23.洗浄魔法のレベルアップがしたい



昼ご飯作る前にまずは小部屋の洗浄だね、とリュックを置いて立つ。

小部屋って誰も洗浄しないからか、案外臭いんだよね。ダンジョンの中だから仕方がないけど、何て言うかな……しばらく開けてなかった衣装ケースの臭い?そこに油っぽい感じのを足したような、年季の入ったびみょーな臭いなんだよね。すごく臭いってわけじゃないけど、気になるんだよなぁ。

さすがにこういう臭いがする部屋の中でご飯作りたくない。昨日は昼ご飯食べたじゃないって?食べるだけならね、まだ許容範囲だよ。作るってことは、その調理過程にこの空気を挟むわけでして。あと調理道具に変な臭いつけたくない。どう考えても私のわがままだね!!

まあ、洗浄魔法を使いこなしたいから、ってのもあるのよね。昼に作りたくないなら、昨日みたいに朝作っちゃえば問題なかったんだよ。でもそれだと、私の洗浄魔法って口の中と服と体にしか使えないままになるじゃない?洗浄の技術を全体的に上げたいわけですよ私は。箱庭は常に清潔だから使う場もないし。こういう時じゃないと空間を洗浄する機会ってないんだよね。完全に綺麗に出来るかわからないけど、ある程度出来なきゃお昼はなし!背水の陣だ!

……ああウソウソ。お昼は作る、ちゃんと作るよテクト。だからそんな落ち込まないで。ぺちぺち叩かないで。だからごめんて!!

昨日のお椀確認したけど、汚れめっちゃ残ってたんだよね。私の洗浄魔法はまだまだひよっこだった……!昨晩は慌ててたし、どんな風に綺麗にするかまともに想像してなかったからね。ってフォロー入れられたけど、ショックなんだよー!!だから早急に洗浄魔法をレベルアップする必要がある!

私の練習と思って、付き合ってよテクト。


<別にいいけど。ダァヴ並みになるには、最低でも100年必要だよ?>

「わ、わかってるよ!!」


いきなりダァヴ姉さん目指すつもりはないってば!!だから今、ダァヴ姉さんと同じノリで部屋全体に洗浄魔法かけたのに出てきた泡がすぐ消えちゃったのは見なかった事にしてよ!!目に見える大きな汚れだけでも綺麗にならないかなって期待しただけだよ!!てか100年て!!確実に人間辞めた人か長寿な人じゃなきゃその域に達せれないって事じゃん!!やばいね!!

ダンジョン内は埃や土、深く考えたくないけど油汚れが多い。手垢とか手垢とか手垢とかがいいなぁー!黒い染みは見ないぞ私は!!

それを一気に綺麗にしようとすると上手くいかずに、泡が汚れに当たる前に霧散しちゃうんだ。今の私のようにね!

私程度の魔法レベルじゃ想像通りに正しく綺麗に出来ないって、泡が自主的に消えちゃう感じらしい。ショックだなぁ。私はまだまだ楽に洗浄できるレベルじゃないって事だね!悔しい!!

だから、まずは埃や土を取り除いてみることにした。箒で掃き掃除の段階だ。軽いゴミは掃いて吸い取る。箒でまとめる……うーん、それじゃ遅いから、掃除機かな。掃除機で根こそぎ吸い取ってく感じ。そう考えながら魔法をかけると、ちゃんと泡が土埃に弾けて消えた。泡がついた所は、土埃がなくなってる。

よっしゃい!!想像力の勝利だー!!


「テクト見て!とれた!!」

<うん、ちゃんと出来てるね>


私が洗浄かけた所をまじまじと見るテクトに、気分が上がってくる。うへへ。

よーし!次行ってみよー!

小部屋は読んで字のまま小さめの部屋だから、安全地帯と比べるまでもなく狭い範囲だ。壁沿いから渦を巻くように、歩きながら洗浄魔法をかけていく。掃除機かけてる気分でーっと。

これで全体的に掃き洗浄が終わったね。床も壁も良い感じ。次は油汚れだ。

油汚れに効くのは重曹だね。アルカリで汚れを浮かせて落とすんだけど……一応、酸素系の洗剤の事も考えながら、お湯で洗うように想像してみようか。視界の端でチラチラ見える黒い染みが落ちないと困るからね!私の精神的に!!


<ここはダンジョンなんだから、確実に血の染みだよあれ>

「おねがいだから、それはいわないでくれるかなぁ!テクト!」


できれば目を逸らしていたかったのに!!もー!!さも当然のようにー!!言っちゃうからー!!半泣きで睨みつけたら呆れたように半眼で返されちゃったよテクト勘弁してー!!まだ慣れないからー!!

うわああああん!!血を落とすには酸素系じゃあああああ!!揉み洗いの下洗いで洗濯機にゴーだぁああああ!!そんな感じでお願いします洗浄魔法ぉおおおおお!!

私の気合と共にぶわっと広がった水色がかった透明な泡達は、周囲の汚れにくっついては割れていく。んんんんー!ちゃんと油汚れ取れてるー!!ふふふふふふふふ!!


「……はあ、ちょっとおちつくね」

<そうして>


頬をテクトにぶにっと押された。うん、今のは変人っぽかったね。落ち着きます。

気合いを入れたからか、部屋の半分くらいは一気に綺麗になった。やったね!黒い染みが消えたから、私のメンタルも少し回復だぁ。酸素系で消えたって事は、まあつまり、そういうことなんてすけども。

あと半分、ちゃんと洗浄していこう。酸素系でー、揉み洗ーい、洗濯機ー。

泡がぱちぱち弾けて、どんどん綺麗になっていく。んんー!深呼吸しても臭くない!!お掃除完了だ!!

段階を踏む事で私でも小部屋を綺麗に出来るんだね。試してみようって思ってたけど、まさかここまで出来るとは……ちゃんと掃除洗濯しててよかったなぁ。じゃなかったら、想像力足りなかったかも。


<そうだね。こつこつしてた事が、今報われてるわけだし。一般的な人がどれだけの実力かは知らないけど、結構上手なんじゃない?ちゃんと結果がついてきた>

「えへへー」

<疲れてない?詠唱破棄は僕の加護だけど、魔力量は変わらないんだよ>

「うん。だつりょくかんも、ないかな」


小部屋一室綺麗にするために、何度も何度も洗浄魔法使ったけど、この部屋に入った時と変わらない疲労感だよ。私って、実は魔力量は多いのかな?

テクトの加護全ステータスアップは生命力と魔力量には影響しないらしい。HPとMPはステータスと別扱いって事なんだね。私的には加護のお陰で詠唱しなくていい分、時間短縮になったからすごく助かるけどね。魔力練り上げはよくわかんないけど、たぶんどういう風に綺麗にしようかって想像してる時にやってるんじゃないかな?魔力に関して体感できてないなぁ。どういうのが魔力なんだろ。

私よくわかんないまま魔法使ってるけど、これでいいんだよね?


<教えてあげたいけど、聖獣って魔力練り上げるのも一瞬で終わっちゃうんだよね。僕、魔法の事も詳しくないから説明できないんだ>

「つよすぎっていうのも、たいへんだねぇ」


天才って人に教えるの苦手って言うし。見れば結果がわかるのにどうして躓くの?みたいな感じと同じなのかな?過程すっ飛ばして結果だけ頭に浮かんだら、そら説明できないと思うけど。

まあ、ちゃんと綺麗に出来たし、今は別にいっか!お昼にしよ!!

テクトの耳がピンっと立った。ごめんね待たせたね!!


<ルイのすぐ切り替えられる所、良いと思うよ>

「なやんでても、おなかはふくれないからねー。とりあえず、もくてきはたっせいできたんだし、つぎはごはんだよ!」


びみょーな臭いが消えた今!小部屋でお昼作れるね!

何にしよっかなー。鶏汁はなくなったから、野菜をどう食べるかになるんだけど。普通にサラダにしよっか。ゴマドレッシングの味が恋しくなってきた!

カタログブックにカット野菜って言ったら出てきたよ。スーパー各自のカット野菜シリーズがずらりと。だから私はどれだけ色んな店で買ってるんだって言うね。

あれか、一時期どの店どの袋が一番お得感があるか気になって、毎日1つの店の全種類買って比べた時の記憶かな。結局、種類がありすぎて、お得感うんぬんよりもその日食べたいサラダに合わせて買うのが一番!って結論になったなぁ。千切りキャベツだけは量が多いところ優先になったけど……私は何をしてたんだろう?若気の至りかな?


<ルイが食に関しておかしいのはいつものことでしょ?>

「あははー、ひていできなーい」


でもなんとなく、きょとんと首を傾げたテクトの頬を摘まむことにする。むにー!



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