54.幼女、もう片方の保護者にお願いしに行く



結局色々試した後、ケットシーに扮してる時はできない髪形をしよう!というわけで後頭部にお団子を作られた。ポンチョのフードかぶってたらお団子出来ないもんね。猫耳以上にこぶが目立つよね。髪ひっ詰めるから人族の丸い耳も見えちゃうし。ケットシーになってるうちは、耳を隠すように緩く2つにくくろうかなぁ。おさげケットシー、うん悪くない。伸ばし放題より断然清潔感ある。

セラスさんが私の髪をまとめて大きなお団子を作った後は、シアニスさんが細長く編み込んだ三つ編みをぐるっと回して、白い花束みたいな髪飾りを添えられた。ピンっぽいので挿してたから、簡単には外れなさそう。

全体を手鏡で見せてもらったけど、頭に花が咲いてるみたいだった。お洒落ぇ……髪形1つで変わるものだねぇ。どこから見ても中華女子みたいなぱっつん幼女、我ながら可愛いと思います!

ぱっつんになったのは、毛が目に入ったら危ない!って前髪も整えられたからだ。半月で随分伸びたからなぁ、なんてのんびり構えてたらハサミをさっと出されて驚いたよね。そこまでしてくれるの?箱庭貰った時以来の至れり尽くせりなんですが。そこまでしなくても!って逃げようとしたら、「危ないから動かないで!私が綺麗に揃えてあげるから、ね?」って真剣な顔のセラスさんに言われてしまって頷くしかなかったよね。美人しゅごい……幼女なのに上目遣いされた……セラスさんのおねだり威力高すぎぃ。

そして休憩時間をずっと私の頭についやしたシアニスさんとセラスさんは、満足げな顔で皆さんとダンジョン探索に出かけたのでした。今度はミノタウロスがいない方の道に。そうだねさっき行った道はミノタウロス以外全部狩りつくしたんだってね!聞いてビックリしたよ!!そっち行き止まりなんだってね!!知らなかったよ幼女の足だと奥に行く前に力尽きるからね!!今皆さんが行った方も道は複雑だけど上への階段しかないからつまり下層へはグランミノタウロス倒さないと先に進めないって事だね!!ダンジョンめ重要な守りどころをわかってるな!!あの牛の門番感はんぱないっす!!

そして私とテクトはというと。


<……ん。大丈夫、十分離れたよ>

「じゃ、カギ出すね」


テクトが念のため皆さんが遠退く気配を調べて、私はリュックから箱庭に続く鍵を出した。商売を始めたら誰かにバレる危険大なので、鍵と懐中時計はリュックに入れる事にしたんだ。今私が首に下げてるのはエイベルさんから貰った時刻魔水晶だけ。それにたぶん、認可タグは軽いものだと思うんだよね。タグって名付けられてるし。見える位置に付けなきゃならないだろうから、きっとネックレスにつける事になるんだろうな。やっぱり貴重品はリュックに入れて正解。

いつもの壁に鍵を挿して、軽く捻る。ガチャッと普通なら開くはずのない壁から解錠の音がしたので、扉になった部分を押す。幼女の力でも簡単に押せる扉のその先に広がるのは、広大に広がる芝生と花畑、白い雲が浮かぶ青空と窮屈さを感じさせないための山、大きな聖樹さん、そして見慣れ始めた白い家。

私達がルウェンさん達と別れて戻ってきたのは、箱庭だった。

何故って?それはね、私達の癒し系グランドツリーマザーこと聖樹さんに、外泊許可をとるためだよ!!ギルドマスターを退けた私達に、さらなる試練が襲い掛かってくるなんて想像もつかなかった!!

まさか皆さんが今日安全地帯に泊まるとは思ってもみなかったよね!!元々夕飯はご馳走するつもりだったから「お昼ごちそうになったし、夕飯は私達が準備しますね!!」って言ったら、


「あら嬉しい!どんなご飯が出るのか楽しみね!」

「ほうじ茶入れるのも上手でしたし、期待しちゃいますね」

「ちゃんとした飯出せんの?マジで?お前らも十分万能だろー」

「むしろ生活環境整える勝負ってなったら、俺ら勝てないからね。絨毯から離れたくないよ……このまま寝たい」

「この後また探索行くんだぜ。起きろよ」

「しゃあねぇだろ、枕もあっちゃあ眠たくもなるわ」

「それクッションだ」

「細けぇ事はいいんだよ!あ、そうだ。夜寝るときゃ絨毯に寝袋広げていいか?」


この怒涛の発言である。人数多いのもわかるけど、6人それぞれコントかってくらいテンポのいい会話を繰り広げるから、時々追いつけないんだよね。皆さんの仲がいいのはよーくわかるけどさ。拗ねてないですよ。

ぼけっとしてたからか、シアニスさんが気遣わしげな視線を向けてくる。


「ルイ達がご飯作れるかどうか疑ってるわけじゃないんですよ。エイベルは口が悪いので勘違いされやすいのですが、幼いあなたが自分達の分だけじゃなく私達の分まで準備できるとしっかり言い切ったのがすごいと言っただけで……気を悪くしないでくださいね」

「皆まで言ってやんなよシアニス……」

「あ、それは大丈夫です。お店で買ったの、出しますから。美味しいですよ!」


作る作るとは言ってたけど、幼女とテクトの手でこの人数分賄える料理を作り上げるのは正直無理だ。だから1品2品くらいは作って、それとなく買った料理に紛れさせようって思ってたんだ。

あとまあ、食文化の様子見でもある。皆さんが私の出した料理にどんな反応するか、とても楽しみー。

って、いやいやいやいや、そうじゃなくて!!


「それは大丈夫、ってことは、他に何か問題があるの?」

「……皆さん、今日ここに泊まるんですか?」

「駄目だったか?」

「ほら、ディノが絨毯貸せなんて言うからルイが困ってるわ」

「言ってねぇよ!!寝袋広げてぇって要望は言ったけどな!!」

「その面構えでお願いとか、もはや脅しだよなー」

「否定できない……!」

「オリバーてめぇ!」

「私達と一緒に寝るのは嫌ですか?」

「んんー……」


いや、うん、そうだよねー。よくよく考えてみれば、無駄に宝玉を消費してまでダンジョンを出たり入ったりする必要がないんだよね。食材とかアイテムも補給してきたんだろうし、私から宝玉が買えるとはいえダンジョンに長期滞在するのが普通なんだよ。前もそう言ってたじゃん。だからこの安全地帯に泊まるのはなんらおかしくないのに、私はどうしてそういう可能性を忘れてるかね。私のばかー!

嫌では、嫌ではないですよ。お泊り会とかちょっとわくわくする。誰かと泊まるなんて高校の卒業旅行以来?楽しみだなって思う反面、私は夕飯食べたらいつも通り箱庭に帰るつもりだったからなぁ……朝出掛ける時、聖樹さんに夜遅くに帰ってくるよって伝えちゃったんだよね。この前いつもより遅く帰ったら、すごい心配かけちゃったからねぇ。無断外泊とか、どれだけ心配させてしまうんだろう……絶対帰るって約束もしたし。あんまり不安にさせたくないんだよね。

ううーん。どうにかして箱庭に戻って聖樹さんの許可がもらえれば、お泊まり会もありだと思うんだけど。でも聖樹さんを悲しませるのも本意じゃないし。んぬぬぬぬ。


<とりあえず夕飯の買い出しに行くって事で、僕らだけにならなきゃいけないって言えば?その隙に帰ればいいよ>


あ、それもそっか!夕飯担当だもんね!それは違和感ない!!ナイスアイディアだよテクト!!


<それと外泊に関しては一度聖樹に相談してみて、拒否されたらルイ専用の店扱いしてる場所に泊まるって言って彼らと別れればいいんじゃない?そもそも聖樹はルイの行動を制限したいわけじゃないよ。ルイの事は心配してるけど、外泊くらいで拗ねないよ>


そう?毎日ちゃんと聖樹さんの下に寝ないと安心できないかなって思ってた。


<たぶんね。僕のテレパスでも感情くらいしか理解できないけど……聞かなきゃわからない事ってあるでしょ?>


は!そっか……うん!そうだね!そのとーり!テクトすごく良いこと言った!!さすが私の相棒!!

私の膝の上に座ってるテクトの頭を撫で撫でして、ふと顔を上げたら皆さんこっちを見てた……あ、そういえば話の途中でしたねすみません。


「テクトとお話は終わりましたか?」

「あ、はい……えっと。泊まるのはたぶん、大丈夫?だと思うんですけど、じゅーたんも、使っていいし。ただ、一度夕飯の買出しに行かないといけないので……」

「ああー。俺らがいると駄目なんだったか」

「じゃ、午後の探索はシアニスとセラスも行こうか。安全地帯から離れればいい?」

「はい」

「残念だわ。次はアクセサリーでもって思ってたのに」

「え、まだあるんですか!?」

「いえ、まだ買ってないですけど……どんなものが似合うかなって。ルイの好きなものも聞きたいですし」

「服だけで結構ありますよ!?」


貰った服の中には靴や下着もあった。特に下着は洗浄したモンスターの毛を織り込んでいるため頑丈で、多少の衝撃には耐えられる仕様らしい。下着さえ冒険者仕様っすかファンタジーめ!肌触りがとてもいいですありがとうございます!!今日からこっち着るわ!!3枚セットの格安ランニングシャツとはオサラバします!!


「それはまた今度聞けばいい。今日で終わりの関係じゃないんだから」


というルウェンさんの鶴の一声でそれもそうねと納得して、皆さんはあっさり探索に出かけてしまった。最後の壁ルウェンさん強い……

こうして箱庭に帰ってきたわけだけど。ううーぬ。聖樹さんにどう切り出したものか……

うんうん悩みつつ歩いてたら、聖樹さんの下に着いた。まあ悩んでもしょうがないか!どう話そうが、伝える事は同じなんだしね。

どうしたの?夜に帰ってくるんじゃなかったの?って言うようにざわざわ揺れてる聖樹さんの枝を見て、うんと頷いた。


「あのね聖樹さん!!ダンジョンの安全地帯で、仲良くなった人達と、お泊りがしたいです!!」


揺れてた枝が止まる。ピタリと音がしそうなほど、突然。

あ、こ、これは駄目だったのでは。


<……ああ、うん。大丈夫。その人達の素性は僕が保証する。ルイを害する人達じゃないから安心して預けていいよ>


お、ほんの少しだけ枝が揺れた。

テクト、聖樹さんは何て?


<子どもなんだから遊びに行くのは構わないけど、遊び相手は問題ないのか、聖獣様が言うなら安心して送り出せますって感じ?前より意識が伝わりやすくなってる。明確なイメージが来たね>

「え、いいの!?私が夜、ここにいなくても不安にならない?大丈夫!?」


ぱっと聖樹さんを見上げると、柔らかくさわさわ揺れる枝。

おおー!この揺れは大丈夫ってこと、肯定ですね知ってます!


「やったー!!お泊まり会だー!!」

<ただし>

「へ?」


テクトの声と同時に、聖樹さんの枝葉の間から、何かがポトリと落ちてきた。

細長い小さな葉っぱ付きの枝だった。ん?


<これを身に付けることが条件、だって>

「え……枝を持ち歩けばいいの?」


軽そうだからいいけど、枝だし……リュックに入れとく?アイテム袋じゃない方の空きスペースならどうかな?でも身に付けなきゃだめだから、かんざしみたいにしてお団子に挿す方がいい?

考えながら枝を拾おうと触れたら、ゆっくりした動作で左手にしゅるしゅると巻き付いてきた!わっ、これ生きてる!?蛇みたい!何これ!!

びっくりしてる枝を観察してると、二の腕あたりをぐるっと一周して止まった。ポンチョの袖の上から滑り落ちないように軽く締まったけど、痛みは特にない。

まじまじ見ると、細い枝が複雑に絡まって丸く形成されてるから腕輪アームレットみたいだなって思った。インドの女性ダンサーが着けてるみたいなやつ。葉っぱの装飾がなんとも癒し系です。

テクトが私の肩に飛び乗って、腕輪に触れた。


<ふーん……腕輪から聖樹への繋がりが見える。これで装備状態だから、聖樹にはルイの健康が伝わるし、必要に応じて聖樹のスキルがルイに遠隔でかかるね>

「なんと」


つまり、昼寝するぞー、夜寝るぞーって私が思った時にだけ聖樹さんの安眠スキルの恩恵得られるって事?私が興奮したら落ち着くように鎮静スキルかかるって事?そんで私が元気に過ごしてるって事も聖樹さんに伝わるの?聖樹さんの加護がついた腕輪、って事?なにそれすごい。めっちゃ便利。


<帰りが遅れる場合はその腕輪に話しかけて連絡すること。すべからく健やかであれ。だってさ>


ほええええー。この細い腕輪1つで違う空間にいても通信できるんだね。そして手首につけなかったのは?私の作業の邪魔にならないように?気配りも行き届きすぎじゃない?

前々から聖樹さんすごいとは思ってたけど、こういう事までできるなんて知らなかったなぁ。


<ルイが成長するんだから、聖樹もしないなんて事はないでしょ。最近できるようになったんじゃない?>

「それもそっか」


うむむ。私なんて毎日健康的に過ごしてても成長なんて微々たるものなのに……!負けてられませんなぁ!!

でも今は外泊許可取れて嬉しいから、夕飯の準備しよ!それに目に見える成長しちゃったら、折角貰った服もすぐ着れなくなるからね!私は私の速度で成長するんだ!

まずは思ったよりいっぱい食べる人達のために追加の料理準備しなくちゃ、と上機嫌でカタログブックを取り出した私は、背後でテクトが聖樹さんを見上げているのに気付かなかった。


<……本当に、元気になったね>


ざわ。ざわざわ。


<うん。外の事は、僕に任せて>

「テクト、何か食べたいのある?ってあれ、テクトー?」

<僕はデザート出ればいいよ>

「おっけーアップルパイね!」

<やった>


さわ。

聖樹さんの枝が穏やかに揺れる。



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