62.幼女、契約を重ねる
「初回説明をおざなりにするだけでは飽き足らず人の情報を勝手に作るとは何事ですか!それがギルドの支部を任された長のやる事ですか!!」
「だって個人情報を先に登録しないと認可タグって作れないじゃないか。ステータスチェッカーだってあの時は持ち合わせてなかったし、今日タグ持ってくるからねーって約束しちゃったから、僕なりに頑張ってみたんだよ。それに登録情報って一度作っちゃえば後で書き加えられるじゃない。まあ本人の許可とギルド職員の立会いで、ステータスチェッカーと契約式具があればの話だけど、それがちょうど今、条件は揃うわけだよ。後で変えられるなら僕がちょちょいっとやっちゃってもいいかなーって」
「いいわけ、ないでしょう!?もう少し、熟考して、行動してください!!ギルドの信用問題に抵触しますよ!!」
「やる事が前後しただけだよ。説明も今からするし。どうどう、落ち着いてマルセナ君」
「誰のせいだと思ってるんです!!」
「さて?」
「今ここに鏡がないのが口惜しい!!こう言ってはあれですがあなたアホですか!!アホですね!!」
「はははは、いやぁ。マルセナ君に言われちゃったねぇ」
「他人事じゃなくて!!あなたの!話なんですよ!!」
マルセナさんがダリルさんにめっちゃくちゃ怒ってる横で、笑顔の私に引きつる皆さんがいた。ははは。
個人情報の詳細な登録が必要だなんて教えてもらってないですねぇ。さすがにちょっとこれは、私の身の安全にも関わる事なので確認させて欲しかったなぁあああ?どこまで個人的な事を書かなきゃいけないのか、とか、気軽に情報を見れるのかーとか。マルセナさんが個人的な閲覧はできないって言ってたけど、それってどこまで守秘義務あるの?ギルドはこの国だけの話じゃないよね?だって冒険者ギルドも商業ギルドも、1つの国だけで治まりきらないよね?モンスターは世界中にいるし、商売だって仕入れとかの関係で世界中にあるはずだ。たぶん。すべての国にあるかは知らないけど、いくつかの国にはあるはずだもん。つまり私の個人情報が他の国の人も閲覧できるって事だよね?もし悪い奴―――特に邪法で勇者を召喚した奴らに私の情報がバレてしまったら、私はこのダンジョンからも逃げなくちゃいけなくなるんですがねぇえええ。
「みーなーさーんー」
「あははは……」
「いやー……」
「なんつぅか、なぁ?」
「説明を忘れてたというか……」
「悪気はない、のよー?」
「ギルドマスターに考えがあっての事だと思ってたんだが、違ったのか?」
これルウェンさんは白だな。
「あ、ルウェンさんは大丈夫です。グロースさんとお茶飲んでてください」
「いいのか?」
「いいんです。お菓子も出しておきますね」
「なっ、これは豆大福!ルイ、俺の故郷の銘菓を知ってたのか!」
「今知りました。ルウェンさん好きなんですか?」
「ああ!甘いものは食べる方だが、豆大福は特に好きだ!故郷以外の場所……しかもダンジョンで食べれるとは思わなかったが。嬉しい。味わって食べるよ」
とても輝かしい笑顔を浮かべたルウェンさんが、皆をあまり責めないでやってくれ、俺にはわからなかったが、きっと善意だから。と私の頭をひと撫でしてグロースさんの隣に座った。豆大福4個じゃ足りなかったかな。2個ずつに分けて頬張ってる。男2人で癒し空間展開するの止めてください目的忘れそうになるから。
味噌が名産ならきっと豆系料理が多いだろうなって思って豆大福あげたけど、喜んでもらえてよかった。
さて、ルウェンさん以外の皆さんよ。ちょっと座ってお話しようか。皆さんの考えがわかってたのに教えてくれなかったテクトもちょっとそこ座って?ね?
<あ、はい>
皆さんの横でちょこんと正座するテクト。今回は可愛いで流さないからね。可愛いけど!!
ルウェンさんが言う通り、きっと皆さんは善意だったんだろう。私が契約内容や、緊張でパンクしそうだから情報制限してたかもしれない。私頭そんなよくないからね、わかる。幼女だから制限するのもわかる。でも私の場合、個人情報って今後の進退に関わるからさ。ちょっと事前に聞きたかったなーと思うわけですよ。
彼らの中では貴族の隠し子?みたいな立場なわけだし。存在がバレては困るんだよなあ。ケットシーで登録できたなら問題ないけど……そのステータスチェッカーとやらでバレたりしない?名前からしてステータスを調べる魔導具だとは思うけど。それってどこまで調べるの?
「皆さん、私の事情知ってますよね?」
「はい」
「個人情報の保護って、大事な事ですよね?」
「はい、仰る通り」
「皆さんの意見を聞きたいです」
「固有魔力と個人情報の登録はあくまでギルドに所属する人がするものだから、ルイの気にする所には触れないと思って言いませんでした」
「うんうん」
「ダリルさんが何も言わなかったので好都合と思って黙ってました。ルイの許容量……一気に色んな事知って、パンクしそうだったから」
「うんうん」
「ルイの得意な属性もわからなかったし……」
「ステータスチェッカーはルイの不利にはならねぇしなあ……とかな」
「後はまあ、ルイの経験になっかなーと、思ったんだよな。ギルドマスターが宝玉貰ってたのも含めてさー」
「出会う人皆が、私達みたいなのであれば問題ないけど、ああいう人もいるのよっていうのを知ってもらいたかったのよ」
「あなたの事情を考えても、黙ってて問題ないと判断したのは私達です。ごめんなさい」
<彼らに任せても、ルイが一番バレたくない事には触れないと思ったから、僕も黙ってた。経験は大事だって、僕も思ったから。ルイに教えられてわかった事だから>
「うん」
皆さんが私のためを思ってやってくれたのはわかった。それは素直にありがとうだ。むしろあの時に、ちゃんと詳しく掘り下げなかった私が悪い。反省しないとだ。
「わかりました。皆さん、私のためにありがとうございます。確かに今回、色々教えてもらった気がします。しっかりしないとなって思いました」
「許してくれるの?」
「はい。実はそんなに怒ってませんよ。どっちかっていうと、んー……仲間はずれにされたみたいでちょっとやだ、って感じです」
マルセナさんに釣られてつい怒りの雰囲気を出したけれど、ずっと私の事を思って色々行動してくれてた皆さんが、私の今後を考えてやってくれた事だもの。事情を知ればちゃんと納得するよ。素直にありがとうって言うよ。
テクトもありがとう。私に何を伝えたらいいかわからないから黙ってる、じゃなくて、私の経験のために黙るって選択肢を選んでくれたんだね。成長感じるね。
<ん、うん。お礼されるような事じゃない。君の保護者としては、当然でしょ>
ふふふ。照れたテクトも可愛いねぇ。
よーし!皆さん順番にほっぺ引っ張ってやれ!これでちょっぴり寂しい気持ちに整理つけよう!皆さん座ってるから高さ的にもちょうどいいね!
騒がしくも楽しくほっぺ引っ張ってる横で、ダリルさんがため息をついてこっちを見てた。
「ほらごらん、マルセナ君。あっちはあんなにもほのぼのとしてるよ。僕らも見習うべきじゃないかい?」
「あなたが反省しなければ無理な話ですね!まだまだこれで終わりませんから!!」
「ええー……」
ぐでーっとテーブルに突っ伏したダリルさんを尻目に、明らか叱られてた人より疲労の色が濃いマルセナさんはギルドに個人情報を登録するメリットデメリットを教えてくれた。
曰く、固有魔力と個人情報を登録すると、根なし草な冒険者や世界中を渡り歩く商人にとって、他国へ渡る時の通行証にもなるんだって。
そもそもギルドは特定の国に属しているわけじゃない。冒険者ギルドは冒険者のための、商業ギルドは商売する人のため、鍛冶ギルドは生産職の人のためとか、職業別の組合であって国のために利益を追求するものじゃないんだって。でもそれぞれの国に支部を置かしてもらってるから、その売り上げの何割かは地域や国へ献上しなくてはならないらしい。国と人との仲介みたいな事かな?
ちなみにナヘルザークは冒険者を大切にする国なので、冒険者が必ず利用する冒険者ギルドは勿論、必要な物品を買う店を出店するための商業ギルド、その店の商品を作る鍛冶ギルドが満遍なく散ってるらしい。支部がいっぱいあるって事だね。そういえばここに支部長2人いるわ。すごいなナヘルザーク。
で、通行証の話に戻るんだけども。ギルドは国の思惑には関与しない独立組織、っていうのはみんなが知っている事だから、ギルドに登録された情報から関所を通る人の判断をするんだって。ギルド側から登録した人の情報が見れる契約式具っていうのを貸し出されるんだそうだ。
自分はこういう者で、これこれこういう目的でそちらの国に行きたいです、って関所で軽い説明をして、その発言に嘘がない事を契約式具で確認。その時も当事者に閲覧していいか許可を取るんだけど、そこで拒否したら怪しまれて結局入国できなくなるんだって……空港の入国審査とパスポートみたいだなぁ。
昔はここまで厳しくなかったらしいけど、最近は戦争が活発化してるからどこの国も過敏になってるらしい。はー、戦争ってのは駄目だね。百害あって一利なし。
他にも、ギルドに登録してある情報は、その人がどんな依頼を受けたか、どんなモンスターを討伐した事があるか、どのダンジョンでどこまで潜った事があるか、商売の売れ行き、取り扱ってる商品、作った物、功績、すべて記録して、見せてくれる。つまり特許とかの登録もしてくれるんだね。ギルドすごいな。
他にも各地のギルドで任務を受けたり税金を納める時に自分が何者であるか、他の国でどれだけ働いてきたか、っていうのをギルド側で調べることによって円滑な手続きが出来るんだって。よく稼いでる人からは多めに取るって、それ税金じゃん……あるいは新しい店を出展する場合、土地を借りる時に地主へのアピールにも使えるんだ。何たってそれまでの業績を、ギルド側が保証してくれるんだから。売り上げが多くなれば地主も美味しいって事だね。
後は、借金する場合。それぞれギルドが貸してくれるらしいんだけど、それも登録情報から審査して、貸す金額を決めるんだって。成績がいい人はたくさん借りれるんだね。詳しく知りたい場合は追加資料を持ってきますよ、と言われたけど首を振っておいた。借金はしたくないです。貯金でなんとかします。
ただやっぱり、当事者に許可はとるものの、個人情報を人に見せるデメリットがある。とマルセナさんは言った。よからぬ考えをする輩はどこにでもいるものですから、悪意が感じられるテクトが傍にいるのならば問題ないでしょうが、気をつけてください。と一言添えて。
それでも契約しますか?よろしくない事情があるならば、拒否も可能です。そう気遣ってくれるマルセナさんににっこりと笑い、私は契約書に名前を書き始めた。
そんな私を見たマルセナさんはグロースさんに目配せをして、水晶玉を取り出してもらった。占い師が使う透明な玉に見えるけど、これが契約式具なんだって。
私が名前を書いた商業ギルドの契約書を、マルセナさんは水晶玉に被せた。すると紙がしゅわりと溶けて、水晶玉に吸い込まれていく。おおお、すごいすごい!
「これで契約完了です。後はステータスチェッカーの数値、個人情報の細かい訂正と……その前に、お渡ししましょうか」
マルセナさんが懐から出したのは、手首に巻けそうな細長い布っぽいもの……それがタグって言うらしい。黄色いタグは商業ギルドの色なんだそうで、登録した商人は必ず肌身離さず着けていないといけないらしい。そういえばルウェンさん達手首にお揃いの青いタグつけてるなーって思ったけど、あれってもしかして冒険者ギルドのタグかな?
黄色いタグを水晶玉に乗せ、わずかな光がタグに集中するのを待ってから、マルセナさんはそれを私に手渡した。
「これであなたは商人の仲間入り、です」
「おおおお……」
「伸縮素材を使っていますので、どのような方でも着けられるようになっています。特に冒険者は多種多様な人々がなっていますから、必然と他のギルドもそのようにタグが変更されました。着け心地は問題ありませんか?」
「はい、ぴったり」
右の手首に巻きつけたらくっついてしまった。おおー、違和感ない!すごいねえ。
「このタグがあなたの売買履歴を魔力で感知、記録します。半年に一度、契約式具へタグを預け、履歴を読み取らせる作業が必要となります」
「えーっと……その売り上げで、商業ギルドが取るお金が決まるんですね」
「はい。ギルドもタダでは動けません。運営するための資金が必要ですからね。そのために登録した方々から少々いただく事になっています」
「わかりました!」
「そしてあなたは、冒険者ギルドにも勝手に登録されてしまったので、彼らと同じように青いタグも支給されます。冒険者のタグは倒したモンスターの魔力を読み取り、記録していきますが……はっきり言って非戦闘員であるあなたに必要ないです」
ダリルさんが妙に強調してない?って言ったのはスルーして、マルセナさんは私を見た。じーーーっと。
「認可タグとは別物なんですか?」
「ええ。認可タグは首にかけ、見やすくするものです」
「冒険者ギルドって、お金取るんですか?」
「冒険者ギルドの主な収入源は任務の仲介料、モンスターの素材やダンジョンアイテムの買取と販売などですね。冒険者に支払いを要求する事はありません」
うーん。そっかあ。まあすでに作られちゃったなら勿体無いし。もしかしたらモンスター倒せる日が……んー、来ないかな?来ないよね?
まあ念のため、お客さんにとっての安心材料になるかもしれないしね。着けておこう。
青いタグを受け取って、手首にくるり。よし、こっちも違和感なし!
あとはステータスチェッカーと、登録された個人情報の確認かな?認可タグも貰わないとね。
お店作るまでもうちょっとだね、どんとこーい!!
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