異世界転生してそれから

1.目覚めは聖獣と共に



<おーい、起きなよー>


ぺちぺち、柔らかい何かに叩かれて意識が浮上した。うううーん。なんか、変な夢見たー。お願いだから、あと5分寝かせて目覚まし時計……


<僕、めざましどけいっていう奴じゃないんだけどなあ……>

「んー……」

<っていうか、こんな場所でよく無防備に寝れるよね。ある意味大物?>

「わたしは、どこでも、ねれる、もーん……ん?」


私今誰と話してるの?

意識が急激に覚醒した。目を開ける。視界が黒からクリーム色になった。んん?

クリーム色が動いて、綺麗な緑色が私を覗き込む。ぼやけた焦点が合ってくると、それがなんなのかわかった。うさぎ?リス?みたいな生き物が私をじっと見ている。額に光る赤い石が眩しい。


<やっと起きた。おはよう、ルイ>

「あ、うんおはよう……って、え?だれ?」


床から体を起こす。何か痛い……やだ、私石畳に直で寝てたの?そりゃ体が痛くなるわけだよ。

私が寝ていたのは、小さ目のホールくらいの部屋だった。壁は全部石レンガ、等間隔に飾られてる松明がゆらゆらと灯ってる。雰囲気のある部屋だなぁ。じめじめしてるし。あ、あっちに廊下がある。反対側にも。廊下のど真ん中にこんな小ホール部屋作ったの?地下っぽいけど、不便そう。

きょろきょろ見回すけど、このよくわからない生き物以外、誰もいない。


<もう、失礼だなぁ。僕だよ。僕がずっと君に話しかけてるの>


頭に直接響いてくるような少年の声と同じタイミングで、小さい手を胸に当てるクリーム色の生き物。んんん?


「君がしゃべってるの?」

<そう、僕だよ>

「……口うごいてないけど」

<僕のスキル、テレパスって言うんだ。頭の中で会話できるんだよ>

「わあおファンタジー……」


試しに何か好きな言葉を頭に思い浮かべてごらんよ、と言うので「アップルパイ」と考えた。さくさくのパイ生地にしっとりたっぷりあまーいリンゴ煮。たまらないよねぇ。


<あっぷるぱい、っていうのが何かわからないけど……余程好きな食べ物なんだね。君の心に、幸せな気持ちがいっぱい溢れてきたよ>

「うん。アップルパイはほんとにさい高で……って、」

<テレパスの事、理解できた?>

「あ、はい」


食べてる瞬間まで想像したのも幸せな気分に浸ってたのもバレバレじゃないですかぁ!やだぁ!食い意地張ってるのばれた!!疑いようがない!!テレパスってすごい!!私の事はバレてるのにそっちの気持ちは私に伝わらないのは何でかな!?半端ないなスキル!!

クリーム色の生き物は腰に手を当てて、私を見上げた。小さいなぁ。小型犬よりちょっと小さめ?リスよりは大きいよね。可愛い……


<さてルイ、目が覚めたなら状況を把握した方がいいね。まず転生の流れから外れた話だけど……>

「てん生……って」


転生って死んだ人が生き返るやつだよね、じゃなくて!

やっぱり私死んだのかー、でもなくて!

死んでも私の意識残ってるってどういう事、とは思うんだけど!

転生先ファンタジーだなぁ、ってなるけどその前に!


「ぱっと見でてん生してるってわかるの!?」

<小さい体に収まりきれない大きな魂。不釣り合いだもん。わかるよ。前世の記憶を持ったまま転生する人は、時々いるんだよ。世界を越えるのはなかなかないけどね>

「たましい!?そんなの見えるの!?」

<これでも聖獣カーバングルだからね。聖獣は本質を見通す目を持ってるんだよ>

「せいじゅうすごい!」


さらにファンタジーきたぁ!カーバングル!召喚で有名な可愛い子だ!なるほど納得!そりゃ可愛いわ!!

本質を見通すとか、なんかあれだね!悪い人が色々取り繕って騙そうとしても、てめぇらの悪事全部お見通しよ!!って出来るやつだね!うん!ごめんなんか変な表現しかできない!


<ふふ。まあ、そんな認識でいいよ。それより、落ち着いてきた?>

「ん?」

<状況を把握した方がいいよ、って僕は言ったね>

「うん」

<まず、自分の手を見てごらん>


手?何で?

ぐーにしている手を上げた。ん?なんか、小さい?もみじのはっぱ、くらい?


<足を見てごらん>


……なんか、短い……てか、靴、小さい……


<何でもいいから喋ってごらん>

「何でもいいって、そんなむちゃぶりとつぜんすぎる、よ……」


……あれ?よくよく聞いてみたら、妙に、舌ったらず、ですね?


<鏡あるよ>


さっとカーバングルが出したのは手鏡だった。顔ぐらいしか映りきらないそれでも、よくわかった。

小さなカーバングルとの距離が妙に近く感じたのも、いつもなら流暢に喋れる言葉がうまくできないのも、体が軽いのも、そうだ。だって体は縮んだし、舌はうまく動かないし、体重だってすごく減った。

鏡には、ぷにぷにふっくらしたほっぺの女の子が映っていた。


「わたし、こどもー!?」

<だいたい5歳くらいかな?君が無理矢理輪廻の輪から出なければ、こんな事にはならなかったんだけどねぇ>


異世界転生って大人のまんまなるんじゃないの!?うわーん!!

わー!?と頭を抱える私に、冷静に突っ込むカーバングル。そういえばさっき小さい体に大きな魂って言ってたもんね!!私のまんま転生したわけじゃないんだ!!うわーん!もう!もうもう!輪廻って何!?夢にも出てきたぞそのワード!!


<輪廻って言うのは、死した魂が生前の記憶をすべて落として、新たな生命に転生する事。新たな生命が人生をまっとうし、死ぬ事。それを繰り返す事象を輪廻の輪って言うんだ。ちなみに君は魂が浄化されないでそのまま転生の流れに乗せられたみたいだから、本来なら赤ん坊から安全な場所で安全な人生に転生できたんだよ。前世の記憶持ちで>

「なんてこったい!」


って事はさっきのは夢じゃなかったの!?うわー……あんな紐なしバンジー落下もどき体験、本当にあったんだ……

でも私、その流れ?って言うのから出ようなんて思ってなかったよ。目を開けようとは思ったけど。

と伝えると、カーバングルは頭を抱えた。


<転生の流れに入ってる時に意識があるのが、もう問題だよね>

「えー、そんなのどうしたらいいのよ。わたし、目はとじてたけど、ずっとおきてたもん。おちるかんじがするまで」

<じゃあやっぱり神様の不手際じゃないか。ちゃんと寝てるかどうか確認してない!>

「かみさま?って、だれ?」

<会った事ない?輪廻に入れる前に選別したって聞いたけど>


輪廻?輪廻に入れる?って、それ。

間違いない!厨二病の奴じゃん!!


「あああああああ!!そいつ!!わたしがじこにあったのに!へんなこと言ってた人!!」

<まあ変な人ってのは否定しないけど。でも納得した。ルイが全面的に悪い訳じゃないよ。本来なら、死んでから転生するまで、等しく命は意識がない状態でなければならないんだ>


そりゃ、自分は死んだのかーって思いながら転生してく私みたいな奴がたくさんいたら怖いわ。


<それに記憶も綺麗さっぱりなくなるからね。意識を保ちようがないんだよ。で、意識があるまま転生の流れに乗ると、弾かれちゃうんだよね。この命は転生できないよって>

「何で意識があるとダメなの?」

<転生した後すぐ意識が芽生えちゃうんだよ。例えばだけど……鳥に転生したら、卵の中の最初の小さな細胞から意識があるって事になるかな>

「それはいしきあったらだめなやつ」


もしその状態で親から見放されたりしたら……絶望感にうちひしがれながら卵自体が死ぬのを待つだけになるんだろう。うわ、無理、怖い。

なるほどねぇ。それは転生の流れも私を弾くわ。


<で、どうして君がこんな地下迷宮にいるかっていうと。転生の流れから弾かれた君が、突然この安全地帯に生まれてしまったからだよ。流れた分だけの時間が巻き戻った体でね>

「……ん?」


また新しいパワーワードが飛び出してきたぞぉ……


「ちかめいきゅう……って」

<俗にダンジョンって呼ばれてる施設だね。モンスターがいたり財宝があるよ。人がよく潜ってるね>

「……あんぜんちたい?」

<ダンジョン内にあるんだよ。モンスターがどうやっても入れない絶対領域っていうのが。それがこの部屋>

「……モンスター、いるの?」

<いるよ。一番近いのはこの部屋の壁を挟んだ隣、グランミノタウルスかな>

「……異世界転生でチート、えっと、無敵な能力とか……」

<幼女の体に無茶言うね>


カーバングルに首を振られた。あ、ないんですね。わかりました。うん、うん……あはは……そうかぁ……


「これって死んだも同然じゃんかぁああああああああああああ!!」


転生してもすぐ死ぬとか嫌だぁあああああああああああ!!


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