訪れませんわ。どうしても子が欲しい場合は、連れを探してくださいまし>
「ダァヴ姉さんの口から出るとは思わなかったワード上位……ちなみにクラゲちゃんの性別は……」
<メスだよ。女の子>
えー! 珍しい、私の勘が冴えてる! この子はクラゲちゃんで合ってたんだ!
<雑食性なので食事に関しては、それほど神経質にならなくても大丈夫ですわ。水の中に生えた藻も食べますし、木に成る実や、植物、魚も食べます。昆虫や、肉類も少々。人と暮らす森クラゲならば、野菜類も食しますの>
「ほほう」
<蓄えがなくなる頃合いはテクトがわかりますわ。その時にはすり潰した食事を与えてくださいまし。自然下では親がある程度消化し溶かしたものを与えて、味を覚えさせますの。すり潰す事でその状況を再現できますわ>
「なるほど」
何でも食べれる、っていうのはありがたいなぁ。さすがに人と同じくらいの塩分量はよくないと思うから、薄味になるだろうけど。
つまり私達が食べるものの、味を付ける前の状態を取っておけばいいわけだ。魔獣初心者に優しい子じゃん!
<また寝床ですけれど>
「はい!」
今、一番重要なとこ!
<一緒にベッドで寝れますわ>
「……マジっすか」
<ふふ、冗談は言いません。人と暮らす森クラゲならば、ごく当たり前の事ですのよ。日光浴もしますので、乾燥にも強い種ですわ>
「水中で寝る事はない?」
<水浴びを好みますが、寝床は木の上などの地上ですのよ。たまに寝ぼけて落ちてしまう事もあったり……愛らしいでしょう?>
「想像で余裕でした、めちゃくちゃ可愛い」
しかしよかったー! 私が水の中で寝る事も、ベッド周りがびちゃびちゃになる事もないんだ! 寝室のカビを心配する日が来るかと思ったけど、大丈夫だった!
「日常で気を付ける事はありますか?」
<そうですわね。食事に関しては、先程言った通り……ええ、あなたが考えていた通りで構いませんわ。水浴びは日に一度は必ず。日光浴を好みますが水がなければ生きていけません。そして……まだ孵りたてですから常に傍へいるように。親離れの時が来たら、自然と離れます。それまでは拒否なさらないで>
「はい!」
もうあんな悲しい思いは……鳴き声はさせません! 肝に銘じます!
そして今、空気読まずに思いついたんだけども! 発表していいかなテクト、ダァヴ姉さん!
<……まあいいんじゃない?>
<……ええ。あなたの思うがままに>
<ありがと!>
ずっと悩んでいたし、テクトに何度もダメ出しされたけど、ついに決めた!
半透明で、湖を好んで、女の子である! インスピレーションがずばばっと来ましたね!
イスから立ち上がる。皆の視線が集まった所で、ぐっと拳を握り込んで突き上げた。
「クラゲちゃんの名前は、
日本語読みならトウコなんだけど……皆には馴染みがないだろうから。伸ばしてトーコ!
「トーコ……とても良い響きです」
「うん。素敵な名前だね」
リトジアとヒューさんは好感触だ。キースくんは……おっと眠たそう。反応はまた明日のお楽しみだね。
ひょるるっとトーコが鳴いた。私の気持ちに同調してるのか、上機嫌に傘を上下して踊ってる。
私の腕に絡まる触手を手に取って、ぎゅっと握った。
「これからよろしくね、トーコ!」
「ひょるるるっ」
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